番外編その1 架空『火星エンジン』
ここでは速度ではなく、『戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら』に出てくる火星一一型エンジンについて、その大きさと出力を超適当に計算してみます。
■エンジン直径
史実の火星エンジンでは、ボア150ミリ×ストローク170ミリでしたが、本作の火星エンジンはP&W R-1860の影響でボアが160ミリになっています。
ボアが大きくなった分だけクランクケースも大きくなるので、円に近似してどのくらい直径が増すか計算してみます。
D1:史実火星のクランクケース径
D2:仮想火星のクランクケース径
L1:史実火星のクランクケース周囲
L2:仮想火星のクランクケース周囲
L1 = D1 x 3.14
L2 = D2 x 3.14
クランクケースの周囲が1気筒あたり余裕をみて12ミリ増えると仮定すると、単列あたり7気筒なので増加するクランクケースの直径は以下の様になります。
L2 = L1 + (12x7)
D2 = L2÷3.14 = (L1 + (12x7))÷3.14
= (D1 x 3.14) ÷ 3.14 + (12x7)÷3.14
= D1 + 26.8
クランクケース径は少なくとも27ミリくらいは大きくなる事が分かりました。ストロークは史実と同じ170ミリなので、史実の火星より+30ミリとしています。
史実 火星エンジン直径:1340ミリ
仮想 火星エンジン直径:1370ミリ
■エンジン全長
史実の火星エンジンはカムが前後列共通でプッシュロッドも前部集中の配置でした。コンパクトで軽量になるデザインですがデメリットもありました。
・エンジン前部にプッシュロッドが集中するので冷却面で不利
・プッシュロッドのレイアウトに制約があるのでバルブ挟み角も小さくなって燃焼面で不利
・共通カムで、前後列でプッシュロッドの長さが違うので高回転で不利
このため本作の火星では前後列で独立したカムとしてプッシュロッドも前後に振り分けています。
当然ながら後列のカム分だけ全長が伸びます。ただしクランクケースはR-2800のように前後分割せず史実同様に一体型として全長の増加を抑えています。
R-2800をみると後列カムの部分の寸法は4~5センチほどの様なので、本作の火星エンジンではキリが良いところで+45ミリとしました。
史実 火星エンジン全長:1705ミリ
仮想 火星エンジン全長:1750ミリ
■エンジン重量
本作の火星エンジンはボアアップにより排気量が増えています。
史実 火星エンジン:42.1リットル
仮想 火星エンジン:47.8リットル
基本的に似たような構成のエンジンであれば、その重量はおおよそ排気量に比例します。
例えば史実の金星と火星を比較すると、こうなります。
史実 金星エンジン:32.3リットル/560㎏
史実 火星エンジン:42.1リットル/720㎏
排気量比:1.31/重量比:1.29
というわけで、史実火星エンジンの基本重量を排気量比で出します。
史実 火星エンジン:42.1リットル/720kg
仮想 火星エンジン:47.8リットル
基本重量 = 720 x (47.8/42.1)
= 817kg
前述のように本作の火星エンジンは前後カム独立分に加え、燃料噴射装置が付くので、+23キロとしています。
仮想 火星エンジン重量 = 817 + 23 = 840㎏
■エンジン出力
同程度の技術レベル・稼働条件・排気量ならば、出力は(ある程度の範囲ならば)排気量・回転数・過給圧におおよそ比例します。これは適当なエンジンの性能曲線をみれば分かります。
また、本作の火星エンジンは筒内噴射の効果で5%の出力向上(史実 三菱の実験結果より)があるものとします。
◇排気量比◇
史実 火星エンジン:42.1リットル
仮想 火星エンジン:47.8リットル
排気量比 = 仮想排気量÷史実排気量
= 47.8L÷42.1L
= 1.136 …①
◇回転数比◇
回転数については平均ピストン速度の関係で史実と同じとしています。
回転数比 = 仮想回転数÷史実回転数
= 1.000 …②
◇ブースト比◇
ブーストについては、筒内燃料噴射でガソリンの気化熱が利用できるため、史実より少しだけ上げています。
ブースト値は海面大気圧に対する増加量を示しているため、実際の大気圧にしてから比率計算する必要があります。つまりブースト圧+海面大気圧(760mmHg)が実際の圧力になります。
離昇出力ブースト
史実 火星エンジン:270mmHg
