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激しき森の王者

 衝撃を和らげることができずに左半身を起点にそのまま派手に倒れこむ。時速40キロで走るロバの上から投げ出されたのである。子どもの体でなければ怪我をしていただろう。こればかりは助けられた。


 グルルルル。


 ウルスノアの唸り声が聞こえる。怒っているようだ。


「ウソでしょ。冗談が通じなさすぎる」


 右胸と左肩に矢を受けたウルスは刺さった矢を払いつつ、こちらに敵意をむき出している。しかも、ほとんど出血していない。全身をしっかりと筋肉と脂肪の鎧が覆っているのである。


 こちらの狼狽を感じ取ったであろうウルスは、好機とばかりにこちらに向けて突進する。

 慌てて体を起こして膝立ちになる。四の五の考えている場合じゃない。矢筒から適当に矢を引き抜き、弦にひねり掛けて腕を伸ば・・・・・・


「痛っ!」


 左手に力を込めた途端、腕に激痛が走り思わず腕が落ちる。破けた服の袖から赤く腫れあがった左腕が見える。確かフィリアから落ちた際に左腕から着していた。落馬した時にやってしまったのかしれない。

 しかし、そんな俺にはお構いなしとばかりにウルスの鋭利な牙が迫りくる。


 プルルン。

 フィリアが精一杯強くいなないて、俺の傍に立つ。乗れというのだろうか?


「無理だ。お前だけでも逃げろ!」


 ダメだ。フィリアはウルスに背中を向け動かない。それどころか、後ろ脚を持ち上げている。後ろ蹴りをするつもりのようだ。

 後ろ蹴りでウルスを倒すためには、確実に顔面に当て脳を揺らさなければならない。フィリアほどの豪脚であればそれも可能だろう。だがそれは、相打ちを前提としての話だ。成功しても馬科の命である後ろ脚に甚大なダメージを負いかねない。


 フィリアは俺に巻き込まれただけである。そんな理不尽は許されない。

 痛む左腕に有りっ丈の力を籠め、握られた弓でフィリアの尻を叩く。

 予想外の出来事に驚いてフィリアは慌てて走り出す。何が起きたか理解できていないようである。後ろ蹴りをしながら一目散に逃げる。


 これで良い。端からウルスの狙いは俺だ。お互いに願ったり叶ったりだ。

 重心を低くしたまま立ち上がる。ウルスは目の前。一撃一撃が致命傷になりかねない。先手を取りつつ、一方的に 有効打を与え続けなければならないということだ。それも大きな熊を相手に。


