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太公令嬢と睨まれたカエル

 シャーロットの瞳が輝く。吸い込まれるような深い空色をした眼である。目が離せない。心臓がビクンとして脈が早くなる。もしかして魔眼であろうか。だとしたら心の中が読まれている? まさか。彼女は意味ありげな微笑を湛えている。判断できない。


「私は家の都合もあって馬術部に所属しているのですが、馬術には興味ありませんか?」

「えっ! 馬術部ですか」

 予想外の事実に思わず言葉が飛び出す。なんせ、馬術部といえばちょうど俺が目指しているサークルだからだ。この学園には3つほど公認の馬術サークルがあるが、馬術部と言えばそれらの頂点に位置するサークルである。厳しい人数制限が設けられており、所属できるのは一学年4人まで。入部試験の倍率は20倍ともいわれており、誰でも入れるわけではない。どうしよう、お話を聞いてみたい。


 思いがけない出会いにテンションが上がる。一方横にいるアビーは呆れたような顔をしている。そんな顔をするんじゃない。これはすごいことなのだ。どれくらい凄いかというと、バーで酒を飲んでいたら隣の席に好きな音楽家や俳優が座っていたようなものだ。

 そんな偶然は殆どないといってよい。それくらいすごい。・・・・この例えで伝わっているのかな。考えてみれば俺はバーなんてお洒落な場所行ったことがなかった。

 

「そっか。オトさん騎士志望ですもんね。そういえばアーロン先輩のお兄様は聖馬騎士団に所属する騎士でしたね」

 ・・・・しまった。一気に雲行きが怪しくなる。今一番避けるべき話題だ。確かに騎士を目指していますという発言をしたことが過去にあった。それを今さら突っ込まれることになるとは。意外な発言で墓穴を掘った。10秒前に戻って興味ない振りをしたい。

 手がかりを見つけたシャーロットは、そんな俺の気持ちを嘲笑うかのようにどんどん弱点に切り込んでくる。早い段階で話題を逸らさないと。


「いいですよ馬術部。朝は5時から活動するため大変ですけど、やりがいがありますから」

「いえ、馬術部というのも考えているだけで決定ではないですし、まだ入れるとも決まった訳でもないですし」

「君なら入れるともいますよ。ところで、お兄さまであるアンソニー様は、なぜかキングレット公と同じ紋章を使っていますよね」

 心を読まれていないよね。そっとシャーロットの様子をうかがう。魔力の反応はない。きっと大丈夫だ。

「そうなんですね。不思議なことがあるものですね」

 シャーロットは、そうそうと言いながら頷いている。この人、事実を知っていた上で遊んでいないか? そんな気がして仕方がない。だとしても隠し通さなければいけない。


「最後に一つだけいいかな、グリフフォンと牝馬から生まれるとされる架空の生物はご存知ですか?」

 あくまでもフレンドリーに尋ねているが、かなり核心に踏み込んだ質問だ。知らない振りもできるが、これは非常にリスクが大きい。ある理由から、俺は知らない振りをすることができないのである。シャーロットの顔を見つめると、こちらの思いをすべて見透かしているかのように微笑み返された。


 俺がかなり苦しい立場にある。その理由に気がついているのか。それとも、真実に近づくために鎌をかけているだけのか。知らない振りをするのは困難に等しい。今だって知っているべきと言わざるを得ない証拠を持っているわけだし。そこから話を広げられば・・・・。

 この問題で真に重要なのは、公爵家のストックウェルと、うちの家の関係についてだ。この問題において俺は地雷になりえる。少し調べればアビゲイルと俺が兄弟なことも分かるはずだ。そもそも、グロスモント家の権力を使えば全ての秘密を明らかにすることもできるだろう。だとしても、俺のせいでアビーに迷惑を掛けるのは避けなければいけない。

 指先がヒリつく。蛇に睨まれた蛙の気持ちとはこのことだ。正解が全く見えてこない。どう頑張っても墓穴が立派になる未来しか見えない。


「なに変な質問してんですか。オト君困っているじゃないですか」

「ちょっと話の途中だよ、すこし待って」

 エニッドがシャーロットの腕を掴み、ぐいぐいと引っ張っていく。

「ごめんなさい悪い子じゃないから嫌いにならないであげてね。それと、少しでもいいので文芸部のことも考えていてください」

「あっ、はい。もちろんです」


 シャーロットはズルズルと引かれて行く。太公令嬢が恐ろしく雑に扱われている。あまり見ることのできない光景だ。もしかしてエニッドも地位の高い家系だったりするのだろうか。

 満足そうな足取りのエニッドとまだ不服そうなシャーロットは廊下の奥に消えていく。俺が馬術部に入る話になりそうになったおかげか知らないけど、エニッドが物理的に助けてくれた。危難は去った。まあ完全に俺が呼び込んだのだけど。

 力が抜ける。ぐったりとする。これ以上目をつけられていないといいんだけど。どうだろうシャーロットは政治力高そうだし。明日再び会いに来られても文句は言えない。厄介だ。俺はいいけどアビゲイルは建前とか上手に使えなさそうだし。


「アビーは今のどう思う?」

「今の・・・・うーん」

 やはり悩んでいる。当然だ。何気にストックウェルという姓について突っ込まれたのは初めてである。この学園の生徒には貴族の子息や子女が多いため、貴族姓自体は珍しくないのかもしれない。しかし、よりによってストックウェル姓だ。これからも気になって尋ねてくる人はいるだろう。

 アビーは考え込んだ様子で腕を組んでいる。このようなことは今後も起こるはずだ。そのためには何か対策を考えていた方が良いかもしれない。


「気になることありましたよ。どうしてシャーロット先輩は『ロッテ』と呼ばれていたんですかね」

 ・・・・・・この感じ本気で気にしている。もしかして今までもすべてそんなことを真面目に考えていたんじゃないよな。アビゲイルはそのことが引っかかっているようで、唸り声をあげている。

前言撤回。この子は大丈夫そうである。どうやら俺一人で背負いこむことになりそうだ。

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