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武闘派魔術師の魔術

「神の怒りを今ここに 吟じよジュピター!」


 形を持っていなかった魔力が次第に密集し、ヴォイテクの方に向けて流れ出す。眩い光に包まれる。「臨写蓋世(りんしゃがいせい)、 天輪昇華(てんりんしょうか)・・・・」ヤバい。詠唱が間に合わない。お守りの短剣に手をかける。


破棄(アヌロヴァチ)

 突然のことであった。リルーの詠唱に続けるようにヴォイテクの言葉が響く。決して大きな声ではなかったが、確かにここまで聞こえた。その証拠にリルーに向いていた視線がヴォイテクに集まる。

「なんで・・・・」

 驚いたリルーの声が教室中に響いた。いつの間にか、杖が放っていた光が消えている。

静まり返った教室。そこにはじっとリルーの方を見つめるヴォイチェフ先生の姿があった。その体からは微かであるが魔力が流れ出している。


 冷静になって起きたことを振り返る。リルーは詠唱を唱えて魔術を発動させようとした。その瞬間、先生が呪文を唱えてリルーの魔力放出がストップしたのだ。リルーは力なくその場に座り込んでいる。突然の出来事に教室中が呆然としている。

 事態が呑み込めない。リルーの魔術が不発に終わったのか? そうとは思えない。リルーの詠唱には魔力が乗っかっていた。リルーは失敗していない。それは彼女の様子からも確かだ。

 そうだとすれば。ヴォイテクが何らかの方法で、魔術を妨害したとしか考えられない。魔術痕はある。しかし、今のはなんとかできるようなものではなかった。正しく魔術だ。とにかく本人の弁を聞くしかない。


「今のは危なかったな。即死級の魔術だったぞ。さすがにあれは無理だった」

 全くもって意味が分からない。というより軽々しく無理だったとか言わないで欲しい。それじゃあまるで、何もしないで受けきるつもりだったように聞こえる。しかしこれで、叛魔術を使ったのは確定でいいだろう。

 だがここで新しい疑問が生まれる。どうやってリルーの魔術を無効化したのかという問題だ。


 どう見ても無傷だ。リルーは宣誓詠唱を用いた上級魔術はくだらない代物だった。それに対してヴォイテクの詠唱は一節からなる際略式の単詠唱。釣り合わない。本来ならば少なからずダメージを追っているはずだ。

 しかも、ヴォイテクはリルーが詠唱を終わらせた後、魔術の発動中に彼女の魔術をキャンセルしている。先手で魔術を阻害した訳ではない。要するに完成した後の魔術式を破壊したということだ。そんな高等技術を宣誓詠唱に対して行ったのである。


 いまいち凄さが分からない魔術音痴のために説明すると、100万円の価値があるものをプレゼントしたら、お返しとして100円の価値の物を貰ったようなものだ。

 分かりにくい例えだ。もっとシンプルに100万円貸したら100円になって帰ったきたと考えてもいい。ともかく起きてはならぬことが起きたのだ。


 魔術師の格によって魔術の性能が前後するとは言っても、これほどまでの差があるのは信じられない。なによりもリルーは宣誓詠唱を扱えるほどの魔術師なのだ。実力的には申し分ないはず。それを簡単にねじ伏せてしまった。


 当のヴォイテクは地面に座り込んでいるリルーのことを丁寧に起こして席に戻らせている。神経も含め人間業とは思えない。

 たった一つの出来事でヴォイテクへの見方が変わってしまった。


「一年間よろしく。まあ、ワシは年寄りだから労わってね」

 ああ、この授業ならみな履修するはずだ。


 放課後になり教室から生徒たちが引き上げて行く。各々、寮に帰るなり図書館に行くなりするのだろう。サークル活動の勧誘は来週から解禁になるため、俺たちはまだまだ暇な期間が続く。俺は5限にヴォイテク先生の神業を見てしまってからテンションがおかしい。魔術とは何とも奥が深い。本当にもう先生だよ。


 入り口に誰かいる。どうしたのだろう、カツアゲでもしているのかな。謎の組み合わせの二人組がいる。水色のネクタイとリボンだから学年的には3年生だ。まあ、ネクタイをしているとは云っても二人とも女の子だ。

 1人はスラっとした端正な意で立ちの女性で、もう1人が不摂生な感じのする女の子だ。不摂生とは言っても太っているわけでも小汚いわけでもない。純粋に肌が真っ白で怖いのだ。近づきすぎると血を吸われたりエネルギーを奪われそう。そんな二人が教室前に控えているのである。

 この感じだとアビゲイルも気がついていそう。他愛もない話をしながら目をつけられないようにこっそりと移動する。


「初めまして。オト・ナナミヤさんですよね」

「はい、初めましてオトです。僕に何か御用ですか?」

 教室を出るところであっさりと捕まった。しかも反射的に返事をしてしまった。これ以上良く分からない人脈を広げたくない。同級生の友達まだ一人もいなんだけど。おかしいよな、都会と田舎の違いかもしれないが俺がこの世界に転生してすぐのころ普通に同い年の友達出来たのだけどこの年になると出来ない。

 そういえばみんな何やってるんだろう。手紙でも送ってみようかな。引き続きどこか上の空である。


「私たちは3年生なんですけど、その、突然ですけど・・・・オトさんは小説とか詩とかって興味ないですか?」


 気になる単語に反応して急に現実に引き戻される。小説? 詩? 何の話だ? 思い出に浸って肝心なところを聞いていなかったかもしれない。

 アビゲイルに目線をやる。聞いていなかった分の解説をお願いしたい。


「えっと、オトは本を読むの好きだよね」

「うん。好きだよ。えーと・・・・」

 なに? どうしたの。聞きたいのはその続き。目で訴えかける。しかし、俺の心配をよそに話はあらぬ方向に転がり始める。


「あっ、あなたは新入生の総代だったアビゲイルさんですよね。アーロン先輩の妹の」

 突然の質問にアビゲイルの顔に緊張の色が走る。単に人見知りだからという理由からではないだろう。それにしてもアーロンを知っているのか・・・・学年的にギリギリ重なっているんだっけ。うーんとアーロンは1年繰り上げ入学しているけど3年生なら被っていると思う。多分、メイビー。

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