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新たなる道と旅人の剣士

「けちょんけちょんじゃん。もっとうまくできなかったのかよ?」

「はいそこ、気にしてるんだろうからそんなこと言わない。私的には及第点だよ」

「とにかくお疲れ。寝てていいよ。あとは僕たちがやってくるから」


 頭の中から変な声が聞こえる。動と千と秋だろうか。久々に声を聞いた気がする。目を開ける。しかし、彼らの姿は逆光でよく見えない。辛うじて見えるのは3つの影・・・・一つになった。途端、視界は再び真っ暗になった。


「まだ・・・・立てるのですか」

「いや~あ、ごめんね。見苦しいもの見せちゃったですよね」

 飄々とした態度の少年を見て唖然としているリリー。倒したと思った相手が立ち上がったのだから当然の反応だ。

「失礼ですが、頭ぶつけちゃった? 大丈夫ですか?」

「うんうん。大丈夫だ。問題ない」

 そこにいる少年は、笑みを浮かべて頭をかいている。その姿はあまりにも不気味であった。先ほどの調子とは違いすぎるのだ。


「それくらいにして。それ以上は怪我じゃすまないよ」

「そうだぞ。それくらいにしておけ」

「頑張ったじゃない。あなたが強いのはみんな分かったから」


「私もここは棄権するのが良いと思いますよ」

 だがその男はそれらの声を一蹴するかのように一言呟いた。

「笑える。誰も分かってないんですね」

 その言葉を聞いて会場は静まり返った。


「分かるですか? そんなボロボロになってまで戦って何を得るというのです。あなたが棄権しないなら私がします」

「駄目ですよ。今からなんですから。少なくとも満足できてないんですよね。勝つまでとは言いませんから付き合ってもらえないですか?」

「何を言っているのか分かっているのですか。理解できないですよ。勇猛と蛮勇は別なものですよ」

「そうかもしれないですね。でも、審判の方は終了を宣告なされてないですし、まだいけるんですよ」

「独りよがりです。独善的です。それでは誰もあなたの傍にいたいとは思いませんよ」


「新たなる道を行くものは常に独り」

「えっ?」

「孤独だろうと私には関係ないんですよね。星座占い的にそうみたいですし、一人旅も好きですので。それよりも早く剣を抜いてよリリー」

 言葉を聞き。諦めたように彼女はゆっくりと剣を引き抜く。緊張の色は隠せていない。だがそれにはお構いなしの様だ。彼も臨戦態勢に入る。

「うん。それでいい。それじゃあ────出番だ、細雪」



 目が覚める。見知らぬ天井だ。どうやら、仰向けで寝ているようである。慌てて体を起こす。

「ここは・・・・」


「やっと起きたみたいね。調子はどうかしら?」

 聞いたことのない女性の声。やはり見覚えのない部屋で寝かされていたようだ。全身が悲鳴を上げている。リリー先輩に倒されて気絶してしまったのだろう。

「悪くないですよ」


 頭がはっきりとして来た。俺が戦った後にアビゲイルとブレアが戦ったはずだ。どうなったのだろうか。

「ところでアビゲイルたちはどうなりましたか? 怪我とか負っていませんか?」


「え~とね」

 軽めに話を振ったのだが、話相手の女性は悩んでいる素振りだ。もしかして深刻な怪我を負ったのか。

「それよりも自分がどうなったのか覚えてない? 何が起きたのか」

「それはどういった意味ですか」

「なるほどね」


「加減ができなくてちょいと強く吹っ飛ばしすぎたみたいだな。すまんかった」

 カーテンの裏からヴォイテクが現れる。なぜか分からないけど謝られている。全く理解が追いつかない。浦島太郎になった気分。どれだけ寝ていたのだろうか。


「今って何時ですか。どれほど寝ていました? ここどこですか?」

「今、夜の10時よ。ざっと、12時間。ちなみにここは医務室で私はグレーテ。学園では医務を専門に担当しているわ。あんまり仕事増やさないでね」

 あー。お世話になりそう。直感がそう告げている。


「そうそう。あなたの妹には寮の門限があるから帰ってもらったわ」

「そうそう。お前の妹、かなりごねて大変だったんだぞ」

「そうそう。もしかして一人で帰らせたんですか?」


「いや、俺が送って行ったよ。お前たちサイモン寮に住んでるんだな。それじゃあ遅刻するよ。兄弟5人そろって随分と辺鄙なところに入寮したな」

 辺鄙なところ・・・・ですよね。おかしいくらい学校まで遠いもんね。招待状もらってたから何も疑問を抱かずに入寮したけど、もっと考えるべきだった。これが今日得た最大の教訓だ。遅い時間だ。すぐに帰らなければならない。


「遅くまで付き合ってもらったみたいでありがとうございます。それじゃあ僕は・・・・・・」

「帰っても寮には入れないぞ。サイモン寮は門限厳しいから」

「えっ。そしたら野宿ですか」

 いや、シャワー浴びたいんですけど。汚いだろうし。


「ここに泊ってもいいわよ」

 マジで? ベットは正直こちらの方が上だ。魅力的な提案ではある。シャワーさえあれば。

「でも、体汚いですよ。ベットとか汚れるかもしれないですし」

「シャワーあるわよ。あとパジャマも」

「お世話になります」

 さらに俺は一つの教訓を得た。それは。

「医務室って良いところですね」


「居座らないでよ」



 俺は今、教室の前にいる。ここが俺の戦場だ。ファーストコンタクト的な? ヤバい緊張してきた。覚悟を決める。

「おはよー」

「・・・・・・・・」


 うん? 返事が来ない。心機一転と行きたいところなんだけど。おかしいな、クラス間違えたかな。入り口の看板を確認する。


「1年5組・・・・だよね」


 何にも間違えていない。どうしたんだろう。チラチラ見ている人も含めてクラス全員が注目しているんだけどな。不審者になった気分だ。しかしまだ未遂犯である。まあいいや。

 時刻は7時半。登校が8時だから時間的にはまだまだ余裕がある。教室中を見渡す。アビゲイルはまだ来ていないようだ・・・・それよりも俺の席どこだ。初めてだから分からない。


 仕方なく入り口の傍にいた女の子に声をかける。

「初めまして、オトって言います。よろしくお願いします」

「えっ・・・・あっ、ごめんなさい」

 フレンドリーに話しかけたのだが、何か言葉にならないことを発して走って教室から出て行った。さらに視線が俺に集まっている。何もかもぎこちない。俺は犯罪の実行犯にランクアップした。


「はい、オト君こっちきて」

「あっ、バレンタイン先生おはようございます」

「ハリエットです。つべこべ言わずに来てください」

 突然現れた担任に首根っこ掴まれて強制連行される。しかも片手で。凄いパワーだ。そういえばサインもらってないじゃん。やる事が多すぎる。俺の学戦生活はこうして幕を上げたのだった(一回目)。

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