表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/103

元竜騎士の生徒指導

 そんなできごとがあったのが昨日。そして現在は、昨日の事件とほぼ同時刻の学生指導室。

「目撃証言もあります。リアムとつかみ合いの喧嘩になったみたいですね」

 頭を抱えているのはハリエット。うちのクラスの担任である。この学園では歴史学を教えているが元竜騎士というスーパーエリートだ。


「そう悩まないでください。老けちゃいますよ」

「誰のせいでこうなったと思っているんですか。はあ」

 ハリエットは深くため息をつく。本当に大変なことのようだ。俺のような無能な学生を担当しているというのはちょっと気の毒になる。

「大変ですね。クラス主任って。ヴォイテクに頼ってみたらどうでしょうか? あの人グタグタしたこと好きそうですし」

「ええ、好きですよ。見ていることが。ヴォイテクは笑いながら何もしないです。そもそも主任って大変な仕事を年配の先生はやりたがらないですからね。それだから若い人に押し付けられるんです。」

「先生って若いんですか?」

「っ! これでも25です!」


 ハリエットは大きな目をパチパチさせている。孔雀色の澄んだ緑の瞳の中に戸惑いの色が出ている。こちらとしても先生のことを20代前半と思っていくらいだ。の逆に驚く。

「本当ですか!? てっきり22くらいかと思ってました」

「ちょっと、どうして若返っているんですか。てっきり30歳ぐらいって言うのかと思いました」

「それはないですね。それこそヴォイテクが先生のこと小娘だとおっしゃってましたから」

「じゃあどうして『若いんですか?』なんて聞いたの?」

「そりゃあ若くないからです。俺たちからしてみれば22でも2倍近く生きていますからね」

「確かに……」


 おかしいな。そう言われたら元気になると思うんだけど。どうにも浮かない表情をしている。元気出してもらいたいな。

 腕を伸ばしてハリエットの顔を右手で触れる。

 あっ……。無意識のうちにハリエットにボディタッチをしている。違うんです。そういうつもりじゃないんです。慌てて左手もハリエットの両方の頬に触れ、軽くポンポンとたたく。

 ハリエットは混乱の表情を浮かべている。ええとどうしよう。

「そんな貌をしないでください。先生の素敵な顔が台無しですよ」

「待って待って! いやおかしいでしょ。どうしてそんなキザなセリフが出てくるんですか。そういった教育をしているのですか?」

 ハリエットがすごい早口になってまくしたてる。この反応、誤魔化しが通じなかったのか。それ以前に……もしかして。

「慣れてないんですか。こういったこと」

「関係ありません! そういうことをするあなたがおかしいんです」


 結構強烈に否定された。でもここまで拒絶反応的なものを出すものだろうか。もしかして。

「すみません。怒らせてしまうとは思いませんでした。まさか先生がそうだとは思わなくて。俺が言えた義理ではないですけど」

「怒っていません。……そうだとは思わないって何ですか?」

「えっ、それはまあ口には出しにくいんですけど」

「ここまで言って隠しますか? そこまで口に出したのですから教えてくださいよ」

「ええでもまあ、そうしたら。素直に先生が卒業式をしたことないという事実が意外だっただけです」

「卒業式?? 私これでもローレンスのOBですよ。あなたの先輩です」

「あっ、はい。失礼しました。今の言葉は綺麗に忘れてください」


 うーん。先生本物ではないだろうか。だってこの学園の出身で騎士爵を持っているって高学歴エリートなわけだし、妖精さんであってもおかしくはないのか。

 それこそ俺だって、魔法使いになるような気がするし。あんまり人のことをどうこう言うのは良くないよね。

「分からないけど。しばらくの間は、できる限りで良いので職員控え室でも私の研修室でもいいですから、教員の目が届く範囲にいてください」

「それまだどうしてですか」

「あなたが喧嘩を売ったのは誰か分かっているんですか? リアムですよ。リアム・ユースティアス。ご存じではないんですか?」

 知らない。そもそもリアムなんてハイセンスな名前の人とはあったこともない。しかし、有名人なのだと言うことはよく分かった。だからといって何もないけど。

「知らない子です。すみません田舎の方出身なもので」

「そうですか。普通の学生は、姿を見ただけで逃げていくものなのですけど。それよりもまさか、一字一句同じ言葉を聞くとは思いませんでしたよ」


 懐かしそうに左上を見つめている。でもどこで今の言葉を聞く機会があったのだろう。どこか嬉しそうである。良かった。やっと笑顔になった。

「同じ言葉ですか。田舎出身の知り合いの方がいるんですか」

「いますよ。それこそ……それこそあなたのような人でした。言動もそっくりだなあと思ったままです」

「誰ですかその人。めっちゃ気になります」

「さて誰でしょうね。君が私からのお願いを守れたら教えてあげても良いかな。案外知っている人だったりするかもしれませんよ」

 どうしよう気になるな。大人しくしていようかな。

「分かりました。頑張ってみます」

「気をつけてね」

「そういえば僕。今週の日曜日まで放課後少し忙しくて」

「予選を勝ち上がったんですもんね。大丈夫です。私もお付き合いしますから気にしないでください」

 そこまでするのか。というかリアムという人物が明確に差し迫った危険といえるということでもある。つまり、ほぼ確実に報復を受けるということである。やだやだ。先生に迷惑をかけてもいけないからささっと立ち去ろう。

 荷物をまとめて出口のまで立ち止まって一礼する。ハリエットが右手を振ってバイバイと返事をしたため、こちらも手を振って答える。


「本当に似てる。彼とは変な記憶しかないんだけどな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