はじめに ~ 『飛行機の主要諸元を決定する一簡易法』による速度計算
私の作品には架空の機体がいくつか出てきますが、その最高速度は実は一応計算で出しております。
私はその計算に、山名正夫氏の『飛行機の主要諸元を決定する一簡易法』を使っています。ここではその簡易法に基づいて、史実の機体の一部変更したような場合の速度計算のやり方を説明します。
とは言っても、かな~り適当なやり方をしているので専門の方からみるとツッコミどころ満載だと思います(汗)。あくまで簡単に試算する方法の一つとしてご理解ください(汗汗)
■プロペラ機の最高速度の数式
『飛行機の主要諸元を決定する一簡易法』によると、プロペラ機の最高速度は馬力の釣り合い式で下記の様に表される……となっています。
Vz^3 = 75 x 16・ρ0・η・Nz / ρz・Cx・F
F・Cx / η= a・G
Vz:高度zでの最高速度(m/s)
ρ0:海面空気密度 (kg・sec^2/m^4)
ρz:高度zでの空気密度 (kg・sec^2/m^4)
η:プロペラ効率
Nz:高度zでのエンジン出力(hp)
Cx:抗力係数
F:主翼面積(m2)
G:機体総重量(kg)
a:常数
あっ!そこのあなた!ブラバしないで!!
大丈夫、すぐに簡単な計算になりますから!!!
……さて、架空機を考える時、ゼロから機体を設計するのではなく既存(史実)の機体の一部(特にエンジン)を変えている場合がほとんどだと思います。
そうなると、条件が変わらない部分は固定値(定数)として扱う事ができるようになります。例えば、エンジンを換えただけなら、エンジン出力・機体総重量が主に変わる、といった具合です。
元の式をエンジン出力と機体重量だけ変数にした場合、次のようになります。
Vz^3 = A・Nz/G
A:定数
Vz:高度zでの最高速度(m/s)
Nz:高度zでのエンジン出力(hp)
G:機体総重量(kg)
これで式がすごく簡単になりました!この式から、プロペラ機の最高速度の三乗は、馬力に比例して重量に反比例するという事がわかります。
定数Aは色々ひっくるめた定数です。
厳密に言えば、エンジンを換えると全開高度が変わって空気密度も変わるのですが、数千メートルも異なる事は通常無いので無視しています。逆に、馬力や重量以外の(少しの)影響を加味する時は、この定数Aを加減してやります。
■架空機の最高速度の計算
あとはこの式を利用して、基本的に次の手順で速度を計算します。
1)史実の機体の諸元から、エンジン出力と機体重量をもってきて、定数Aを計算する。
2)定数A、変更後のエンジン出力・機体重量を入れて、速度を計算する。
ね、簡単ですよね!
それでは次話から、私の作品の中で登場した架空機を紹介していきましょう。
■論文について
この論文は、日本航空学会誌(Journal of the Japan Society for Aeronautical and Space Science)の1953年1巻1号に掲載されたものです。
戦後、日本は航空機開発が禁止され、終戦から7年目の1952年になってようやく再開が認められました。それを受けて日本航空学会も再発足しました。この論文はその記念すべき再開第一号の学会誌に掲載されていた事になります。
戦争直後という事で、掲載論文のいくつかは戦時中の航空機に言及しています(なんと風船爆弾の論文まであります!)。
本論文もそういった中の一つです。そのため事例とした出されている機体の多くが旧日本軍機となっています。
第二次世界大戦期の架空戦記を書く上でも参考になるかと思います。
■著者の山名正夫氏について
著者の山名正夫氏(1905-1976)は、戦時中は海軍技術中佐として空技廠で彗星、銀河、桜花の開発に関わられた方です。戦後も一貫して飛行機関連の仕事に携わり、全日空羽田沖墜落事故の事故技術調査団にも参加されています。
氏の著書『飛行機設計論』によれば、機体の設計とは直観を元にそれを理論と実験で裏付けする、という考えだったそうです。