学生生活一日目と波乱の予感
本鈴のチャイムが鳴り、バタンと音を立てて扉が開かれハリエットが入室してくる。次第にざわざわとしていた教室が静かになっていく。そういえば一限目はなんだろう。先生が務めるのは間違いないが、そもそもハリエットのこと何も知らないぞ。
「一日ぶりですね、みなさん。私はこのクラスの担任で、この学年の授業では基幹歴史学を担当するハリエット・ウェルズリーです。ハティともハイオットとでもお好きに呼んでください」
はて? 昨日会っているのだから、自己紹介なんぞわざわざする必要はなかったろう。不思議なハリエットはゆっくりと教室中を見渡す・・・・目が合った。そして微笑むと。
「どうですか。せっかくですから昨日自己紹介できなかったオト君の挨拶を聞きませんか」
目をぱちくりさせる。信じられない。これが大人のやる事かよ。
教室中がざわつく。これ、俺は行くべきなのか。
「オト君前に来てください」
ハリエットの鶴の一声で俺は教壇に案内された。おかしいな、こういった場合って予め一言断っておくものだと思うけど。そんなこと言っても何も始まらないか。諦めよう。
「初めましてオト・ナナミヤです。分かっていると思いますけど、多分アズマ族です。将来は国家騎士を目指しています。これから5年間、一緒に頑張っていきましょう」
挨拶を終えると、静寂に包まれた。えっ、普通拍手が起きるところですよね。もしかしてこのクラスってこんな感じなの。
「はい、ありがとう。席に戻ってね」
「あっ、はい」
追い打ちをかけるようにとてつもない塩対応を噛ます担任。いつもなら無意味な抵抗をするところであるが今は逆効果にしかならない。
「ありがとうございました」
すごすごと自席に戻る。何というかモヤモヤする。
きっとこれが、女性向けの創作物によくいる見た目が怖くて喧嘩ばかりしていると噂さされているけど、実は可愛いものが好きで心が優しい男子高校生の気分なのかもしれない。
「良かったですよ」
「だといいんですけどね」
クラスの中で俺に優しくしてくれるのはアビゲイルだけだ。辛いな、男子高校生。何とかしなければ。
「面白いですね。昔の人たちはこのような道具で魔術を利用していたのです」
教科書の挿絵を見ながら、小学生並みの感想を言うハリエット。まあでも、確かにこの壺なんか土粘土こねれば俺でも作れそうだし仕方がない。でも、失礼だな。
この壺を作った1万年前の人だって、こうして現代まで残って教科書に取り上げられると知っていたら、もっと、マシなものを作っていただろう。
「という訳で今日の範囲はここまでです。何か質問ありますか?」
反応を確かめるハリエット。しかし、当の学生たちはシーンとしている。まるで当てられないようにするかのようだ。
彼らの名誉のために断っておくと、今日の授業は「何たら原人」とかお猿さんのお話が大半だったのだから、こんな反応になるのも無理はないかもしれない。
「別に今日の範囲以外のことでもいいですよ。何でもいいんです」
ハリエット可哀想。授業時間だって残っているのにこのままは辛いだろう。俺が楽にしてあげよう。
「先生、質問良いですか?」
「オト君どうぞ」
「ありがとうございます。それでは、歴史上最初にアズマ族が登場するのはいつですか?」
どうよこれ。授業に微妙に絡ませながらも、話が原人方面に行かないような質問。褒めてもらっていいんじゃない。ハリエットも嬉しそう。
「そうですね。文献上であればアズマ族が初登場するのは2000年前になります。当時は、数百の国々分かれていたようですね。今のように4ヶ国になったのは1000年前ですかね。そのため、単にアズマ族と呼んでも厳密には細かい民族があるんですよ」
その通りだ。アズマ族とは極東に住む黒髪・黒目の特徴を持つ民族の総体である。アズマ族が治める国家は4つあり。ちなみに俺はその中でも島国の出身だ。
「もう時間ですね。講義はここまでです。復習しておいてください」
チャイムが鳴るのと同時にハリエットは荷物をまとめる。2限までの休憩時間は10分。とはいっても、アビーいわくこの教室らしいので時間には余裕がある。1~3年までは、クラス単位で講義を受けるため、中学校みたいなものだ。
「ふわぁ~」
「どうしたの体調悪いの?」
「全然だよ。ちょっと懐かしくて」
「何がですか。次、数学ですよ。準備しないと」
「そうだね。頑張らないと」
本当に意味不明だ。リベラル・アーツ(自由七科)は大学に放り投げたのだろうか。これじゃあ、転生前の世界の学校と一緒だよ。
「ミシェルご飯いこーよ」
「学食行ってみようぜ」
時刻は、12時ちょうど。4限の授業を終えたところである。学生たちは食事に向けて動き出す。先ほどまでとは打って変わって活気づく教室内。これは大丈夫なのか。
「アビゲイルちゃん、ランチ一緒に行かない?」
朝見かけた女子3人がアビゲイルに声をかける。彼女たちはアビゲイルの友達のようだ。そういえば、友達出来たのか。先を越されてしまった。
アビゲイルがこちらを見つめる。これは答えを求めている。
「行ってきなよ。学食美味しいと思うよ」
「そう、かな・・・・」
何かに悩むように言葉が途切れる。
「オトも呼んでもいいかな」
おそるおそる、女の子たちに尋ねるアビゲイル。見つめ合う3人。
「えーと・・・・どうする?」
「ナナミヤ君と一緒? ・・・・私的にはどちらでも」
「私も・・・・いいかな」
「もちろん私も」
「だって。行こうよ、オトも」
気を使いまくっている3人と、それでも俺を連れて行こうとするアビー。だが残念。
「魅力的な提案ですね。でも、私は朝食を食べ過ぎてしまったので、お昼は遠慮します」
「そ、そんな」
あからさまに不服なアビゲイル。頑固なところあるんだよな、この子は。
「ごめんね。ほら、俺って学年最下位だしさ、授業の復習もしたいから。3人もアビゲイルのことよろしく」
「行こう。アビゲイルちゃん」
「うん。そうだね」
4人は一緒になって教室を出て行く。あれでこそ友達だ。
俺はどうしようかな。
「おい! オト・ナナミヤはいるか!」
入口の方から俺の名前が聞こえてくる。5人の男女が教室の中に入ってくる。ネクタイとリボンに色がブラウンだ。2回生だな。どうしたのだろう。嫌な予感しかしない。
学生の血が騒ぐ。根拠はないがワクワクして来た。




