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防戦一方

 彼女は肩を回しながら徐々に近づいてくる。

「そうそう、あたしエスターって言うんだ。エスター・オバノン」

「エスターですか。名前なんて名乗ってどうするつもり?」

「あれあれアズマでは自分の名前を名乗ってから戦うものだと聞いていたんだが」

 名乗りのことを言っているのだろうか。確かにアズマ族の中でも特に極東の島国では口上を述べる文化があるそうだが。それを意識してのことというわけか。

 でもどこで知ったのだろう。調べないと分からないような話だと思うのだが。

「初めましてオト・ストックウェルです。オトと呼ぶか、発音できるのであればナナミヤでもいいですよ」

「知ってる」


「そもそも初めてだろ? 自分と同じスタイルの相手と戦うの」

「同じ? それってどういった」

「ああそっか。無理もない。地に刻まれているというわけ。もっとも意外性はないけど」

 判然としない。対してあちらは、こちらの反応さえも織り込み済みといった様子で薄ら笑いを浮かべている。

 わかんない。もしかしたら、あの表情含めてすべて演技で俺を混乱させるためにやっているのかもしれない。そうだとしたら何も恐れることはない。ないのだが……


「わかんないの? 受ければわかる」

 力強く地面を蹴り上げたエスターは、なめらかな動きで間合いを詰める。

 スピード感はない。体が上下せずに無駄のない動きで迫ってくるため距離感がバグる。

「ソイヤッ」

 スマートな右ストレートが飛んでくる。

「なっ」

 見た目、想定よりもパンチングの威力が強い。パワーを吸収し切れていない。

 エスターは反撃されないことを見越していながらも、さらに左ストレートを加えてくる。


 間合いを取るためにバックステップをとるが、しかし、回し蹴りで間合いをつぶしてくる。腕のガードが吹き飛ばされる。

「どうした! 反撃しないのか!」

 隙ができたところに左足からのかかと落としが飛んできた。

 ガードが間に合わずに体を大げさにそらす。眼前をローファーが掠める。

 鈍い音がして地面が抉れる。


 煽りながらも追撃が止まった。舐めてるようにすら感じる。いや舐めている。

 いまだに腕がヒリヒリする。折れている感じはしないが軽く麻痺している。

 ムチのようなあの蹴りを腕で受けていたら大変なことになっていた。

「大変だよな。体が小さいって」


 エスターがこちらを見下ろしながら言い捨てる。今の言葉は俺にかけられたにしては違和感がある。

 抉られた地面を再確認する。地面に足が刺さっているのだが、履かれている靴は厚底。

「結局、勝負はパワーだろ。体格が悪いとそれだけでパワーで劣ってしまう」

 体格……。パワーで劣る……

「なるほど、そうですか」

 ようやく分かった。彼女の言葉の意味が。でも本当にまさかだ。初めて会った。

「すごいですね。先輩かなり努力したんでしょ」

「分かったということか、嬉しくないね。でも気に入った」


 対峙する彼女の雰囲気がさらに変化した。殺意的なものは薄まったが、好戦的な敵意が比ではないほど強まった。

「ここからは何でもあり。体が動かなくなるまでやろうか」

 ガードをしつつ間合いを詰めてくる。

 こちらもガードを上げて動きを読む。右か左か。

 いや足だ。エスターの右足が俺の足を払いのける。反射的に飛び上がる。上に飛んだ俺のことを追いかけるように彼女の重心がガードが上に上がった。そのガードに向けて正面から蹴りを入れる。


「フンッ」

 こちらの蹴りは当然ガードされた。しかし、全体重をかけた蹴りに相手の重心が後ろに下がった。

 着地するなり、足全体で地面を蹴り上げて追撃に移る。このまま押し倒す。

 間合いに入ったところでワンツーを叩き込むために腕に力を込めると、下方からエスターの蹴りが迫ってきた。バク転で攻撃してきたのだ。

 躱し切れずに彼女の足に捕まると、とんでもない力で回転方向に投げ飛ばされた。

「そんなばかな!」

 どんな腹筋・背筋をしているんだ。


 受け身も取れず地面にたたきつけられたところ、空から彼女が迫ってきた。

 組まれた手が顔をめがけて振り下ろされる。その攻撃をすんでのところで身をひるがえして回避する。

 土埃が飛んでくる。見た目に反したあり得ないパワー。もしも腕ではなく、リーチの長い足であったなら躱せていない。

「きゃはは。いい反応」

 向こうが笑っているすきに上体を起こす。

「当たったらただでは済まないですよ」

「知ってる」

 呑気なことに攻勢だというのに追撃してこない。しかしマジで危ない。あれが直撃していたら顔面が陥没するどころの騒ぎではない。本当に生死にかかわる。

 容赦せず本気でやる気なのだ。


「よっこいっしょ。にしても良くよけるな」

 立ち上がった彼女は、かぶった土を払いのけながら不敵な笑みを浮かべた。

 相変わらず余裕そう。攻撃する機会を見す見す捨てていることからも……

 いや本当に余裕なのか。

 どうしてチャンスで攻撃しない? こちらからの攻撃を待っているとかか。

 違う。きっとそうじゃない。

 あれだけの威力の攻撃をして無傷のはずがないじゃないか。


 そう思うと余裕ぶっているエスターも手や左足を庇っているようにも見えなくない。

 実際がどうであれやっと見つけた勝機。逃さない。


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