少女と老人
値札を確認しつつ自分に合う武器と防具を探す。
うーん。どれも高い。うちの故郷なら5万Zもしなさそうな籠手がセール価格で9万。
革製の籠手に10万。丈夫そうではあるが中古でこの価格。知り合いのエルフに頼めば、捕まえたジビエとの交換で作ってもらえるだろう。実質、罠代で済むことを踏まえるとね。
この価格、物価の違いもあるのだろうし一概には言えないが殿様商売である。
店員らしき人が先ほどからこちらに視線を送っている。本来俺のような人間は見向きもされないのだが、学校帰りで制服を着用しているため、営業すべきか迷っているようである。
制服ならどの程度の貴賤かは分かりにくい。
この価格をお値打ち価格にしているのは何となく察せられる。こっちも悩むよ。
ある意味で負けてもらった値段でこれだもんな。命をかけるものを負けてもらうというのも縁起が良くない。
買わない理由がある以上絶対に買わないだろうからな。
フラッと売り場を離れる。
「すみません、この籠手をください」
「まいど!」
「ありがとうございます。こんないい商品がこの値段で手に入ると思いませんでした」
「いえいえ。坊ちゃんは確かな目をお持ちのようですな。さすがはローレンス学園の学生さんだ。サイズの調整は……」
住んでいる世界が違うなと思いながら店を出た。
諦めず次の店舗を探す。鎧とかまでは求めない。最低限、剣だけでも欲しい。地下闘技場とやらがどのような施設かは分からない。
弓矢だけとか近距離では危うすぎる。
放課後3時間歩き回ったが収穫は一切なかった。
そもそも、中古の武器などを扱っている店が少ない。基本的に値段の高い新品しか売っていない。それに欲しているような物が見つかっても値段が合わない。予算の倍近い値段がかかるとなると躊躇してしまう。
「あれ、ここどこだ」
考え事をしていたせいで変なところに迷い込んでしまった。
生まれてこの方30年、方向音痴と共に歩んできたのだから今さら驚きはしない。それに城壁に囲まれたこの都市ならば、壁に沿って歩いていればいつか分かる道に出る。
もしくは、あそこに見える時計台を目指すかだ。時計台は学園の校門の傍にあるため、たどり着ければこっちのもんだ。
問題はどちらが寮に早く着くのかだ。あんまり時間がかかると門限に間に合わない。
中心から外れた地域には治安敵に近づかない方が良い所もある。中心に向かって行く方が良いであろう。
「ま~まぁってぇ~」
通りの奥の方から腑抜けた女性の声が聞こえてきた。
あれは、猫と女の人が追いかけっこをしている。
どうやら猫が鍵を咥えているようだ。建物の壁をつたい華麗に逃げ回る猫に対し、女性の方はワンテンポ遅れており捕まえられそうにない。
仕方ない。手伝うか。
大追跡の末、袋小路に追い詰めて猫を捕獲することに成功した。
「ありがとうございます。わざわざ追いかけていただいて」
息の上がり切っている女性は顔を真っ赤にさせながらも深々と頭を下げる。そんな大したことはしていない。俺は偶然通りかかっただけである。
なかなか時間を使ってしまった。しかもかなり奥まった場所まで来ている。走って帰らないと結構ぎりぎりの時間かも。
「いえいえ。良かったです。それではこれで」
その場を足早に立ち去ろうとする。
「待ってください! お礼をまだしておりません」
案の定というべきか呼び止められた。だがここで引き下がるわけにはいかない。
「日も暮れそうですのでこれで失礼します」
「お待ちください。せめてお名前だけでも教えてください」
「オト・ナナミヤです」
さすがにストックウェルとは名乗りづらかった。別にナナミヤと名乗っても戸籍的には問題はない。
「オト・ナナミヤ……素敵な響き。私の名前はリラ・クラークです。やはりアズマ族の方ですね。それも大陸ではなく島国の方のお名前ですよね」
「ええそうです。よくご存じですね」
「あちらの文化に興味がありまして。感激ですアズマ族の方とお話しできるなんて」
あー。これ長くなりそう。しかし無下にもしにくい。
いや、あまり気乗りはしないが、しっかりとお断りしよう。
「急いでおりますのでこれにて御免」
話の腰を折りながら足早に逃げる。
……それでどっちに行けばいいのかな。
「もしよかったら大通りまで案内しますよ。ついでにうちに寄ってください」
俺個人としてはご遠慮願いたかったのだが、このまま迷子になるというのも不味い。これは先行投資ということにしておこう。
「おじいちゃんただいま」
彼女は取り返した鍵で部屋のドアを開けると中に向けて声をかけた。室内は暗い。誰かがいるようには思えない。それに部屋の中に人がいるなら鍵を取り返すなんて真似をしなくても……
しかし、意外にも返事があった。
「おう。おかえりー。おそかったね」
どこか間延びした男性の声がする。寝ていたのだろうか。声がくもっている。
しかしそんな声も俺の姿を発見すると一気に変化した。
「おっ。そんな信じられない。ついにリラが彼氏を連れて帰って来た」
「ちっ、違うから。そんなんじゃないから。オトさんに失礼でしょ」
彼女はおじいちゃんの冗談を大慌てで否定する。なぜだか部屋の中が明るくなったように感じられた。
半強制的に席につかされ、これまでの経緯を簡単に説明する。一部、限りなく虚構が含まれているが、武具が欲しくて街の中を彷徨っていたこと。偶然彼女に会ったことなどを手短にまとめる。
「なるほど。それでこんなところに。今どきの学生は自分で道具を揃えるのか」
チェスターという名の老人は立派に貯えられたアゴヒゲを撫でながらフムフムと頷く。
部屋の中にはランプが一つ。3階の角部屋で窓はあるものの隣の建物が近いため日中でもそこまで明るくないのではないか。
「そうなんですよ。いろいろと大変で」
自分の嘘を話してみるとかなり無理筋なような気がしてきた。もう少しばれにくそうでそれっぽい理由があったのではないか。
そんなことを考え自省している間に話が勝手に進んでいた。
「ねえおじいちゃん。あれをあげたら」
「そうだそうだ。ちょうどいいじゃないか。持ってきてくれるかい」
チェスターの言葉を受けて彼女は立ち上がった。部屋の隅が物置になっているらしい。そこで何かを探しているようだ。
「あった! これこれ」
彼女は嬉しそうに何かを脇に抱えている。
「ええと、一体どうしたんですか」
「使えるかは分からないがちょっとしたものじゃよ」




