真打登場
魔術発動は間に合わない。そう判断したのだろう。
彼女は横方向に飛びのいて迫る矢をすんでのところで躱した。
素晴らしい運動能力。
「もう一度……『無骨なる鉄壁。されど不朽なり』」
崩したと思ったのだが、一瞬のうちに新しい魔術を展開された。しかも物理耐性が高そうだ。
矢に魔術を載せることができるならば、あの防御も打ち破ることができるだろう。だが俺はエルフたちのような技は使えない。矢で崩すことは困難だ。
魔術防御力も未知数。
あの魔術障壁で時間を稼いで次の一手を練るのだろう。
さすがは学園生。魔術師なのにあれだけ動けるとは。厄介な相手だ。このままではこちらの矢が尽きる。
同じことを繰り返しても無駄だ。工夫しないとな。
こちらから仕掛ける。
「暴火風」
周囲を熱風が包み込む。あの空間内で呼吸をすれば熱風を吸い込むことになり詠唱なんてできたものではない。対魔術師用に考えた技である。
魔術として少なからず問題を抱えているものの。初見の相手には非常に強力な攻撃となる。
「ふぁ、はあ。息ができない」
彼女はその場から離れて空気の澄んでいる場所を探し求める。
だが四方を囲まれた地下にそんな場所はない。範囲については全然制御していないゆえ。
当然ながら俺も呼吸できない。使えない場面も多いが、このシンプルさがいいのだ。
彼女は障壁の防御範囲から外に出た。今なら矢が通る。確実に決めに行く。
無詠唱の氷属性魔術を発動させる。彼女の足元が凍り付く。
「きゃあっ」
悲鳴が上がる。そして腰から倒れこんだ。動きは封じ込めている。
もらった!
空を切る矢は、再度彼女の魔力炉があるであろう場所へと吸い込まれていく。魔術発動の兆候はない。今度は的中する。
「フン!」
中ると思った瞬間。横やりが入って矢が地面に叩きつけられた。
再度矢を射かけるが、直撃する前に再び弾き飛ばされた。
魔術ではない。槍によって防がれた。まさしく横槍だ。
ただし、降伏した槍使いの男がやったのではない。
「ホワイト・ミスト」
その人物は熱を気にせず魔術を行使する。水属性もしくは水と風属性の複合魔術だ。薄い霧が広がっていく。暑さが和らぐ。
「何の真似ですか? コルリ」
いつの間にかに槍を握っていたコルリは、体の背後で槍を3回ほど回転させて体の正面に構えなおす。
「見ての通りさ。勝敗が決したようだから止めに入った。それだけ」
さも当然のように言い捨てる。
俺の勝ちということらしいからいいか。
いや良くはない。
納得できない。どうしてこの期に及んで邪魔をするのだ。彼女が降参したのではない。あの男が勝手に言っているだけかもしれない。
「本当に降参なのですか?」
「いいだろ、メリア」
メリアと呼ばれた魔術師は頷きながら立ち上がった。
決まりだ。これでリアムとの戦いに望める。
弓を握る手を下ろしながらコルリの様子を確認する。弓から弦を外そうとするものの、どうにも手が進まない。ささっと帰りたいと理性は言っているのだが。
さすがの俺でものんきに近づいてはいけない。そんなオーラが出ている気がする。
嫌な感じがする。どうして彼は槍を仕舞おうとしないのか。
「私の勝ちということでいいんですよね」
「ああそうだな」
「手袋は頂いていきますよ」
俺が求めている手袋はちょうど彼らの後方にある。目の前を通り過ぎなければ受け取ることもままならない。
弓を左手に握ったまま、体を斜めに構えすり足で少しずつ近づいていく。
いつでも矢を放てる状態を作る。
「おいおい警戒してるな。何が気になるんだ?」
「どうして貴方は槍を降ろさないのですか」
「どうしてかな。おそらくオマエと戦ってみたくなったからかな」
コルリの体が沈み込む。来る!
弦に矢を捻りかける。打起しをしている余裕はない。下方射ぎみに矢を放つ。
放たれた矢はコルリの脛を刈り取るかのように低い軌道で飛んでいく。
彼は矢が迫っているにもかかわらず回避することなく最短距離で詰めてくる。槍は体より後ろにある。中るはずだ。
しかし、コルリは身を翻しながら矢を打ち飛ばして軌道を変えた。一回転してん後止まることなく迫り来る。
次の矢を引き抜く。初期の位置から半分近く距離を詰められている。次の矢が中るか、動きを止めさせることができなければやられる。
矢というものは、一直線に飛んでいるわけではない。矢は左右に振動しながら飛んでおり、弾こうとしても矢がしなって上手くいかないものである。それを連続で成功しているこの男の技量を考えれば……
弓を左に投げ捨て腰に差してある剣に手をかける。
この剣をふるうのは初めてだ。いきなりの実践であるがこれまでの経験を活かせばなんとかなるはず。
コルリは俺の心臓めがけて槍を突き出す。こちらは居合の要領で剣を切り上げる。
剣先が槍の穂先に当たり槍がそれる。間一髪。
弾かれ穂先はコルリの方に引き戻され、今度は右目に向けて突きが繰り出された。剣を顔の前に構えたまま体を横にして攻撃を回避する。
回避したところで当然のように横払いが繰り出される。払いを受け止め競り合う。
完全に相手の攻撃ペースだ。ここでリズムを整える。




