売り物にならなかった物
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その日の夕食は少しだけ緊張していた。
でも、ローズが心配したようなお説教やお小言は無かった。
2人きりというのは滅多に無かったせいか、ベリルはローズがいた世界の話を興味深く訊いてきた。
文化や風習、考え方、気候風土‥‥‥、その世界の神々の事まで‥‥‥。
「なるほど‥‥‥君のいた世界とこの世界は似ているところと異なるところがそれぞれあるのだね。面白い」
「面白いですか?」
「あぁとても。 君のいた国‥‥‥日本と言ったか‥‥‥君の元の姿のように黒い髪に黒い瞳の者が多いのかい?」
「そうですね、色味の違いはありますけど」
「そうか‥‥‥‥‥君の国の近くに『 キョウ 』と言う名の国はあるかい?」
「『 キョウ 』ですか?そう言う名の国は無いですけど、『 京都 』と言う名の場所はありますよ」
「『 京都 』? 場所?」
「都道府県なんですが‥‥‥この世界だと‥‥‥領地の名前と言った感じかな‥‥‥」
「領地」
「その『 京都 』は昔は『 京 』とか『 京の都 』とか言われていた筈です」
「そうか、昔‥‥‥ね」
「その『 キョウ 』と言う国がどうかしたんですか?」
「いや‥‥‥いいんだ。少し聴いた事があっただけなんだ」
「そうですか」
ベリルは暫く物思いにふけっていた。
「ローズ、私は先に休むよ。片付けを頼んでいいかな?」
「はい勿論。おやすみなさい、お父様」
‥‥‥‥‥お父様どうかしたのかしら? 何か考え込んでいたけれど。 訊けるような雰囲気じゃあ無かったわね。 ‥‥‥まっいっか。プライバシーに踏み込んではいけないものね。
‥‥‥‥‥片付けたら私も寝ようっと。
その夜の森の家は早々に明かりが消えたのだった。
∗ ∗ 翌日 ∗ ∗
朝食の後はバタバタと忙しかった。
ベリルの話では午前中にノトとユゥナが来る予定なので、掃除やら食事の準備やらいろいろあるのだ。
ベリルは椅子とテーブルの準備をすると、窓際のソファーで静かに外を眺めていた。
‥‥‥‥‥ノトがこの家を出るのならば、薬の販売をどうするか考えないとな。メルクリウスに頼むのも悪いし‥‥‥商人や客の相手はしたくないし‥‥‥ローズも私も出来ないだろう‥‥‥改めてノトの偉大さがわかるな。 ノトと相談しないと。
ベリルは小さく溜め息をついた。
◇ ◇
「おはようノト」
「おはようユゥナ」
「昨夜は結局うちには泊まらなかったわね」
「うん、ロウ達といろいろ話し込んでしまって、そのまま櫓の部屋で皆と寝ちゃったよ」
「楽しかったみたいね」
「久しぶりに会った幼馴染みだからね」
「そっか、ノトが楽しかったのならそれでいいわ」
「ユゥナ、僕はこれから結界の魔道具のことで村長に話があるから、その間に仕度をしておいてくれる?」
「わかったわ」
ユゥナが自宅へと向かうと、入れ違うようにロウ達5人がノトの元へやって来た。
「皆、もう行くの?」
「あぁ、これからヨーツまで行かないといけないからな」
「そっか、徒歩なんだよね?」
「徒歩っていうか、走って?かな」
「走って? 馬は使わないの?」
「人族や獣人族相手なら馬も使うけど、魔獣や魔物が相手の時は使わないな」
「俺達がいない間に食われちまう」
「可哀想だろ?」
「そうなんだ‥‥‥そっか、確かに」
「さぁて行くか」
「あっ!ちょっと待って」
ノトは魔法の鞄に手を入れてガサゴソと何かを探し、小さな小瓶を5つ取り出した。
「これ下級の回復薬なんだ。良かったら使って」
「回復薬って‥‥‥」
「そんな高価な物いいのか?」
「これ、売り物じゃないんだ。妹弟子が練習で作った物だから効果にばらつきがあってね、売り物にならないんだ。でも、それなりに効果はあるから安心して飲んで」
「妹弟子がいるのか?」
「なんかノトばっかりずるいよな」
「ずるいって何が?」
「あれこれ仲良くしてるんだろ?」
「仲良くって‥‥‥妹弟子は師匠の娘なんだよ?しかもまだ成人前の」
「なんだまだ子どもか」
「でも、可愛いんだろ?どうなんだ?」
「んーーーまぁ、可愛いとは思うけど」
「‥‥‥やっぱりずるいな」
「俺もそう思う」
ロウ達がじっとノトを見つめる。
「ちょっと、何も無いんだからずるくなんて無いんだよ?いい?」
「ま、仕方ない。じゃ行くか」
「気を付けてね」
「「「「「 おぅ 」」」」」
いつの間にか集まっていた村人達がロウ達に手を振った。
口々に感謝の言葉を述べている。
ノトも大きく手を振った。
ロウ達も手を振ると、笑いながら村の門を出て行った。
‥‥‥‥‥行っちゃったか‥‥‥ちょっと寂しいな。さて村長のところに行くか。
ノトは村長の家へ向かった。
∗ ∗ 南北街道にて ∗ ∗
「なんかさ、ナズナ村っていい村だったな」
「そうだな。こんなに感謝されるなんて初めてだよな」
「ノトはナズナ村の住人になるのか」
「いい村で良かったよな」
「ノトなら上手くやっていけるさ」
「そうだな」
「そろそろ、走るか」
「回復薬をもらってラッキーだな俺達」
「心置き無く走れるぞ」
「行くか」
5人は自らに身体強化の魔法をかけて、ヨーツに向かって走り出した。
∗ ∗ ナズナ村、村長の家 ∗ ∗
「ふむふむ、なるほど、魔道具の魔石に毎日魔力の補充をするんじゃな?」
「そうです。本当は数日は大丈夫なんですが、万が一がありますから」
「確かにの‥‥‥魔力が空になっては結界が張れぬしの。使った分を補充するという事じゃの」
「そうです。宜しくお願いします」
「任せるがいいぞ。この村にも魔力持ちはそれなりにいるしの。魔法を使えないだけじゃ」
「良かった。僕も村に来た時は協力しますので」
「ふぉっふぉっ、その時は頼むぞよ」
「では、もう行きますね」
「おぅ、師匠の森の魔法使い様にどうぞ宜しくの」
「はい」
ノトはユゥナを迎えに行った。
少しおめかししたユゥナはとても可愛くて、ノトは自然と笑みが零れた。
「行こうか、森の家へ」
「えぇ」
2人はガイス達に手を振ると、魔法の箒に跨がって宙に浮かんだ。
そして、ベリルとローズが待つ森の家を目指して飛んでいった。
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:*(〃∇〃人)*:




