ティムとチョコレイト
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-----バサバサッ‥‥‥。
ベリルとメルクリウスは森の家の前に降り立った。
地に足を着けると同時に人型の姿となった2人は家の方を見た。
扉から笑顔のローズが出てくる。
「お帰りなさいお父様、メルクリウスさん」
「ただいま。変わりなかったかな?」
「朝と変わりないですよ」
「やぁローズ、出迎えありがとう」
「メルクリウスさん魔国のお話を聴かせてくださいね」
「うん、勿論」
3人は談笑しながら家へ向かった。
お茶を飲みながら皆で魔国の話を聴いていると、ノトは何やら考え込んでから口を開いた。
「旦那様、最近魔獣や魔物が増えているのと関係があるんですよね?」
「おそらくね」
「何か情報を得られるように頑張ります。獣人や人族関係はお任せください」
「宜しくたのむよ」
「では自分は街の猫達に訊いてみます。それと妖精達にも」
「宜しくクリムゾン」
「ベリル様、私は湖周辺の魔物達やニンフ達に訊いてみましょう」
「ありがとうロータス」
ノトとクリムゾンとロータスは大きく頷いた。
「では私は、他領や他国を担当しましょう」
「任せたよメルクリウス。流石に範囲が広いから誰かの手を借りていいよ」
「ええ、シルフ達や風竜達に手伝ってもらいます」
「それがいい」
‥‥‥‥‥ええっと私も何かしないと。‥‥‥でも何を?
「私は何をすれば?」
ローズがベリルに訊ねる。
「ローズは魔法の練習だよ」
「魔法の練習?情報収集しなくていいの?」
「君には魔法をもっと上達してほしい。何が起こるか分からないし、常に私が側に居るとも限らない。自分と少なくとも自分の側に居る者を護れるようになってくれ」
「‥‥‥護る‥‥わかりました。頑張ります」
ローズも大きく頷いた。
ベリルは優しく微笑んだ。
「そうそう、お土産があるんだよ。魔国で人気のお菓子だそうだ」
「人気のお菓子?」
「甘くてほろ苦い、チョコレイトと言うお菓子だよ」
「チョコレイト?」
‥‥‥‥‥な、なんと!チョコレイトとな? それってチョコレートのことよね。 この世界にあるんだ、チョコレート。 魔国って凄い!
「楽しみです!」
ベリルは空間収納からリボンがかかった可愛らしい箱を取り出して、テーブルの上で蓋を開けた。
箱の中には焦げ茶色で甘い香りの懐かしいお菓子が並んでいた。
花の形や丸い形のひとくちサイズのチョコレート。
前の世界で見馴れたチョコレートそのものだった。
私はきっと瞳がキラキラしていた事だろう。
ノトは目を見開いている。
「初めて見るお菓子です。旦那様とメルクリウスさんは食べましたか?」
「食べたよ。美味しかった」
「うん、成人男性でも美味しく食べられるよ」
2人の言葉に私達の期待も上がる。
‥‥‥まさかチョコレートが食べられるなんて。
「自分も楽しみです!」
クリムゾンの瞳もキラキラうるうるしている。
‥‥‥‥‥ん? ちょっと待って。 猫にチョコレートは駄目よね。
「クリムゾンはチョコレイト食べて大丈夫かしら?」
「ん?何で?」
「猫には毒かもしれないじゃない?」
‥‥‥‥‥楽しみにしているところ、何て言ったらいいかしら。
「酷いよローズ。俺に食わせないで独り占めする気だろ」
「ち、違うわよ。万が一と思っただけよ」
「ははは、じゃあ、鑑定してみるか」
お父様が瞳に魔力を込めて、箱の中のチョコレイトを見つめる。
‥‥‥‥‥あれは、ドラゴンアイね。 そうか、鑑定も出来るのか。
「ふむ、確かに猫には良くないらしい」
「え~~~そんな~~」
「だが、クリムゾンはただの猫じゃない。猫妖精だ。たぶん問題無いだろうが念のため獣人の姿で食べてみてくれるかい?」
「はい、わかりました。ふぅ~~~良かった」
「良かったわね。一緒に食べられるわね」
「うん、うん」
「僕も食べたいな‥‥‥」
いつの間にか、側にティムが立っていた。
眠そうに目を擦っている。
「ティムもう起きて大丈夫なの?」
「まだ眠いけど、僕も食べたい‥‥‥」
「そっか‥‥‥じゃあ座ろうか」
私はティムの椅子を用意し座らせた。
お父様はティムの様子をじっと見ている。
「ティム、チョコレイトを食べたら人化の指輪を外すよ」
「え?‥‥‥ベリル様‥‥‥どうして?」
「気が付いていないのかい?」
「ん?」
「ティム、君は体内の魔力がかなり減っているよ。眠たいのもそのせいだろう」
「お父様、本当ですか? でもどうして?」
「おそらく、人化の指輪のせいだよ。嵌めている間は常に弱い魔力を流しているしね」
「常に魔力を‥‥‥」
「ティムはまだ小さいし、魔力のコントロールが上手く出来なかったんだろう。僅かの魔力でいいところ、結構使っていたのかもしれない」