 死にたくなるほど素晴らしい冗談だ。こうなった以上仕方がない。どうせなら一思いに行きたいものである。

 ただし・・・・・・

「それは()じゃない――――――素子定義コーズ オン


 魔力炉を全力で動かして全身に魔力を送る。

 ウルスノアは立ち上がり、叫び声を上げながら噛みついて来る。鉛筆のように持った矢を手の上で回して逆手に持ち替える。


素子統一アコード フォー


 全身をみたす魔力を鎧のように変化させる。多少なりともマシになるはずだ。

 矢を握る右腕をテークバックする。ウルスは目の前。俺の倍以上の背丈をしている。遠慮はしない。

 距離は1メートル。右手に握られた矢を大きく開いた口の中に差しにいく。無作法なことは承知の上。一撃必殺の大技である。


 こちらの狙いに気が付き、矢を嫌がったウルスは空けていた口を閉じる。

 強力なあごの筋力に抵抗する余地もなく矢が嚙み砕かれた。


 大丈夫、ここまでは想定している。次を仕掛ける。

 ウルスの爪が肩にかかりそうになり、姿勢をさらに下げて地面擦れ擦れで躱す。

 体勢を低くしたままウルスの右に回り込んで膝の裏に蹴りを入れる。


 鈍い音が響く。俺の足にはしっかりと感触がある。間違いなくピンポイントに良い蹴りが入っている。


「マジですか」


 それにもかかわらずウルスはびくともしない。これが普通の人間ならバランスを崩して前に倒れこむのだが、そんな素振りは一切ない。

 それどころか振り向きざま左のクローでこちらの顔面を引っ搔いてカウンターをしてくる。

 こちらも後方回転にバックステップで大きめに回避をして距離をとる。


 深く息を吐く。

 これは恐ろしいな。今のところウルスは様子見だ。ああして俺の強さを測っているのである。それでこれだけの動きをされてしまうなんて堪ったもんじゃない。


 なりふりを構まっている場合じゃない。全力で挑まねば死あるのみ。

 折れた矢を捨て腰に差している短剣に手をかける。このダガーであればウルスの骨を断つこともできるかもしれない。

 推量形なのは剣に魔術をのせてもウルスには効果がないからである。魔術も合わせれば確実なのだが、魔術耐性の高さこそウルスが森の王者とされるゆえんだ。その問題を克服しなければならない。

 全く、この耐性が無ければ今だってこんな目には合ってはいない。


 すらりと、剣を引き抜く。久しぶりに日を浴びた刀身は、溢れんばかりに太陽の光を反射する。

 そのまま逆手でナイフを構える。

 ウルスも雰囲気が変わる。どうやら全力で来るつもりらしい。

 生き残った勝者だけが正義である。


「第2ラウンド開始ですかね」


 舐められたら終わりだ。こちらから仕掛ける。

 二足歩行で立ち上がっているウルスの首元に斬りかかる。

 ウルスはきらめく刃を左のクローで受け止める。そしてリズムよく右のクローを振り下ろす。こちらも、左のクローを受け流しウルスの右を受ける。

 さらにウルスは、先程受け流された左で打ち上げるように切り上げてくる。

 右の爪を下にはたき落としつつ、左手で剣の柄頭を抑え体重をかけてウルスの攻撃を受け止める。


「うっ!」

 筋力が発達しているため、一撃がずっしりとくる。全体重・全筋力を使ってなんとか相殺できている。片手であれば剣を吹き飛ばされてもおかしくなかった。

 このままの単純な押し合いでは敵わない。一撃でも傷をつけて動きを鈍くしたり、戦意を喪失させこちらに有利な展開にしなければならない。それにはよりパワーが必要だ。


 一旦距離をとって剣を順手に持ちかえる。これでパワーのを補う。

 短剣を振り上げつつ大きく踏み込む。ウルスは先程同様受け止めようとする。しかし今回は特別だ。わずかに刀身をずらして爪の先を狙う。

 頭の上から降ろされる剣をウルスの爪は十分に受け止めきれず、ガードが弾き飛ぶ。バランスを崩したウルスは一歩後ずさりをする。さらに剣を左脇に引いてウルスを逃げさないように大きく踏み込む。


「もらったぞ!」

 ウルスの懐の中に入る。そして無防備になった首筋をジャンプしながら切り上げる。

 相手も反応できていない。取った。


 遮るものがないウルスの首元を弧を描くように刃が通り抜ける。


「!?」


 剣が硬いものに当たり勢いが殺される。

 ウルスの息が腕にかかる。そんなことができるのか!

 なんと、このモンスターは首を引っ込めて歯で剣を受け止めたのである。


 気が動転して、目の前にあるウルスの腹部を思いっきり蹴り上げる。

 感触がない。丈夫な皮下脂肪が蹴りを受け止めているのである。


 混乱したのが運の尽きだった。ウルスが口を開けて腕が自由になるも冷静に反応できない。そのまま剣を真っ直ぐに引き。先程蹴った箇所に刺しに行く。


 ガアァァ!!


 待ってましたとばかりにウルスは右手で剣を払いのける。しっかりと剣を握れていなかったこともあり、短剣は側方に弾き飛ばされる。


 ウルスは攻撃の手を緩めず、こちらの首筋をめがけて鋭い牙を立てて噛みつく。

 俺もなんとか左腕を首の前に持ってきて致命傷を避けようとする。

 牙を受け止めた左の肘はメリメリという鈍い音を立てる。骨が砕けた音だ。感じたことがない痛みに何かわからない悲鳴が出てくる。


 勢い乗ったウルスは首を振ってこちらを地面に投げつける。もう一度、首を狙ってくる。

 抵抗する術を持たぬまま、ウルスの攻撃が迫る。俺が狙っていたのと全く逆の展開だ。

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