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二流の技術、三文役者

「おーい、クライド。君はまだ付き合うつもりなの?」

「はぁっ? 付き合うって何に」

 よしよし、食いついた。クライドが反応したぞ。有力馬であるカスパージャックがポジションを上げれば、マークしている馬も上がっていく。そうすれば全体のペースが速くなって後ろでレースを組み立てている俺たちが有利になる。

 うまく乗せられれば俺のノルマ達成。できなければ地獄の追い上げが待っている。


「スローペースでレースが流れてるけど、カスパージャックは大丈夫? 明らかに退屈しているじゃん。このままだと走る気をなくしちゃうよ」

「本当か?」

「本当だよ。それにこんな遅いペースで走らせてると、前残りで決まるよ。掲示板なんて載れるはずがない。もっとポジションを上げていかないと」

「お前の狙いは分かった。俺に上がらせて前崩れさせようとしているんだな。セコい。俺は騙されない」

 まあ気がつくか。さすがに良い馬に乗っているだけある。仕方がない、こちらも多少のリスクを取るしかない。


「残念だよ。君とは決勝で一緒に走りたかったんだけど。ねっ、ロフト!」

「えっ……そうそう。よし僕も前に行こうかな」

 ナイス! 心の中でガッツポーズをする。実力馬で圧力をかけることができれば確実。

「ハイハイ。前開けて」

 手綱をしごいてスピードを上げていく。ランサーの馬体がカスパーにぶつかりカスパーがかかる。

「おいっ、ああ分かった。行けばいいんだろ。カスパーやるぞ」


 カスパーが加速し、マークしていた他の馬も加速していく。展開が動く。


「ここで、オトのスプリングランサーが仕掛ける。それに加わるようにカスパージャックがペースを上げたぞ。この選択は吉と出るか凶と出るか? 勝負は残り5ハロン。あと1分弱で最後の決勝進出者が決まります」


コーナー直前で中段までポジションを上げた。そろそろいいか。

 そっと手綱を引き絞り減速しながらコーナーに切り込み、ポケットにランサーを滑り込ませる。対照的に減速しないカスパーたちは先頭馬たちに並びかけた。

「クライドおまえら……」

 後ろから押された番手馬と先頭馬の馬体が重なり速度が上がった。3コーナーを抜けきる前に加速するのはキツいはず。前半楽をしていた分のハンデを帳消しにできるはずだ。


 前方の馬たちが馬場の外側に流れたおかげで中段勢が内側に進路を取ることができた。いよいよ直線に入る。

 騎手たちのムチが飛んでラストスパートに入る。500メートル強の直線。芝の状態は非常に良い。ランサーのアクセルを一気に踏み込む。一瞬の間がありランサーが反応する。

 ランサーが本気で加速していく。さすがのパワー。他馬より上だ。これだけの力があればすべての馬をマクりきれる。

 進路を外目に取りながら馬群を捌く。馬同士の間隔が広いため最低限の移動で前をルートを開拓できる。俺に対して有利に働いている。

 内側にいる中段の馬をかわし、外にいる先頭勢に襲いかかる。現在7番手。あと2頭。



「オトなんとかなりそうね。ですよね先生」

 顔の表情を手で隠しながらミラが溢す。興奮が落ち着ついたようで良かった。

「そうですね。ランサーの性格的に言っても5着以内には入れそうですね。最後まで分からないのが競馬ですけど。ベルナールはどう思われますか」

「馬とのコミュニケーション力は未熟だが、レースに関しては及第点じゃないか。相手に助けられていることもあることも否定できないが。無理をすればこのレースでも1着を取れるだろうな」

 以外。私の見立てだとオトが優勝すると思うのだけど。常に馬の面倒を見ている人だと見えている物が違うのかな。


「無理をしないとダメなんですか。今の走りを見ていると余裕で突き放せそうですけど」

「そうだね。オト君、彼はあまり多くの馬に乗ってきていないんじゃないかな」

「それはその通りです。地元では殆ど一頭の馬を専門にしていた感じでした」

「そうだったろう。馬乗りの技術もあれば、レース経験も積んでいるように見受けるけど、きっと馬の多様性を知らない感じがしてね」

「経験。それを積むといいことがあるの?」

「プロの馬乗りになりたいのであれば、いろいろな馬に乗って経験を積まないと、自分の予想を超える走りをする馬がいることが分からないからな。今回も経験を積んでいれば、仕掛けをあんなに早くしなかったはずだよ」

 ベルナール先生は、厳しいことを言いながらもどこか楽しそうであった。



 ラスト200。先頭馬たちを追い抜かし、先頭を走るカスパージャックに馬体を合わせる。このまま一気に抜かす。


 あれ……抜かせない。抜かす直前でランサーがトップスピードにのってしまったようだ。現在はハナ差でカスパーが前。あと少しなのに。予想外の粘りだ。

 ラスト100メートル。あと一完歩、いやあと少し首を伸ばせば抜かせるはずだ。はずだけどその数センチが出ない。どうして、こんなとき師匠はどうする。どうすればいいんだ。

 ラスト50メートル。ダメだ。変わらない。俺には何もできないのか。

「なっ……」

 内側から蹄音が聞こえる。視線が後方に移る。

「――リファレンスキングだと」

 飛び込んできたリファレンスキングを含む3頭でそのままゴールに飛び込んだ。


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