仮想 火星エンジン:310mmHg
ブースト比 = (310 + 760)÷(270+760)
= 1.039 …③
一速・二速全開ブースト
史実 火星エンジン:180mmHg
仮想 火星エンジン:200mmHg
ブースト比 = (200 + 760)÷(180+760)
= 1.021 …③
以上から仮想火星エンジンの出力を計算します。
◇離昇出力◇
史実 火星エンジン:1530HP
①排気量比:1.136
②回転数比:1.000
③過給圧比:1.039
④直噴効果:1.050
仮想 火星エンジン出力
= 史実 火星エンジン出力 x ①排気量比 x ②回転数比 x ③過給圧比 x ④直噴効果
= 1530 x 1.136 x 1.000 x 1.039 x 1.050
= 1896
余裕をみて1890HPとしました。
◇一速全開出力◇
史実 火星エンジン:1410HP
①排気量比:1.136
②回転数比:1.000
③過給圧比:1.021
④直噴効果:1.050
仮想 火星エンジン出力
= 史実 火星エンジン出力 x ①排気量比 x ②回転数比 x ③過給圧比 x ④直噴効果
= 1410 x 1.136 x 1.000 x 1.021 x 1.050
= 1717
余裕をみて1710HPとしました。
◇二速全開出力◇
史実 火星エンジン:1340HP
①排気量比:1.136
②回転数比:1.000
③過給圧比:1.021
④直噴効果:1.050
仮想 火星エンジン出力
= 史実 火星エンジン出力 x ①排気量比 x ②回転数比 x ③過給圧比 x ④直噴効果
= 1340 x 1.136 x 1.000 x 1.021 x 1.050
= 1632
余裕をみて1630HPとしました。
以上で、火星一一型エンジンの寸法・重量・出力は以下のようにでっち上げられました。
形式:複列14気筒 星型エンジン
ボアxストローク:160mm×170mm
排気量:47.83L
全長:1,750mm
全幅:1,370mm
乾燥重量:840kg
離昇馬力:1,890HP / 2,450RPM +310mmhg
一速全開: 1,710HP / 2,350RPM +200mmhg 高度1,400m
二速全開:1,630HP / 2,350RPM +200mmhg 高度4,900m
過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速
特記事項:筒内燃料噴射、前後カム独立
基本的に、他の火星エンジン、土星エンジンも同様な方法で計算しています。
■いろんなエンジンとの比較
さて、この架空エンジンは実際のエンジンと比べてどうだったのでしょうか?また、実際のエンジンはどれくらい「無理」をしていたのでしょうか?
ここでは一つの目安として、『平均ピストン速度』と『平均有効圧力』で比べてみます。
平均ピストン速度は文字通りピストンが上下する平均速度です。回転が速いほど、ストロークが長いほど、その速度は速くなります。速すぎるとピストンの油膜切れから焼き付きが起きやすくなります。
平均有効圧力はピストンが上下する間に加わる平均の圧力です。こちらは出力が高い程、高くなります。高すぎるとクランクへの負担が大きくなり軸受が破損しやすくなります。
ここで、無理をしているなーと思われる部分に色を付けています。
WW2当時の日本の技術では、目安として平均ピストン速度は15m/s、平均有効圧力は1.5MPaを超えると厳しくなると言われています。
これを見ると、誉とセントーラスの無茶が突出している事がわかります。しかしセントーラスは熟成後は問題なく運用されました。一方の誉はご存知のとおりです。
これが技術力の差というものです。やはり誉は本来は1800馬力くらいのエンジンだったんだろうなーと思います。
R-2800とR-3350は無理していないエンジンだという事が分かります。ただR-3350はターボがネックだったようです。
史実の火星と金星は平均有効圧力が高い事が分かります。史実で三菱のエンジンにクランクシャフト軸受の損傷が多かった理由はこの辺りが理由かもしれません。
本作の架空エンジンはぜんぜん無理してません。土星も平均有効圧力が厳しく見えますが、銀すべり軸受を導入して耐久性の問題をクリアしています。
という訳で、排気量アップと軸受の強化が高出力エンジンへの道だとお判り頂けたかと思います。
単なる適当な比例計算ですので、生温かい目で見て頂ければ幸いです……




