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千年前の出来事


 「さぁ、ローズ、席に着いて。食事にしよう」

 「はい、わかりました」


 私は急いで席に戻り座った。


 「「「 いただきます 」」」


 食事をしながら、いろいろな話を聞いた。

 今は春。暖かくなってきたので、人々は活動を始める。農民であれば畑仕事であったり、商人であれば商品を求めて旅に出る者もいる。 活動を始めるのは人だけではない、森の中に住む様々な動物達や魔力を持った魔獣や魔物達も動き出す。その中でも魔獣が人々の生活圏に、以前よりも出没しているらしい。理由はわからないそうだ。数が増えたのか、より強い魔獣か魔物から逃げてきたのか………。とにかく、気を付けるしかないようだ。


 恐いね………。遭遇したくはないね………。

 もう食べ終わったし、先ほどの疑問を訊いてみてもいいかな?


 「あの、質問してもいいですか?」

 「かまわないけれど、何かな?」

 「何故、瞳の色を隠すんですか?金色や赤色は見せてはいけない色なんですか?」

 「ローズ、何も知らないの?」

 「………あのね、ノト、ローズは今まで森の奥に一人でいたから、世間の事や一般常識を知らないのだよ」

 「森の奥に?あの魔の森の?」


 「そう………私の結界の中だから安全だったし、ローズはほとんど眠っていたから静かなものだった。しっかりと目覚めたようだから、ここに連れて来たんだよ。起きている時に多少は教えてきたのだけれど、まだまだ不充分でね。 ローズの母親はローズを産んだ後亡くなってしまってね、細々とした事も知らないから、ノトに教えてもらえると非常に助かる。いいかな?」

 「そういう事だったんですね。わかりました。僕に教えられる事なら教えますよ」

 「ありがとう、助かるよ」

 


 なるほど………そういう設定なのですね。承知しました。私は眠り姫だったという事ですね。

 私はお父様のほうを向き頷いた。



 「瞳の色だったね。そうだね、まずは金色の事から話そうかな。この世界ではね、種族によって決まった瞳の色が幾つかあってね、金色の瞳を持つ者は、我々ドラゴンと魔族………そしてそれらの血を受け継いでいる者だ。ドラゴンも魔族も滅多に会うことがないから、どちらも伝説に近いけれど、確実に存在している。そして、ドラゴンは聖獣とも言われるが、魔族は違う。 人々の恐怖の対象だ。だから、金色の瞳といえば、まず魔族と思われる。大騒ぎになるだろうね」


 「魔族はそんなに恐ろしいんですか?」


 「そうだね……………基本は他種族と関わらず、知性も理性も高く、静かな者達だけれど、仲間意識は強くて自分達の仲間やテリトリーが攻撃されると恐ろしい牙を剥くよ。魔力は強く、身体は強健、頭も良いから敵にまわすと恐いね」


 「………恐怖の対象という事は、その牙を剥かれたという事ですか?」


 「そう……………もう千年前の事。人族と魔族の間で大きな戦があったんだよ。 それまではお互いに住み分けが出来ていて、特に争うこともなかった。魔族は魔の森に住み、人族は魔の森以外に住んでいた。 人族の国は幾つかあったんだが、しょっちゅう戦をしていたんだ。理由は豊かな土地を手にいれるため。 人は番を持つと何人もの子を産むだろう?皆がそうだと、あっという間に数が増え、食糧が足らなくなる。それで、より実りの多い豊かな土地を欲したのさ」


 「実りを増やすよりも、他人の土地を奪うほうを選んだんですか?」


 「そういう事だね。人族の土地の次は獣人族の土地に目をつけて戦を仕掛けて奪っていった。その当時、最も強大だった国がオスティア帝国といい、次々に他国を手に入れていった。そして、最後に目をつけたのが、魔の森にあった魔族の国だ。魔族達は土地を豊かにする術を知っており、多くの実りをもたらす田園を持っていた。 普通に考えれば魔力を持たぬ者が大半の人族が、強い魔力を持つ魔族に戦を仕掛けるなんて想像出来ない。だが、オスティア帝国の皇帝ラディンは躊躇う事なく魔族の国に侵攻していった。 当然魔族達は迎え撃った。激しい戦いが10年ほど続いたんだ」


 「10年も続いたんですか?魔族相手に?瞬殺されずに?」


 「そう思うよね。魔族は数が少なくてね、それに比べて人族は数が多い。そして、千年前はね、魔力の強い人族もそこそこいたんだよ。時に英雄とか勇者だとか言われるね。 皇帝ラディンも強い魔力を持つ一人だった。自ら戦場に立ち、兵を率いて戦った。終わりが無い戦だと思われていたんだが、突然、皇帝の死という思いがけない出来事で戦は終わったんだ」


 「皇帝の死?病か何かですか?」

 「表向きはね。真実は違う」

 「えっ?旦那様、病死じゃないんですか?僕たちはそのように習いましたよ」


 「あまり知られたくない、不都合な真実という事さ。 皇帝ラディンはね、正気を失っていたんだよ。 敵を殺せ、殺せと、投降した者まで皆殺しだ。そして、敵を殺すごとに魔力はどんどん強くなっていった。さすがにこれはおかしいと側近達も思い始めてね、最後は実の息子に殺されたんだよ」


 「実の息子に?」


 「そう……………。皇帝の息子もまた強い魔力を持っていてね、疑問を持ちながらも、父親がおかしいのは民の事を考えるあまりの行動だと思っていたんだ。以前の皇帝は、民の命も大事にする心優しい人物であったからね。 そこで彼は皇帝に癒しの魔法をかけて、心を安らかにしてもらおうとしたんだ。 そうしたらどうなったと思う?」


 「「 どうなったんですか? 」」


 「皇帝の身体から、黒い靄が浮かび上がってきてね、全く別人の声で話し出したんだ」




   -----我の邪魔をするものは許さぬ。 その魂を喰ろうてやる。 

            

   -----まだまだ贄が足らぬ。 邪魔をするな。




 「禍々しい気配を周りに放ち、そう呟いた。 10年に及ぶ戦も静観していた創世の女神も、この禍々しい気配は放置出来ぬと、介入する事にした。 皇帝の息子に力を授け、父である皇帝を討つように命じた。 そして、皇帝ラディンは息子に討たれて死んだ。 皇帝の死と共に立ち上った黒い靄は空間に消えていき、亡骸はまるでミイラのようだったそうだ。 女神が言うには、皇帝の魂は何処にも見当たらず、黒い靄に持ち去られたのだろうという事だ」


 「それでは、輪廻の輪の中に入れませんね………」

 

 「そうだね、ノトの言う通り、女神のもとに行かなかった魂は輪廻の輪の中に入れない。 おそらく、自分の魂と引き換えに何かしらの契約をしたのだろうと女神は言っていたよ」


 「「 契約? 」」


 「そう、違う次元から現れる == 悪魔 == と言う存在は、魂と引き換えに望みを成就させるらしい。黒い靄が、その == 悪魔 == なのだろうとね」


 「いつから、契約していたのか誰にもわからなかった。正気を失っていたのもわからなかった。そして、次期皇帝である息子は父親殺しだ。 本当の事を隠すしかなかったんだよ。 そして、魔族の恐ろしさだけが強調されて伝えられていったんだ。 人族から仕掛けた戦だったのにね」


 

 ……………なんだろう………今の話を聴いて、私、魔族の方に同情してしまう。 もしかして、この世界の人族は酷い人達なのかしら。



 



読んでくださり、ありがとうございます。感謝、感謝です。読んでくださった皆様に良い事がありますように!

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