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上級生の洗礼

「いるなら、出て来やがれ!」

 この感じ、ご立腹かな。相手をしたくないのが本音だが、教室の前であれだけ大騒ぎしていれば教室にいるクラスメイトにも迷惑がかかる。

「逃げられないよな」

自分の席から立ちあがり、階段を下りる。この教室は階段教室であり、教室の後ろほど高くなっている。俺が今いるのは入り口とは反対の窓側の前から4番目の席だ。距離はある程度離れている。この間隔なら飛び道具にも反応できる。


「アズマ族の特徴通りだ。お前で間違いなさそうだな」

 俺を見たリーダーらしき男は鼻で笑う。そもそもアズマ族の特徴は、黒髪・黒目だ。一学年に一人いないかというレベルだ。隠れようもない。


「そうですね。こんなのが2人もいたら堪りませんから」

「フンっ・・・・」

 予想外の反論に戸惑っている上級生。自分たちを見たら委縮するとでも思っていたのだろうか。そうだとすれば愚かだ。


「間違いないならそれでいいじゃない。それより私達上級生よ。もっと敬ってもいいんじゃない?」

 制服を大胆に着崩したミニスカートの女性が不思議なことを言っている。胸が大きいのは分かったから、まずは服の着方を覚えた方がいい。相手は全員こんな感じだし、正直、敬う必要性を感じるほどの威厳はない。まあ、ギャグとしては優秀だと思う。

自覚が足りないのだろう。一人を除いて。


「ご気分を害したのであれば申し訳ないです。それで要件はなんですか」

「話が早い。そうこうないと。プラットもそう思うだろ?」

「当たり前だぜ」

 プラットと呼ばれたリーダーらしき中央の男が、両サイドにいる男女4人に視線を送る。喧嘩っ早いな。そういう要件なら、先に言ってくれよ。さっきまで階段の上にいたのだから。せっかくの地の利を手放してしまった。

嘆いても始まらない。重心を落として、軽めの構えの姿勢を取る。


「はぁっ!」

 プラットがこちらに向けて飛びかかる。要したのは僅か一歩。助走なしで4メートル近い飛躍。意表を突かれた形になる。

 だが問題はない。振り下ろされる右腕を左腕で打ち返して捌く。さらに二つの影が迫る。

「ていやっ」

 気の抜ける掛け声とともに、メリケンサックを装備した男とトンファーらしき武器を持った男たちが正面から殴りかかる。プラットも次の動きに入っているし、先程のミニスカートもウォーハンマーを握って駆け出している。ガードすれば数の差で押し潰される。


 バックステップで手前の二人を躱し、隙だらけの膝に鋭く前蹴りを一発ずつ入れる。

 サックとトンファーは声にならず膝を抱え込む。あと二人。

 ほぼ同時に来るリーダーとミニスカは、倒れこむ二人の男たちの外側を通って迫りくる。綺麗に左右に分かれている。ほぼ真横からだ。あまり後ろの壁に追い詰められたくない。

仕方ない。腰の短剣に伸びそうになった右腕を引っ込め、一歩前に踏み出して伸ばされた腕を掴む。


「なに!?」

 腕を掴まれたことでバランスを崩された二人の顔には驚きが現れている。容赦はしない。両腕に力を入れて地面に叩きつける。「きゃっー」と甲高い声が響く。


 受け身は取れなかっただろう。そのまま地面に叩きつけられたのだから相当なダメージを喰らったはずである。

「今のは効いたんじゃないですか。止めにしませんか?」

 地面に伏せる二人から距離を取りつつ、手打ちを提案する。みんな平等に倒したし、リーダーはダウンしているのだから俺の勝ちとなってもいい筈だ。


 だが、その答えは俺の予想を反するものだった。

「戦闘能力だけは高いみたいじゃん」

「流石はアズマ族という感じ?」

「顔に傷ついたら責任取るのかって話」

 諦めていない? まだ策があるのか。

「コリンヌ任せたぞ」


 プラットが立ち上がり拳を握りながらこちらを睨みつける。他の3人も右に同じだ。

いや、今問題なのは彼らじゃない。今名前を呼ばれたコリンヌという女性だ。唯一攻撃に参加しなかったコリンヌに目を向ける。だが、動き出す気配がない。

魔術師か。馬鹿な。こんな狭いところで魔術を使えば同士討ちになる。それが分からないはずがない・・・・・・彼女は本物かもしれない。


「──────広い宇宙に人は漂う 宙の前ではすべての営みは無益なり、力を示し給え、クロノス」

 コリンヌが冷たく魔術の呪文を詠唱する。宣誓略式詠唱だ。身構え────。


 顔面に衝撃が走る。意識が飛んで視界が暗くなる。

「ゲホ、ゲホッ! はぁー、はぁーっ!」

 宙を舞った体が地面に叩きつけられた衝撃で意識が戻った。慌てて体を引き起こす。先ほどの出来事を反芻する。

 あり得ない。間違いなくプラットに殴られている。それは右手を前に突き出した彼のポージングが物語っている。

だが、おかしい。パンチの予備動作はなかった。突然目の前に現れたのだ。見逃すはずがない。瞬きさえしなかったのだ。気がついたときにはすでに殴られていた?

「どうしてだ・・・・」

思考がまとまらず、言葉が出てこない。人知を超えた出来事を体験し、全身が冷や汗をかいている。


そんな俺をあざ笑うかのようにプラットは、「これで一発お返しだ。」と、誇らしげに言い放った。


 それからというのはただひたすらに惨い時間が続いた。白兵戦で戦う4人の内、3人が俺の両サイドと後ろに立って体を支え、後の一人が満足のいくまで俺のことを殴り続ける。それを4人分繰り返したのだ。


「分かったか。お前には地面がお似合いだ」

「また明日合いましょうね」

「逃げるなよ」

「逃げたら他のクラスの奴が標的になるからな」

「・・・・じゃあ」

 5人は笑いながら楽しそうに教室を後にする。俺は全身ズタボロだ。不味いな。次の講義開始まで20分だ。急いで保健室に行かないと。アビゲイルに見つかる前に。


 壁にもたれ掛かりながら体を越し、静まり返った教室を後にした。

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