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僅差圧勝

競馬で負けたシャーロットと話すオト。

勝ち鞍を上げたシャーロットはオトに……


「昨日は仕方がないよ。あれはシャーロットが上手かったんだから。不可抗力です。ドリームもオトも頑張りましたよ」

「そう思うんですけど納得でないんです。いえ、シャーロット先輩が上手いことは知ってましたよ。でもあんなことされちゃうと何のために馬に乗ったのかわからなくなりますよ。」

「格上相手に4着はすごいですよ。斜行もあったし、シャーロットにやられたのも仕方のないことですよ。強いて言えば負けたのは私ですから」


放課後、下宿に帰る前にベルナールの厩舎に寄る。そこでユリアの指導のもとフィリアにブラッシングを施す。フィリアは俺がお世話をしているロバである。馬術の授業では他の人たちが馬に乗っているのを尻目にフィリアで参加している。

 俺が参加しているのはCクラスという授業レベルが一番下のクラスであり、周りもポニーに乗っているため授業中はそこまで浮いていていない。機嫌さえ損なわなければ乗り心地も最高である。


 ブラッシングされるフィリアは心地よさそうにウトウトする。なんかなぁ。この間までは広く開放感があると思っていた厩舎だったが、今日に関しては狭く感じられる。天井が降ってきそうで怖い。夕暮れ時だからかな。2着取れたよな昨日。

「あそこまで見せつけられると、メンタルきますよ」

「私たちはあの馬が一番強いことを知っていたから良かったけど、オトは分からなかったよね」

 ユリアはベルナール厩舎の調教助手的の仕事をしている。ユリアにしても自分が面倒を見ている馬が、学生の管理する馬に負けたというのは思うところがあるのだろう。先ほどから昨日の競馬の話しかしていない。

 何も知らないフィリアは呑気に優しく鳴き声を上げる。ああ、お尻ね。今やるよ。なんかなぁ。


「ただいま、あれ? どうしたの2人とも? なんかいつもみたいな覇気がないよ」

「ブレアお帰り。大したことないよ。それよりランサーは元気そうだね」

 厩舎に戻ってきたブレアはユリアの補助を受けてランサーから降りる。ユリアはフィリアの隣にランサーを繋ぎ、ブレアにブラッシングの手ほどきする。

 ブラッシングされるランサーは気持ちよさそうにあくびをする。呑気なのが一人と一頭増えた。


「ランサーは元気なのかな。ずっと走らないで草をんでいたけど。これでいいのかな?」

「いいんですよ。ランサーはおじいちゃんなんですから。速歩ダクを踏ませるくらいにして、労わるくらいでちょうどいいんです」

「ふーん。そういえば、シャーロット? に会ったんだけど、オトと話したいって言ってたよ」

 先輩が俺に会いたい? これまた不思議だ。ほとんど接点なんてないのに。強いて言うならば昨日負けたくらいだ。ただ勝利を自慢するようなタイプには思えないし、良く悪くも自慢するような勝ち方はしていない。


「なんで会いたいの先輩は?」

「それはわからないけど、馬を散歩させていた先輩とすれ違ったんだよね。そしたら、オトと話したいことがあるって。30分くらい前かな」

「今なら厩舎にいますかね。個人所有馬の厩舎はあそこの建物ですよ」

 ユリアの指先には一棟の建物がある。確かに厩舎に見える。それも貴族の館にあるような立派な厩舎だ。偶然だが俺も先輩に聞いてみたいことがある。帰りに寄ろうかな。

「行っていいですよ。フィリアの相手は変わるので今日は帰っていいですよ」

「ありがとうございます。よろしくです」

 フィリアの首筋を叩いて別れを告げる。呑気なフィリアは無反応。やはりロバだ。

「僕も行きたい」

「ダメです。ブラッシングの途中ですよ」

「えーー、走ってないから大丈夫だよ」


 急に騒がしくなった厩舎を後にする。今の俺にここは似合わない。


「ちょっと、コズってるかな。無理しないように」

「青草と濃厚飼料のバランスが悪いのかもね。飼料を減らしてください」

 1分ほど歩き目的の厩舎に到着した。

 こちらの厩舎スタッフには大人ばかりだ。先ほどまでいたベルナール厩舎とはそこが違う。あちらの厩舎は関係者の年齢は若い人が多かったが、こちらは20代の人ですら見当たらない。ベテランスタッフが多い。

 場違いな気がして厩舎の外を回って別な入口を探す。すると馬を水洗いしているシャーロット先輩が見つかった。こっそり柱の影から覗き見る。急にソワソワしてきた。


「おい少年、そんなところで立ち止まるな」

 背後から声をかけられて慌てて移動する。声が聞こえたのかこちらを向いたシャーロット先輩と目が合った。今どんな顔をしているだろう。とにかく覚悟を決めないと。笑顔を作り、ゆっくり歩き出す。


「先輩この馬は昨日の……」

「そう私が乗っていた馬。名前はネレイーリア。4歳の牝馬ね」

 名前を呼ばれたネレイーリアが反応する。賢そうな顔をしている。初めて見る俺にも警戒心が無いのか緊張する素振りを見せない。1着になった後も息が上がっていなかった。常に余裕を醸し出している感じだ。

「近くで見てもいですか?」

 先輩はもちろんといった様子で頷く。そっと体の横に回り込む。腹回りには目で見る限り余分な脂肪がついていない。脚回りにも欠点が見つからない。これだけの馬に触る勇気がないため細かいところは確認できないが一見して完璧に近い馬体だ。


「いいですね。これなら昨日の結果も納得ですよ」

「あれは偶然だよ。最後オト君が乗っていたアスペンドリームが斜行しなければ、私の負けでした。結果こそ4着でしたが、馬質で考えれば4着は健闘しましたよ」

 シャーロット先輩は俺を無理に讃える。片腹痛い。馬質ではない。プロの騎手が昨日のような乗り方をすれば騎乗依頼がなくなるだろう。あまりにも見苦しく致命的なミスが多かった。俺のミスが無ければドリームは2着だった。


「ミラが乗っていれば2着でしたよ。昨日のミスはヒド過ぎましたドリームには素質があると思います」

「素質は……そうかもね。でも君と私とでは半馬身も差がなかったわけだから、ミスは気にしなくていいと思うけど」

 冗談だ。先輩は馬に負荷をかけ過ぎないようにしていた。端からクビ差で決着するよう調節して走らせていたから僅差になったのだ。敗因があるとしたら競走中にアクシデントに巻き込まれることぐらいだった。だからこそ安全策で馬場の外目を走らせていた。

 “僅差圧勝”という言葉がある。正しくそれだ。


「次やったら負けちゃうかも」

「止めてください。先輩が言っても説得力がないですよ。たとえ馬を交換しても俺が負けます。なんせ私には馬につかまっていることさえできないんですから」

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