「なるほど」
「僕、よく分からないや‥‥‥」
「このままでは魔力が減っていくから、指輪を外して元のトレントの姿で魔力が回復するのを待った方がいい」
「はい‥‥‥ベリル様」
「チョコレイトを食べてからで構わないよ」
「はい」
「すまないねティム。気が回らなくて‥‥‥気が付くのが今になってしまった」
「いえ、ベリル様のせいではありません。僕自身も気が付かなかったんです。うっかりしていました」
「ゆっくり休めば魔力も回復するから大丈夫だよ」
「お父様、回復薬を使うのは駄目なのですか?」
「うーんティムはまだ子どもだし、自然な形で回復させた方がいいかな。薬や回復薬等というものは使わないで済むのならその方がいい」
「そうですか‥‥‥」
「それよりも、チョコレイトを食べてごらん?ノトとクリムゾンが待ちきれないみたいだよ」
‥‥‥ノトといつの間にか獣人化したクリムゾンがじっと此方を見ていた。
「じゃあ、皆で一緒に食べましょう」
「おぅ」
「そうだね」
「うん!」
「「「「 いただきます 」」」」
私達はチョコレイトとお茶を美味しくいただいた。
久しぶりのチョコレートはとても、とっても美味しかった。
「さて、いいかな?ティム」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、庭に行こうか」
「庭に?」
「トレントの姿に戻っても暫くは動き回らずにじっとしていた方がいい」
「‥‥‥それは只の木の様にしているって事ですか?」
「そうだね、そうなるかな。 眠っている間は只の木に見えるだろうね」
「‥‥‥ちゃんと目が覚めますよね?眠ったままなんて事ありませんよね?」
「魔力が戻れば目が覚めるさ。そうしたら、魔力操作を練習してまた人化の指輪を嵌めればいい」
「‥‥‥わかりました。目が覚めたら魔力操作を練習します」
私達は庭に出た。
「ティム、何処がいい?好きな処で根を張っていいよ」
「んーーーと‥‥‥陽当たりが良くて皆の姿が見える処がいいな」
「じゃあ、窓の近くはどうかしら?」
「そうだな、此処なら家の中からもティムが見えるな。俺もいいと思うぞ」
「うん。此処にする」
「わかった。‥‥‥さぁティム指輪を外すよ」
「はい」
ティムが腕をそっと差し出した。
ベリルが指輪を外す-----見た目は腕輪だが-----。
パアーッと光った後、ティムは小さな若木の姿になった。
目と鼻と口があるので只の若木ではなく木の魔物-----トレントだとわかる。
以前は青々としていた葉が少し色艶が悪くなっていた。
「‥‥‥‥‥やっぱり元気がなかったのね。気が付かなくてごめんなさい、ティム」
「謝らないでお姉ちゃん。僕が悪いんだよ」
ティムが足の様に使う根の部分が伸びて、先端が地面の中に潜っていく。
根はどんどん地中深くへと伸びて、幹の下の部分も地面の中に潜った。
「これで大丈夫かな?うん、なんかとっても落ち着くよ」
「此処は私の結界の中だから安全だよ。大きな魔物に踏み潰されることも無いし、嵐で折れることも無い。安心してお休み」
「はい、ベリル様。お世話になりました。メルクリウス様もノトお兄ちゃんもお世話になりました」
「「 うん、ゆっくりお休み 」」
「ティム‥‥‥私達はいつも側にいるからね」
「うん、お姉ちゃん‥‥‥あのね、僕、目が覚めたら‥‥‥さっき食べたチョコレイトってお菓子をまた食べたいな」
「チョコレイト? うん、わかった。目が覚めたら魔国に買いに行こうね。きっといろんな種類があると思うわ。約束よ?」
「うん、楽しみにしてる。クリムゾンもロータスも一緒に行こうねぇ」
「勿論だ。行こうな」
「えぇ行きましょう」
「うん‥‥‥皆さん、お休みなさい‥‥‥」
「「「 お休みなさい‥‥‥ 」」」
そう言うとティムの目と鼻と口はすぅーと消えて、只の木と変わらない姿になった。
誰が見ても只の若木が植わっている様にしか見えない。
‥‥‥‥‥寂しいな。目が覚めるまでティムに会えないんだ。 私がもっと気を付けていれば‥‥‥。
「ローズ、気にしないで。眠っているだけだから。魔力が戻れば目覚めるよ」
「‥‥‥そうですよね。そのうち目が覚めますよね」
「あぁそうだ。だから大丈夫」
「はい」
お父様はとても優しい笑顔で言った。
‥‥‥‥‥うん、お父様がそう言うならきっと大丈夫。また可愛いティムに会えるわね。目が覚めたら魔国へ行ってチョコレートを買おう。たくさん買おうね。
「さぁ戻ろうか」
「はい」
ティムに手を振ると、私達は家へと歩き出した。
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