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片角  作者: 炯斗
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05

『片角の魔王』。

今ではマルクトと呼ばれる地の何処かにあるという小さな村では、極稀に角のあるこどもが生まれるという。通常生まれた時から2本の角があるが、更に稀に後天的に角が生える者もある。後天的に角を得た者は片角で、角の周りが変質する。片角の者はその外見的特徴から「魔王」と呼ばれた。

しかし角が生えている以外は特別な事は無い。

唯一本人たちのみが知るところでは、変質した瞳で静天の時に世界を見ると精霊が視認できるという。


三冊分の内容を統合して推察すると、凡そ上記の通りだ。

「マルクト発祥かぁ、聞かないワケだ」

『国』としての最南端はイェソドである。いくつか集落が存在するにしても、マルクトの地に管理者はいないし、遠く離れた集落同士で交流もない。こうして書が三冊も存在しただけ奇跡のようだ。治し方や原因に纏わる話は載っていなかったが、流石に仕方がない。

内容を手紙に纏めて、マルジュへ送る。ケセドへの郵送は人間を介した方が確実だ。一度使い魔で済ませようとしたら、途中で消えてしまった。あの国は少し魔術が使い難い。

ふと、自分で書いた一文が蘇る。

『変質した瞳で静天の時に世界を見ると精霊が視認できるという』

魔術を扱う者としては、なんとも羨ましい話だ。

その眼で見たら解るのだろう。ケセドから、神秘が失われつつある現状が。



「なぁるほどねぇ。マルクト由来の奇病かぁ」

塔からの手紙を読んで、フェディットは深く息を吐いた。

世界の南端に広がる大草原。世界樹セフィロートのお膝元。異界に繋がるという大湖がある、未だ神秘の色濃い地。

「エイラくんも落ち着いてるし、調査に行ってもいいなぁ」

未解明の症例が他にもあるに違いない。その為の調査なら、旅費も経費で落ちるだろう。

「お手紙、何が書いてあったんですか?」

「ん? あぁごめんね。エイラくんと似たような症例が過去にもあったみたいだ」

そわそわと待っていた少女に説明するのを忘れていた。かいつまんで内容を教える。

「こっちでは見付けられなかったけど、流石は塔だねぇ。君も頑張ってねってさ」

エイラは自分宛にも一言あったことに頬を緩めたが、すぐにシュンと視線を伏せた。

「この眩しさについての記述はなかったんですね」

「静天時に精霊が見える──っていうのにヒントがありそうだけどね」

「それは──」

それは多分、アレの事だ。

どうやら夢ではなかったらしい。エイラには精霊というのが何なのかよく解らないが、言われてみればあの時は静天だった、気がする。ずっと見えているようになるわけではなさそうでホッとした。あんなものがずっと視界に映っていたら、気が変になりそうだ。

「それで、先生はマルクトまで調査に?」

「行きたいなぁとは思うね」

せめてもう少し範囲を絞り込めればいいのだが。マルクトというだけでは広すぎる。該当の村を見付けるだけで何年もかかってしまうだろう。

「エイラくんは行ったこと──ないよな、うん」

「はい」

ウォートバランサー…所謂イェソドの『中』の一般市民が壁を越えることはまずない。恐らく両親だってずっと『中』で生きてきた筈だ。それがなんだってマルクトの奇病を拾ったのか。

「外からのお客さんを迎えたことは? 街として、でもいい」

エイラは顎に人差し指を当てて記憶を辿る。自宅ではまずない。エイラを診に来た医師たちが初めてだった。

「あ、ターミナルの参拝者は迎え入れているので…街としてはそこそこあると思います」

「うーん、そうなんだ」

フェディットは苦い顔をする。

現在、イェソドは外国人の参拝を受け付けていない。あくまでイェソド国内の人間に限られている。エイラの発言から鑑みるに、ウォートバランサー以外はイェソドに非ず…という教育方針が進んでいるのだろう。

「現状ヒントがないなら行ってみるしかないかなぁ」

問題は旅程だ。ケセド医団としてもマルクトへは行ったことがない。国として存在しない地に出向く理由がこれまでなかった。つまりマルクトターミナルは使えない。

イェソドターミナルも転送許可が下りるのは医団として出向く時のみなので使えない。最短ホドからの出発になる。

そこからは空路が理想だが、騎乗のスキルは持っていないし、やはり高くつく。かといって海路を用いれば時間が掛かるし、陸路であればそれ以上。宿泊費も嵩む。

フェディットは研究に主体を置いた医師で、現在担当患者はエイラだけだ。エイラにこれといって不調の兆しがないなら、長期間側を離れることも──



「連れていけばいいじゃない」

「は?」

医師会総長は、フェディットの悩みを一蹴した。

「君が研究対象として迎え入れたんだから、責任もって面倒をみる」

「はぁ」

エイラくんに関して、聞いたことの無い症例だったけれど意外と『何もない』ので興味を失っているな、とフェディットは感じた。

「研究費に関しては丸々経費でとはいかないけど、僕からも融資するし。行っておいでよ」

「ありがとうございます」

まあ金を出してくれるならば問題はない。…いや。あの世間知らずの少女を連れての旅か。

少し考えてしまうが、結局、フェディットは熱心な研究者であった。

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