弓使いの戦い方
コルリたちと対峙する。
1対6で数的不利。飛び道具がある分、間合いはこちらに分があるか。
相手に魔術師がいればそんな計算も意味がなくなるのであるが。
接近戦に持ち込まれる前に削り切る。そこがポイント。矢筒から矢を2本取り出し、魔力炉に魔力を集中させる。
向こうも屈伸などの柔軟運動をしている。臨戦態勢に入っている。相手の動きから想定するに一番奥にいる女は魔術師だろう。体というよりも深呼吸をして精神方面を整えている。早めに潰しておきたい。
「この戦いに勝った方が、その手袋を貰うというルールでいいよな」
コルリが嫌らしく笑う。
圧倒的な自信から来る余裕か。羨ましいよ。こっちはいつも綱渡りだから。
「もちろん、分かりやすくいきましょう」
「ああ。譲るから見逃してくれなんて言わないかヒヤヒヤしたぜ」
「心外ですね。ちなみに『見逃して』って言ったらどうなりますかね」
「ええ? 決まってんだろ……」
「逃がすわけないだろうがよ!!」
コルリの声を号令にして後ろに控えていた二人が地面を蹴り上げこちらに向けて駆け始めた。槍使いと剣士。それと同時に魔術師が詠唱を始める。一気に畳みかけるつもりか。他の3人に動きはない。
確実に倒したいのは一番近づいてきている左手の剣士。弓で相手するのはこいつ。
矢筈を弦にかけて引き絞る。狙うのはガードしにくい足元。動きを予測して、20メートル先にいる剣士の踵に向けて矢を放つ。
「狙いがバレバレだな」
狙われた相手は高らかに飛び上がった。視線が上に上がる。
それと同時に迫りくるもう一人の槍使いのスピードが上昇した。さらに奥では魔術師も魔術の発動のフェーズに移っている。
いい連携だ。こちらが弓で応対することを見越しての動きだろう。正しく初見殺し。
だが、一人で多数の敵を相手取るのは慣れていてね。こんな安直な連携は何度も経験している。
手に残る矢を素早く番え、魔力路に灯を点す。3人の捌き方が決まった。
魔術師が詠唱を終えたタイミングでサイドにステップを踏み、こちらと魔術師の射線上に槍使いの男が来るように移動する。
相手の魔術の発動を防いだことで余裕が生まれる。この隙に詠唱を始める。
「連なる垂氷・堅氷雪花(けんぴょう雪花)」
男とこちらの間に背丈以上の高さがある氷壁が2重に出現した。
「チッ、邪魔だ!」
これは牽制兼防御用だ。こちらの様子がわからなければ、魔術師も手を出しにくいはずである。今なら剣士と一対一だ。
再び剣士の方を確認する。高く飛び上がったため、まだ滞空している。しかし、ここから弓を引いても着地には間に合わない。それに体の正面に剣がある状態では、容易に防がれるだろう。意表をつかねばならない。せっかくの機会である。ここは見逃せない。
集中してみると、着地に備えて男が軽く左膝を曲げた。つまり右足から着地するということだ。体もわずかに左の方を向いている。踵を返したりしなければ左前方に進路をとるということだ。
弓使いにとっては苦手な方向ではある。可能性は非常に高い。
先ほどまでのスピード感から着地後の動作時間は演算が可能だ。
ならば。
狙いは着地点のまま、相手が地面に着いた瞬間、左腕を内側に動かし狙いを変え矢を離す。
男は予想通り、右足から着地し左前方に向けてノーストップで地面を蹴り上げた。
「なぁぁーー」
放たれた矢は吸い込まれるように男の右太股へと突き刺さった。その場に倒れこむ。
こちらはそのままの勢いで右手の槍使いを確認する。
氷壁を回り込んだ男は、倒れこむ剣士に気を取られており動きが止まっている。その後方には魔術師の姿が見える。こちらが見える位置まで移動しているようだ。だが、魔術を行使しようとしている様子ではない。彼女もまた倒れこむ仲間を前に呆気に取られているようだ。
ここで倒し切る。
矢を取り、弦に番え引き絞る。
「幾重に続く白銀の世界に 氷雪とどまることを知らず」
槍使いの周囲では吹雪はじめ、対流する雪が視界と身動きの自由を奪う。
その吹雪の中央に向けて引き絞られた矢を放つ。
「ぬぁぁっ」
矢が命中したようだ。さらに追加の矢を2本、3本と射かける。
再び叫び声が聞こえた。
「嫌だ! これ以上はやめてくれ!」
次の矢を放とうとしたタイミングで槍使いの男が降伏した。
左腕を外に開き狙いを魔術師に変更する。
目が合った。狙われていることに気が付いたのであろう。彼女は素早く詠唱を始める。
こちらはノータイムで矢を放つ。矢が彼女に届く瞬間。半透明の障壁が展開された。
防御されたようだ。もっとも、1小節の詠唱によって構築された魔術障壁である。破るのは難しくない。
矢を2本引き抜く。相手が次の魔術を展開するよりも早く矢を放つ。
飛び出した矢は1射目の矢が突き刺さる障壁のポイントのすぐ横に命中した。
障壁に亀裂が入る。
さらにもう一本の矢を番えて障壁の亀裂に向けて放つ。
矢が中った障壁は、三射目を受けると亀裂を中心にして瓦解した。
「そんな。もう一度……」
動揺している彼女にトドメをさすため新しく矢を放つ。
空を切る矢は、彼女の魔力炉があるであろう場所へと吸い込まれていく。詠唱は始まっていない。このタイミングでは魔術は間に合わない。




