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地下闘技場

 弓を取り上げ手のなじみを確認する。体の芯から熱が全身へと伝搬していく。時間の経過とともに手のひらが湿ってきた。

 やっとこの時が来たという興奮と、勝負への恐れが入り混じる。間違いなくここ数か月で一番気合が入っている。

「命を懸けるというのだから当然か」

 その瞳には赤々とした灯がともっていた。


 戦いに赴く準備はできている。弓矢の手入れもしたし、短剣も研ぎこんである。加えて片手剣まで入手することができた。防具は一切ないが、装備品としては良くそろっている。

 俺は元来、弓矢を得意としている。正直な話、弓矢の腕前に関しては伝統的なエリートばかりのいや、剣に誇りを持つエリートであるがゆえに弓を忌避するこの学園の生徒ではトップクラスかもしれない。

 ゆえに弓の間合いであれば俺の領域だ。誰にも立ち入らせない。

 覚悟を決めて寮を後にする。

 

 目的地は地下闘技場とやらだ。カタコンベ的なものを改造したものであろう。場所は街の東部地区の地下に広がる空間の一部で、リアムは剣闘士で毎週日曜の夜に姿を現すそうだ。

 今日はあえて制服を着ている。うちの学園の生徒たちも普通に出入りしているようであるから迷ったらそれっぽいフリをして聞けばいい。


 建物の間の奥まった位置に大人の背丈ほどの怪しげな穴がある。あそこが入口だろう。駆け足で扉の前に移動し、そっと開いて中に入る。

 内側は地下への階段となっている。

 真昼だというのに照明がないため薄暗く不気味だ。

 だが尻込みしている場合じゃない。

 闇の中を一歩ずつ進んでいく。


 入口から離れるほど道幅はどんどん狭くなってくる。

「今度は三又路か」 

 やはりここも広い道を選択する。

 ここまでいろんな部屋らしき場所を通り抜けてきたが誰一人としてすれ違っていない。選択を間違っている気もするが、こればかりは方向音痴の勘としかいえない。

 

 道の途中で人の声が聞こえた。右の方に部屋があるようだ。息を殺して近づいてく。

 室内には二つの影があった。


「だから無理だよ。そんなことできっこない」

「無理なら分かってるんだろうな。こんな誰にも見つけてもらえなさそうなところで人生を終わらせたくはないだろう」

「分かった。だからそいつを仕舞ってくれ」

 物々しい雰囲気。はっきりとは見えないが光物を持って脅されているようだ。見ないふりはできない。

「ちょっと待てよ」

 声をできる限り太くして話に割り込む。


「だれだお前は」

 物騒な方の男の声が聞こえる。こちらを向いているのが分かる。もっとも部屋の中が暗すぎて相手の顔は確認できない。

「うるさいと思っただけだ。やるなら他所でやってくれ」

「他所でやる? お前がどこかに行きな!」

 男が拳を引いて殴りかかってきた。

 遅いな。

 半歩だけ横にそれて相手の鳩尾に膝蹴りを入れる。

 うめき声を上げて男は地面に倒れた。


 視線を無力化された男からもう一人の詰められていた方に切り替える。

「大丈夫かアンタ」

 キャラは保っていく。ここで舐められたくはない。

「あっ、ああ。助かったよ」

「ならいい。ところでアンタはこの地下のことに詳しかったりしないか」

「ここか。この街の地下路ならだいたい把握してる」

「地下闘技場と言われているとこに行きたいんだが分かるか? 野暮用があってな」

「ああ分かるぞ。案内しよう。命の恩人だからな」

 男が背筋を伸ばす。俺よりも20センチは背が高い。

「こっちだ」

 先導する男の後ろを背伸びしてついていく。声はもちろん背丈もどうにかしたいな。

 

 前を歩く男の足が止まった。

「ここだ。昼間はなローレンスの不良どもの溜まり場になっているんだ」

 道の先の方に光が見える。道の先には1メートルほどの段差があり、ぽっかりと穴が広がっている。闘技場かは分からないが直径50メートルほどの楕円形の空間がある。

 どうやら天井の部分に亀裂が入っておりそこから光が差し込んでいるようだ。


「ああ、ありがとう。助かった」

「そっ、そうか。何するのか知らないが若いんだから無理するなよ」

 男は視線を上下させその場から足早に立ち去って行った。視線が気になって足元を確認する。

「そういうことかよ」

 足元まで確認できるようになっていた。



 光を頼りに中にいる人を確認する。

 中には4人ほどの人物がおり、日曜日だというのに全員ローレンス学園の制服を着ている。内容までは分からないが、喋りこんでいるようだ。

 その中にはリアムの姿はない。いなくても不思議ではない。ここで張っていればいつか会えるというのは分かっている。

 闘技場を確認する。

 地下闘技場と呼ばれているように周囲を壁に囲まれ天井が地表というドームのようになっているようだ。場所にもよるがだいたい7メートルほどの高さがある。弓使いとしては少し圧迫感がある。

 壁をよくよく見てみると正面の壁の一部が不自然に抉れている。それも一方だけではない。右の方と左の方にも抉れた場所が何箇所かある。

 もしかして。闘技場に来た道を少し戻る。そうここら辺に……あった。

 そこには階段があった。足早に階段を駆け上がると、座席がありドーム内を一望できるようになっている。観客席というわけだ。

 椅子に腰かけて上の方から全体を眺める。リアムと戦うとしたら、これが最後の休息だ。

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