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天才魔術師の一流魔術と凡才魔術師の唯一の武器

 火の手に包まれたソフィアのことをウンディーネらしき水の妖精が守っている。魔力消費の大きいだろう魔術をよくもあそこまで使えることで。自信をなくしそうになる。

雪氷(せっぴょう)

 こちらも気休め程度に氷属性の魔術で火の手を弱める。嘘、微妙に涼しくなるだけだ。気持ちの問題。火傷を負うことに違いはない。この魔術はバグが生み出しているようなものなので、少しでも呪文を変えると発動しなかったりする。

「雪華」

暑い。まあ、そういった理由で改良の利かない欠陥魔術なのだ。


「しかし、どうなっているのだ。どうしてオト選手は火属性の魔術を展開したまま氷属性の魔術を仕えているんだろう。ヴォイチェフ先生解説よろしいですか」

「パス。魔術は専門の先生に聞いてください」

「そしたら私が。二つの魔術を同時に使う方法はいくつかあります。予め魔術をセットしておき、条件発動させる条件詠唱か術式を用いる方法ですね、要するに魔術炉を使わずに魔術を使えばいいんです。そしてもう一つが、一つの詠唱に二つの魔術を混ぜる混交詠唱です」

「なるほど。ところでオト選手が使っているのは・・・・・・」

「・・・・それがどちらでも無いように見えるんですよね」

 その通り。どちらでもないが正しい。魔力の()()も平凡な俺の唯一のセールス・ポイント。魔術の知識のある間の良い人なら気がつくだろう。ただ、勘が必要なのだ。常識で考えても気がつけない。その点、ソフィア先輩は優秀である。


「なるほど。あなたは副魔術炉持ちだったんですね。分かりましたよ。それなら私の動きを止めるための氷属性の魔術を使いつつ、火属性の魔術も使うことができますから」

 その通り、手品の仕掛けが分かれば大したことはない。メインの魔術炉で火属性の魔術“業火の炎”を使い、サブの魔術炉で氷属性の魔術(無詠唱)を使ったのだ。この副魔術炉、珍しい物なのでよく売ってと言われる。・・・・のだが非売品である。金じゃないんだよ。


「これままでは勝ち目がないですね」

 ソフィアの雰囲気が変わった。時間はある程度稼げた。上々だ。ここをやり過ごせば一気に勝ちにつながる。


「──────星の大地に実りあれ 女神ナントセルタ 御身がわざを示したまえ」

 彼女が詠唱を終えると、室内であるにも関わらずパラパラと雨が降り出した。そして次の瞬間。

 バケツをひっくり返したかのような大量の水が降り注いできた。宣誓略式だ。これは不味い。その激しさに立っていることもままならない。魔術で氷柱を出しそれに掴まる。


「話にならない!」

 思わず声が漏れる。膝の高さまで浸かったと思えば、腰までさらに背の高さまでどんどん水かさが増していく。呼吸ができなくなり手を離す。ソフィアは、水の上に立ってこちらを俯瞰している。すでに彼女の思惑通りの展開ということだ。

 彼女が出した水は渦を巻き、水の中に、中にへ押し込まれる。水上までたどり着けない。溺れる! 本気を出されたら勝負にならないということなのか・・・・・・。


 いや。こうなれば一か八かだ。全ての魔力を注いでやる。水の流れに体を預ける。全身のエネルギーを丹田に送り込み、魔力炉をフル稼働する。いくぞ!! 溺れる覚悟で詠唱する。

「────私が統べるは、閉ざされし国。すべてが等しきこの世の楽園(はかば)。氷の大地に生者は不要、あらゆるモノは死に絶えるのみ。


 俺の魔術は渦巻く水を一気に凍らせていく。次第にその体積は広がっていき、それに合わせて渦の回転も遅くなっていく。魔力が少なくなり意識があやふやになったが、ギリギリのところで水上を漂う氷の上に避難できた。


「ありえない。あまりにも暴力的な魔術だ」

「ええ、知恵も工夫も感じらない」

「でも、絶望的な状態から切り抜けてみたぜ」

「その通りです。実戦で生き残るのは彼のようなタイプでしょう」

「ユリエは、さっきの試合を見て完全に興味を持ったみたいだな。残念ながら俺が先に唾つけておいたから」

「関係ないわ。拳よりも剣の方が強いことを知らないとは言わせないわよ」

「はいはい。いいとこなんですから盛り上がらない。いよいよ、試合は見せ場だ。このままオト選手が落としきるのか、それともソフィア選手はまだ奥の手を隠しているのだろうか!? 試合は最終局面だ!!」


 攻略されたことに驚きを隠せない彼女は、魔術を解いた。水上から地上まで一気に落とされた。膝を使い衝撃を吸収して着地する。降りた場所、ここは場外だ。早くリングに戻らなければ、審判のカウントが始まる。

「あれ・・・・」

 おかしい。膝に力が入らない。・・・・一気に魔力を使いすぎた。頭も痛い。

 膝から崩れる。駄目だ。歩けない。カウントはスリー。最後の悪あがきだ。


「霜天に映えるは垂氷の雨霰」

 ソフィアの頭上に6本の氷柱が現れ、そのまま落下して襲い掛かる。氷柱を出せるのはこの本数が限界。これ以上は意識が持たない。


「火雲」

 火をカーテンのように広げ、落下物を燃やしていく。冷静な対応だ。これは敵わない。だが、もう一つの仕掛けはうまくいったようだ。


「うっ」

 突然の衝撃にソフィアはよろめく。それもそのはずだ。雪つぶてを諸に受けたのだから。実は、今も二種類の魔術を使っていたのである。副魔術炉を用いた無詠唱こそ俺の十八番だ。一矢報いれて満足なのだが、なぜか嫌な予感がする。分からない。でも、何かが起こる。


 雪玉をもらった彼女は、被弾部を庇いながらこちらとの距離をとるためリングの中央より後ろに下がっていく。そう、そして事件は起こった。


「痛っ!」

 年齢相応の少女の声を上げて彼女は、リング上で腰をついたのである。突然のことに、誰しもが驚いている。転んだ本人であるソフィアもすぐさま立ち上がろうとする。しかし、膝を抱え、右足に力を込めた途端。再び倒れこんでしまう。何が起きているんだ。


「寛解・・・・わが傷を癒せ・・・・祝福あれ・・・・・・」

 回復魔法系の呪文を繰り返す。ダメージを負ったのだろうか。一体いつの間に。魔術痕があるような気が・・した・・・・?


「エイト、ナイン、テン・・・・」

 そんなソフィアを気にしながらも俺のカウントは進んでいく。足は棒になったように動かない。10秒を超えた以上、俺にできることはない。ただ、カウントを聞き遂げるまでだ。

「セブンティーン、エイティーン、ナインティーン・・・・・・そこまで」

 カウントが終わる。敗北の宣告だ。


「勝者、オト・ナナミヤ」


「なっ・・・・」

 驚きを隠せないのは俺だけじゃない。会場全体がその不思議な判定に疑問を持っている。その雰囲気を察したのか審判の先生が口を開いた。


「ただ今の試合は、ソフィア選手がダウン後十秒以内に立ち上がることができなかったことによるノックアウト負けになります」

 淡々とした口調で同じ結果を繰り返す。副審の先生も時計を見せて判定の正しさを担保する。確かに言われればそうかもしれない。でも、どうしてソフィアは立ち上がれなかったのだろう。さっきまでは元気だったのに。今でも足を押さえている。

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