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動き出した敵

因縁の相手と決着をつけるために動き出したオト

相手の尻尾を捕まえるため奔走する

 あの男を倒す。覚悟を決めれば行動は早い。

 陽が明けたタイミングで寮の裏口からそっと抜け出す。

 左手には赤い文字で書きなぐられたノートの切れ端。肩には半弓を背負い、腰には弓の入った矢筒を下げる。ただし、周りに布をかけることで中身ははっきりしないようにしている。

 これらは急襲に備えての命綱である。攻撃を受けても弓矢であれば距離を取りながら戦うことができる。

 それにリアムは正面からやりあって勝てる相手でもない。スピード・パワー・スタミナいずれも向こうが上。対策を立て、こちらが命をかけて勝率が2割か3割。

 策もなしに相手してよい輩ではない。それも相手に先手を取られたとすれば致命的。接近戦でのリカバーは希望薄。間合いをコントロールするための弓と矢だ。


 決して当てがあるわけではない。学園に来るのも不定期でどこに住んでいるのかも不明。しかしこの街にいることは確か。歩いていればいつか鉢合うはずである。もちろんそんな偶然だけに頼るほど能天気でもない。これもすべて考えあっての行動だ。

 それでも今月中に見つからなければヴォイテクあたりの教員にでも聞くかしよう。変な噂が立つのは不本意であるがアビゲイルに知られる前に片を付けるのであれば構わない。

 すべてを片付けた後であれば、すべてを打ち明けて叱りの言葉でもなんでも、彼女の言うことを聞こう。だからこそ、これだけはやらせてもらう。


「見つからないか」

 空を見上げる。今の太陽の位置であれば朝の7時になりかかるぐらい。そろそろアビゲイルが動き出す。一端、寮に帰らなければならない時刻だ。

 ここから寮に帰るのには歩いて30分近くかかる。城壁に囲まれたこの街は、一歩裏口に入ると迷宮へと変貌する。俺だって細部は不明で20パーセントと把握していない。

 比較的大きな道に出て、空き家となっている建物の壁に左手に握られた紙を貼り付ける。


 リアム・ユースティアス、学園に来たれ。


 血と紛うような赤々と書かれた文字は仰々しく物々しい雰囲気を出している。

 これで良い。戦うならば広いところ、学園の土地か城壁の外でなければならない。そうじゃないと周囲に怪我を負わせかねない。

 胸を張って学園の生徒であると名乗るためには彼との決着はマスト。地道だが確実な方法を取るしかない。もっとも、こちらからの奇襲が成功できそうな時にはこっちから仕掛けるが。

「待ってろよリアム」



「さいきん朝早起きだよね」

 目をこすりながらアビゲイルが呟いた。

 多分、何気なく聞いたに違いない。しかし、今の俺をドキリとさせるには十分すぎる発言である。

「朝活に目覚めてね」

「それはどうして急に変わるなんてどんな心変わり?」

 相変わらず眠たそうではあるが、誤魔化せたらいいんだけど。

「いろいろかな。これまでの言動を振り返ったら反省しないとなって思って」

「そうなんだ、いろいろ考えてるんだね」

 おっ、いけたか。意外にもあっさりと引き下がった。これはラッキー。もしかして俺にかかわる変な話を聞いて探りを入れているのかと勘ぐったがそんなことはないようだ。

 そもそも彼女にそんなテクニックはないか。きっとストレートに確かめてくるだろう。心配して損した。


「実はわたしも考えていることがあってね。大したことじゃないんだけど」

「へえ、というと?」

「うんとね。でも相談するような話しでもなくて、もしかしたら贅沢な悩みかもしれないから」

「そっか。アビーも大変なんだね」

 アビゲイルは思わせぶりな態度をとる。アドバイスを欲しているようにも感じられる。

 しかし、彼女個人の問題に俺は立ち入るべきなのだろうか。彼女自身の選択を尊重してあげるのが正しいあり方のような気もする。

 何とも難しい問題だな。



 教室が騒がしい。何だろうか。

「ねえオト」

 教室の入口に入ると一人の学生が駆け寄ってきた。

「どうしたのそんなに血相を変えて」

「逆にどうしてそんなに余裕なの。君は」

 雰囲気からしてただ事じゃない。内容は分からないが、面倒な話をアビゲイルには聞かせたくない。

「ミラ、こっちで話を聞くから」

 彼女は一瞬、驚いたかのような反応をしたものの静かに俺の後ろを付いてくる。

 その後ろには呆然とした様子で立ち止まっているアビゲイルがいる。目線が合うものの、気にせず前を見据える。


「わたしも付いて行っても」

「すぐに戻る」

 背中越しに聞こえた彼女からの問いかけに一言で返す。振り向いたりはしない。ここで止まれば、彼女はしつこく付いて来ようとするだろう。

 しかし、それは俺の望むところではない。

 ミラを誘導して一路屋上を目指す。今の時間であれば、屋上には誰もいないはずだ。聞かれたくない話をするのにはちょうど良い。


「それで話しというのは?」

 屋上の扉を閉め、ミラと二人きりになったことを確認した上で本題を切り出す。

「今日の朝、教室にリアム・ユースティアスから言葉を預かったという人物が来て。それであなたのことを名指しで探し回っていたのよ」

「それで、それだけだったの?」

「それだけって!……」

「他に何か言ってなかったの」

「特には。でもまた来るでしょうね。あの感じ」

「そっか。それでどんな感じ人の人だった?」

「この学園の生徒、同級生よ。でも見たことがないから、1とか2とかのクラスの学生だと思う。そうね、派手な赤髪のショートヘアでスラックスを膝の上まで捲り上げていたわ」

 手がかりとしてはその程度か。いや十分。見つけ出して詰問する。


「ありがとう。それだけ分かれば大丈夫」

「ねえ、分かってるの? 彼がどんな用件で近づいてきているのか」

「なんとなくね」

「なんとなく……そんなことで」

「心配しないでとは言えない。で迷惑はかけないから」

「そう。分かった。オトに何を言っても聞かないものね」

 呆れ顔のミラは諦めたように首を横に振った。本当にすまないと思う。


「アビーにはこのこと」

「分かってる。ごまかしておくから」

「よろしく頼む」

「この後はどうするつもり?」

「ホームルームまでの時間で一応探してみる」

「必ず時間までに戻ってきなさいよ」

「任せてくれ」


 そう言い切るなり屋上から地上に飛び降りる。建物は3階建て。着地さえ失敗しなければ安全な高さである。

 さてと。リアムと関わりがある人物が素直に学校で授業を受けるとは思えない。きっと校門の方に向かっているのだろう。

 必ず捕まえて話を聞き出してやる。

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