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難敵

「見いつけた!」

 前方には3つの影。登校時間だというのに校舎とは反対の校門に向かって歩いている。間違いないヤツらだ。

 俺の声が聞こえたのだろう。3人の足が止まりこちらに振り替える。男2名に女1名。体格は向こうの方が一回りか二回り大きい。


「お前。ああ、お前がオトか」

 中心にいた女性が敵意を向けてくる。確定だ。それなら話しは早い。

「とりあえず向こうで話しますか」



「それでいったいどうして声をかけてきたわけ?」

 物陰に行くなり女性が本題に切り込んできた。

「それはこちらの言葉ですね。あなた方こそ用事があるのではないですか」

「オマエなぁ」

 男の一人がガンをつけてくる。


「まあいいじゃないか。実は奇妙な噂があってな。なんでも赤い文字で『リアム・ユースティアス、学園に来たれ』っていう張り紙をあっちこっちにしている輩がいるらしい」

 もう一人の男が柔和さを取り繕った声で尋問してくる。だがしかし、利き手であろう右の拳がしっかりと握られている。

 答えを間違えれば拳が飛んできそうだ。誘導に乗る必要もないためその拳を振り上げさせないことは難しくない。


「へえ、不思議なことをする人がいるもんですね。人間暇だと意味の分からないことを始めるものですが、それはまた」

「おいおい舐めるなよ! 張り紙をしていたのは黒髪の男で学園の制服を着ていたという話だ」

「それはまた。でも黒髪の生徒なんて一人ではないですからね」

 カミングアウトしてもいいが、あくまでもはぐらかす。

 向こうが害意を持っていることは明白。焦らしてこちらに有利な状況を作る。


「いや、この学園に黒髪の生徒なんて片手に収まる程度しかいない。しかも男となると二人だけ。その一人がオマエだよ」

「ほう。そうですか。それでそのもう一人には聞いてみたのですか?」

「しらばっくれるか。立場が分かっていないようね」

 徐々にフラストレーションが溜まっているのが感じられる。もう一押し。

「すみませんね。難しい話は分からなくて。僕、忙しいんで失礼します。用事がないならこれで。思い出したら話しかけてくださいな」


 3人にくるりと背中を向けてその場から離れていく。これぐらいが限界だ。釣り針を垂らした。

 ああ怖いコワイ。

 全身の神経を尖らせる。


 10メートル離れただろうか。背後から小走りで芝を踏みしめる音が聞こえてきた。

 やはり来るか。

 足音、気配ともに一人分。さすがに三人は難しいからな。これはラッキー。

 5メートル……3メートル……5歩、4歩、3歩、2歩――――

「しゃらあっ!!」

 気合のこもった叫び声が聞こえた。

 分かってるさ。


 素早く身をひるがえし腰を落とす。

 向こうのドロップキックが頭上を掠めていく。大方の予想通り、一番イライラしている男か。

「派手やな」

 思わず感想がこぼれた。

 それと同時に膝に力を込め、後方に回転するように飛び上がる。

 地面を蹴り上げた体は毬が跳ねるようにポンと飛び上がった。腹筋に力を込めて頭上に向けて右足を振り上げる。

 振りあがった足は見事なもので相手の後頭部に直撃。オーバーヘッドキックが炸裂した。


蹴り上げられた男は着地姿勢を取らずに地面に叩きつけられる。

「いっ痛ってぇ。ああーーーー!!」

 どうやら石頭ではなかったようだ。頭を抱えて地面の上をのたうち回っている。


「おい! 大丈夫か」

 反対方向から叫び声がする。

 わざとらしく声の方を睨みつける。2人は唖然に取られている。

 その光景がおかしかったのか。思わず破顔した。

「なに、なにがおかしいんだ」

 もう一人の男がたどたどしく言葉を捻り出した。

 女の方は何も言葉を発さない。呆気に取られているのか? 多少の疑問点はあるが場を支配しているのは俺だ。気にせずに押し切っていい。


 右手を突き出し拳で手招く。このハンドサインでも伝わるだろう。

「調子に乗るな」

 男の方が釣れた。

 互いに素手での正面からのぶつかり合い。安定感を持って勝利を狙うのであればやはりカウンター狙いだ。

 走りながら拳が振りかぶられる。あまり迫力がない。少なくとも喧嘩では一人目の方が強かっただろう。

 初撃をバックステップで回避する。

 相手はバランスを崩すも、振り向きながら飛び蹴りをかましてくる。

 うーん。スキが大きい。喧嘩の戦い方だ。実戦経験はないのだろう。

 こんな感じならば余裕で倒せてしまうんだけど。

「ちょこざいな」


 気合を入れ直したのかスピードが上がるものの更にスキが大きくなる。

 だいたい予想できているが相手の力を知っておきたい。あえて攻撃をガードしてみる。

「よし、と」

 パンチを受けてみるが予想通りの威力。十分にいなせる。

 失敗した。これなら最初に倒しちゃった方を残しておけばよかった。きっと彼の方が強かっただろうし。


「なんだよ。どうして反撃しない」

「今からやるさ」

 相手の懐に入っている。腕のスナップを利用して相手の鳩尾みぞおちに裏拳を入れる。

「うぐっ」

 カウンターを受けて体が仰け反った。間髪入れずスキだらけの右脛を蹴り上げる。

 体勢が崩れた。ガードされないことを見越して左ストレートを心臓に打ち込む。

「あが……」

 もう一発と思ったところで相手が地面に倒れこんだ。


 あらら。立っていたら頭をつかんで地面に叩きつけていたんだけど。すんなりと倒れてしまった。

 こんなにあっさり倒れてしまうようならば、このまま放置しても反抗されないだろう。これで二人倒した。残るは一人。

 最後の一人と目が合う。

 彼女はつまらなそうに腕を組んでいる。読めない。何を考えているんだろう。

 何も言わずに見つめていると、組まれていた腕が解けた。手を開いたり閉じたりして、指のストレッチをしている。

 何度か繰り返した後、感覚を確認し終えたのか満足そうに鼻で笑った。


「やるね。動きに無駄がない」

 予想していない反応。一歩ずつこちらに近づいてきている。

 これまでとは違う。明確に敵意が込められている。先ほどまでとは違う。すでに倒した二人とは持っている気配が違う。

 最初のヤツをレベル20、二人目をレベル15だとしたら彼女の強さはレベル50。格が違う。

 最悪の想定が脳裏をよぎる。もしかして謀られたのか。

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