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一流の魔術師は使用している魔術さえも秘匿する

  体の内側に相手の魔力が入り込んでいるならば出し切ってあげればよい。そうすれば体の自由が戻るはず。原理は不明だが対処するなら早い方が良い。

 一番簡単で、確実なのは魔力を放出する方法。というより体が動かない以上はそれしか方法がない。


 丹田に力を込め、メインの魔力炉に灯を入れる。

「おっとと。なにをするつもりかな?」

 先輩は見世物を見物するかのような好機の目を向けてくる。こっちが何をしようとしているかぐらい分かってるんでしょ。

 真っすぐ相手の目を見て睨み返す。この一手ですべての計算を狂わせてやる。


 準備はできた。

「伏せた方がいいですよ!!」

 丹田で精製された魔力を全身に送り出す。

 足の裏から脳天まで全身を魔力を駆け巡る。

 体の中から魔力が抜けていく。机の上の紙が浮き上がり、衝撃が窓ガラスを揺らす。

「やるわね! 迷わず魔力放出するなんて……大胆じゃない」


 魔力をため込んだ魔力を消費仕切って放出が止まる。

「イタタ。頭がクラクラする」

 ごっそり魔力が抜けてしまったために魔力欠乏症を起こしているようだ。

 だが意識は残っている。

 腕を動かして頭を押さえる。


 うまくいった。右手が頭を押さえる感覚がある。

「だいじょうぶ。動いている……」

 その他の部位についても確認する。右腕だけじゃなく全身が動かせるようになっている。

 だがその代償に視界が狭くなっている。まるで貧血症状だ。今はまだ動かない方がいい。


「これはお見事です。まさか私の魔術を跳ねのけちゃうとはね」

 この先輩、どうして平静を保っていられるんだ。魔術を破られたんだ。もっと取り乱すか、次の手を打ってくるはずだ。

 俺がこんな調子だから余裕をかましているのだろうか。こっちは数秒もしないうちに動き出せるようになるというのに。


「次の策は何ですか? 何もしてこないんだったら、先輩のこと組み伏せますのでご了承ください」

 あくまでも通牒は渡す。さすがに敵意のない相手を拘束するのは申し訳なく感じてしまうからだ。

 この局面、先輩は降参してもいいはずである。普通の魔術師ならばそうするか逃げることだろう。しかし、俺の言葉に対して想定外の反応を示した。

「えー。それは困るな。どうしようかな~~」

 リアクションは何も変化していない。先ほどまでと同じである。

「先輩の魔術は破ったんですよ。その反応はまるで……」

「いいよ。君になら押し倒されてもいい」


 挑発的な発言。

 そこまで言うならこっちが攻撃しても文句は言えまい。

 両足に力を込め、背後を取るために高く飛び上がる。


「なっ!!」

 飛び上がったはずの体は先輩の背後を取るどころか、先輩の目の前に落下した。

 テーブルに打ち付けられた鈍い音が室内にこだまする。


 今の感じ、落下というよりも叩きつけられた。明らかに自然界の物理法則を無視している。

 痛みの広がる体をやっとの思いで起こし上げる。明らかに重い。先ほどまでと同じ魔術をかけられるに違いない。

 これまでの過程から判断するに外部から魔術を受けているということだ。つまり、魔力を放出したこともさほど意味がなかったということになる。

 重力を操作したのか。それなら今の現象も説明できる。でも、それでは説明できない現象も実際に体験している。

 

「ねえ、口付けて」

 先輩は手の甲を俺の前に差し出す。

 脳の処理が追いつかずにポカンとしたのも束の間。俺の手は先輩の手を受け止め、空色のマニュキュアが施された手にキスをしていた。


 そんな……。体の支配を奪われたのか。

 でも、どうやってだ。無詠唱の魔術でそんな強力な魔術が使えるというのか。

 しかも俺の腰には魔術に対しての耐性を上げてくれる短刀が差してある。無詠唱の魔術はまず効かない。


 まずます混乱する俺をよそ目に先輩は意地悪い笑顔を浮かべる。

 そして手を振りほどき、前かがみの体勢でゴソゴソと机の下で腕を動かしている。

 生地のこすれる音がする。

「そろそろ分かったかな」

 そう言う彼女の手には右足のブーツと靴下が握られていた。

 そして大胆にも右足を机の上に乗せたのである。

「舐めていいよ。舐めてみたら分かるかもね。分かってもしてもらうけど」

 

 彼女の言葉に導かれるように、手と同じ色のペディキュアが塗られた足の方に顔が近づいていく。目線を上げると彼女の見下ろす表情が確認できる。

 まったく意味の分からない原理・現象に思考を放棄したくなる。でも事実としてそんなことが起こっている。

 それでもふり絞って分かっていることを整理する。


 まず、彼女の体からは魔力が漏れており、魔術を使っているということ。これは彼女に近づいたおかげで分かった。

 そして、俺の体を強制的に動かすほどの強力な魔術であるということ。ただし、精神や思考方面には影響を与えていない。

 何より純粋に外部からの魔術によって行われている。まるで操り糸で操られているかのようだ。

 外部から魔術にかけられているならば魔術抵抗を高めれば良いのであるが、さっきの魔力放出のせいでそれも怪しい。

 これほど強力な魔術を打ち破るような叛魔術を行使できる魔力が残っているのか。これ以上魔力が減ると本当に動けなくなるかもしれない。


 どうもこうにもさっぱり分からない。

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