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暗中模索

「ねえアビー。行ってあげなよ」

「行くってどこに?」

「決まってるさ。友達のところだよ」

 アビゲイルが頷かずに立ち上がる。分かってくれたか。


「オトは? オトも行こうよ。オトだって友達でしょ」

 この子分かってないわ。わざと? わざとなのか?

 

 どうしてここまで空気が読めないのだろう。過保護に育て過ぎたのかな。

 彼女は俺を除いた兄弟とは結構年齢が離れている。その影響もあるのだろう。周りから可愛がられて大切に育てられてきたのだ。


 まあ贔屓目抜きにしてま普通に可愛いし。誰だってそのような対応になるだろう。でもここはあえて少し大人な対応をするべきか。

 そろそろ反抗期に突入するはずだし、俺だっていつまでも傍にいられるわけではない。

 ……何より、今の俺の近くにいるのは余りにもリスクが大きい。


「ごめんねアビゲイル。実は俺先生から授業の準備手伝いを頼まれていてさ、一緒にはいけないんだ」

「ふーんそっか。そうなんだ」

 アビーはこちらを見下ろしながら鼻先を触っている。

 嫌な予感が過る。

 しっかりしろ大丈夫だ。彼女はチョロいんだから。きっと納得してくれる。


「それって誰? ハリエット先生? それとも違う先生?」

 かーっ。どうしてそんなに突っ込んで聞いて来るのだ。そのような事実はない以上、適当にかわすしかない。

「そうそうハリエットとか、ベルナールとかヴォイテクとか」

「怪しい~~」

 鋭いな。さらっと流してよ、いつもみたいに。

 駄目だな。このままではボロが出る。仕方ない。逃げよう。


「という訳で僕は参ります。それじゃあ寮で、帰り道気をつけて」

「ちょっと待って……」というアビーの声を無視する。そして、そのまま教室から飛び出る。これ以上詰められても嫌だったし。


 しかし何かしらの証拠は作らないといけない。先生には極力頼りたくないが、学生に頼るなんてなおさら論外だ。

 そんなこと言ってる余裕があるうちはまたマシなのか。

 それでも万が一に備えて自力で何とかしなければ。

「誰にも迷惑を掛けないようにしなきゃ」



 取り敢えず今は教職員用図書館に隠れることにしよう。あそこなら専門性が高い学術書ばかりなので学生はほとんどいない。

 そういえば魔術書の写本を作るバイトをしばらくしていないぞ。

「俺の学生生活どこで間違えちゃったんだろ」



「オトが隠し事するのなら私はそれでもいいよ。でも原因は教えてよ。ちゃんと直すから」

 言葉とは裏腹に全然良くなさそうなアビー。

 結局、俺が寮に帰ってくるなり取っ捕まって質問攻めにあっている。

 俺だって誠意を見せて「全てが解決したら話すから」と言っているのだかその言葉では納得していない様子。


 折り合いがつかず、話は平行線のまま就寝の時間まで来てしまった。これはこれで嫌な展開。

 きっと今日のところは寝落ちエンドなのだが、明日になれば同じことを繰り返すことになる。

 彼女はガンコなところがあるから明確な答えが得られるまで諦めないだろう。


 そのパターンで最悪なのは、俺の問題に彼女を巻き込んでしまうことだ。あいつの目がアビーに向かないとは限らない。何か彼女を保護できるようなところがあればいいのだか……

 早い話が、権力を笠に着て欲しいのである。

 ここは、ハリエットとの交渉になるだろう。アビーたちに危害が向かうリスクと天秤にかければ、先生に頼りたくないとか言っている余裕はない。


 あとは学生に頼るか、例えばアルノート・ストックウェルとか。あの先輩なら人が良さそうだから助けてくれるに違いない。

 難点があるとすれば、彼がストックウェル家の人間だということか。

 もしくはシャーロット先輩。王族であるあの人の庇護下に入れば手を出すのは非常に困難になる。

 肝心の当人が何を考えているのか分からず、裏がありそうな気もして安安と頼れないのが難点だが。

 でもそのようなタイプはきっちりと利害の一致をはかれば上手くいくかもしれない。その交渉材料がないんだけどね。


 うーむ。頼り乗る学生は厄介な感じだ。やはり教員。あとは、ヴォイテクとかかな。


「ねえ、オト聞いてるの?」」

「聞いてるさ。きちんと」

「そう。それならいいよ」


 一人で解決するのであれば、実力行使が伴うことになるだろう。あの性格からして話し合いはほぼ不可能。

 やはり確実なのは報復できないほどのダメージを与える方法。


 手段は……。夕食で食したものが食堂を逆流する感覚がした。

 息の根を止めるか。

 ああ、いくら俺たち学生が貴族の身分を擬制されているとはいえ、殺人はアウトか。

 でも俺はその選択肢を候補として捨てられていない。


「ヤバいな~。これは」

「ねえチョット! 今聞いてなかったよね」

 アビーは優しく怒る。相手の感情を閉ざさせないため、こういうタイプが一番怖い。


「聞いてたよ」

「分かった。そしたら明日からは、ずっと一緒にいるから。登校も下校も一緒だよ」

 何? いつの間にそんな話をしていたんだ!

 それは普通に駄目だ。今朝だって登校を狙われたんだから。わざわざ相手に弱点を紹介したくない。


 何とかして断らなくては。

「いやそれは無理だよ。ほら、先生から手伝いを頼まれているんだって。朝も早いし、夕方も忙しいからね」

「大丈夫。私も手伝うから」

 開いた口が塞がらない。ますます窮地。とりあえず明日はめっちゃ早起きして学校に行こう。

「分かった。ともかく今日はもう寝る。明日に備えて」

「おやすみなさい。明日はよろしくね」

「お休み、アビー」

 少なくともこれで先生に頼ることは決まったな。

 なんて言ったらいいんだ。

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