中る弓、中らない弓
騒がしい声がする。
閉じていた目を開き様子を確認する。
そこには10人ほどの人影があった。彼らは示し合わせたかのようにローレンス学園の制服を着崩している。明らかに堅気ではない。
「どういうつもりだ、コルリ。邪魔をする気なら相手になるが」
「ほぉ。相手になるか。それはありがたい。しかし傑作だな。アンタがそれを言うとは」
「どういう意味だ?」
「知らないのかユースティアス。うすうす感づいてはいたが、なるほどな。自分に対しての危機感のなさといい、いつか足元を掬われるぞ」
「どういう意味だ。何が言いたい」
「バレないように頼んだつもりだったんだろうが、オレの性格を見誤ったな。恩は着せられるだけ着せておくたいぷだからな」
リアムの眉毛が吊り上がった。その後ろで何人かの男女が立ちあがった。
「勝手なことしてすいません。でも、あの新入生はどうしても俺たちで何とかしたかったんです」
「新入生というと、オトのことか。何かあったのか」
「何があったも何も、あの新入生はオマエと再戦するために探し回ってるんだよ。引き分けているんだろう」
「ああそうか。なら相手になるだけだ」
「あなたほどの人が相手をするのは間違っています」
「それでコルリを頼るか。情けない。プライドはないのか」
「忠実な奴らだと思いだとは思わないのか。そもそもオマエが新入生なんかに負けたせいで、陰口を叩かれ、どれだけ肩身の狭い思いをしたのか。あ~あ。愉快だ」
「フッ……知らないね。誰がどう思おうと自由だろ。気にする方が愚かだ。いいか、こんなヤツとは関わるな」
どうやらリアムと話しているのはコルリという人物で、コルリもグループを率いているらしい。
「キングか。勝手な野郎だ。もっとも今日は条件の交渉に来たわけだが。どうだ。オレが勝ったらタイマンしてもらおうじゃないか」
「勝手にほざいてろ。それでオトはどこにいるんだ? 決着をつけたいのはこっちもそうだ。それこそ由緒正しく決闘でな」
「テメえ。オレは眼中にないってか。そうだ。オマエは知らないんだなお仲間の子分が頭を下げたことを。見せてやりたかったぜ。そいつらが頭を下げているところを」
「下らん。それならコルリ、オマエは倒せるってことだな」
気分を害したのか、リアムはその場から立ち去ろうとする。それは認められない。せっかく見つけた標的なんだ。ここで取り逃がすわけにはいかない。
「おい待てよ。俺との戦いはどうなるんだ!」
闘技場の反対側から声を張り上げる。
一同がこちらに振り向いた。
「そんなとこにいたとはな。つけていた感じではないようだが」
リアムの発言にハッとさせられる。今の俺は全然臨戦態勢ではない。まだ傍観者だ。
深呼吸をして脈を整える。弓矢をいつでも使えるように矢を二本引き抜く。
距離はある。ここからなら最低でも二射は叩き込めるはず。その期待を込めた二本だ。
「相手になってもらうぞ! リアム」
「失礼なヤツだ。それなら……」
「待ってください。どうして分からないんですか」
「ですよ。こんなのおかしいです。それだけの価値があるのですか」
「これはずいぶんな言われようだ。かく言うオレも知らんがな」
「そうかよ。なら見せてもらおうか。オマエが勝ち誇る姿とやらを。それができたら相手になってやる」
「言ったな。二言は認めんぞ」
二人の中で話が進んでいく。話題の中心である俺を無視して。それは許さない。
「俺との勝負はどうなる?」
「コルリに勝てたら乗ってやるよ。そんな小物に負けてるようならオマエの剣はオレまで届かないさ」
興味がなさそうなリアムは背中を向けた。相手にされていない。噛みついてでも振り向かせなければ。
足場から飛び降りて闘技場の地面に着地する。砂埃が舞い上がる。岩盤のように踏み固められた地面だ。
距離は50メートル。完全に射程範囲内。
矢を弓につがえ、弦を引き絞る。複合弓は力をしなやかに内向し力を貯める。
リアムの後頭部に狙いが定まる。これは長年の経験によるもの。意識的に狙ったわけではない。ほぼ反射によるものだ。
緊張も迷いもなかった。自然と右手の握りが開かれる。
放たれた矢は甲高い音を上げながら一直線に飛んでいく。
中ると思った瞬間、横槍が入った。
「おいおい。俺たちを忘れられた困るんだが」
コルリだ。器用にも彼は手持ちの槍で弓を弾いて見せた。
さり気はないが高等技能だ。一瞬で手練れだと分かる。簡単には通してくれないようである。
相手にとって不足はない。
「なあリアム。こいつらを倒したら相手してくれるんだろう」
コルリの方を向いたまま、傍目でリアムの位置を確認する。
足を止めたリアムは、ボトムのポケットに手を突っ込むと、シワシワの手袋を取り出した。
彼は口笛を吹いて頭の上で手袋をひらひらさせる。
もう一度、矢をつがえて今度は手袋めがけて弓を射る。
この矢は外れることなく。手袋を打ち抜き、土壁に突き刺さった。
「勝負は次の土曜の放課後、13時。場所はそうだな。俺と貴様が初めて見えたところだ」
それだけ言い残すと、出口へと姿を暗ました。




