ハロゥズの目的
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「会長。単刀直入に訊くが今日訪れた理由は何かな?」
「リルべ様、何をおっしゃいますか。お茶を飲みにとお顔を拝見に参っただけですよ」
「そうか‥‥‥‥‥と言いたいところだが、大きな商会の商会長がわざわざお茶になど来ないだろう?」
ベリルは静かに微笑みながらハロゥズを見つめた。
ハロゥズはひとつ息を吐くと、ベリルを真っ直ぐに見つめて話し出す。
「‥‥‥そうですね、正直に申しましょう。我々が此処に来た1番の目的は、回復薬と傷薬の確保です」
「回復薬と傷薬? 確か、注文があった分は納品済みだったと思うが」
「はい、確かに納品されております。我々が欲しいのは、追加で、ということです」
「追加で?」
「そうです。万が一を考え確保しておきたいのです」
「万が一とはどういうことかな?」
「我々はヨーツの街から此方に参りました。元々はラビの街へ行く予定でしたが、暴動が起きてしまい街へ入れなかったのです。同じようにヨーツに足留めされた商人と取り引きが出来たので、それは良かったのですが、ヨーツで恐ろしい話を聴いたのです」
「恐ろしい話?」
「1週間ほど前に、南北街道で若い娘達がゴブリンの群れに襲われたとか。幸いにも駆け付けた冒険者に助けられ、後日討伐隊が派遣されゴブリンどもは退治されたそうです」
「退治されたのに、まだ恐ろしいのかい?」
「えぇ勿論。また同じ事が無いとは言えません。南北街道は我々商人が常時使用する街道です。そこで襲われたなど、本当に恐ろしいことです。護衛を雇ったとしても、万が一に備えるのは当然です」
‥‥‥ローズ達が襲われた件か。
「なるほどな。そういうことか。‥‥‥‥‥だが、在庫の状況はノトでなければ分からないので、今出来る事は注文を受けるぐらいなのだが、それでもいいかな?ノトはつい先ほど、ホンベルクに向かったので、直ぐには帰っては来ないからね」
「それは仕方がない事ですので、構いません。宜しくお願い致します」
「回復薬と傷薬でいいんだね?」
「あと、魔獣避けの薬草も欲しいです」
「そうだね、あれはゴブリンなら多少は効くかもしれない」
ハロゥズは希望する品を書き出してベリルに渡し、深々と頭を下げた。
「忙しい中、申し訳ありませんが宜しくお願い致します」
「そんなに畏まらなくて大丈夫だよ。ちゃんと用意するから。‥‥‥1番の目的は薬だとして、2番目はあるのかい?」
「2番という事でもないのですが、お会いしたかったのですよ」
「会う? 私ではないよね‥‥‥‥‥もしかして、ローズかな?」
「えぇそうです。ヨーツで聴いたのですよ。森の魔法使いリルべ様に娘がいると。初めて聴いたので確かめたかったのです。‥‥‥お会い出来て嬉しいですよ。可愛いお嬢さんです」
「そうか、ヨーツでは噂になっているのかな?」
「えぇ、私どもの耳に入るくらいには」
「娘など珍しい事でもなかろうに」
「森の魔法使い様の情報は、なかなか流れてきませんから。謎の方、なんですよ」
「ふむ‥‥‥そうか、確かに私はあまり人と接しないからな。ノトに任せているし。‥‥‥謎ね、それもいい」
ベリルはクスクスと笑うとローズ達の方を見た。
「リルべ様、あの小さな男の子もお子様なのですか?」
「ん?いや、違うよ。あの子は‥‥‥‥‥知り合いの子を預かっているだけだよ。姉弟のように仲は良いけれどね」
「そうですか。仲が良いのは素晴らしいことです。我が息子達もそうあって欲しいものです」
「違うのかな?2人ともすっかり立派な青年になり、ハロゥズ商会は安泰であろうに」
「どうでしょう‥‥‥」
ハロゥズはゆっくりとお茶を飲み、微笑んだ。
「リルベ様、私どもはそろそろ御暇致します。突然の訪問、失礼致しました。何かあれば、連絡くださいませ」
「あぁそうしよう。回復薬の注文はノトにしっかり伝えるので安心してくれ」
ハロゥズは立ち上がると頭を下げた。息子達も続けて立ち上がると頭を下げ、3人は玄関に向かった。
ベリルも後に続く。
ローズも慌てて玄関に向かい、挨拶をした。
「気を付けてお帰りくださいませ」
「ローズさん、良かったらハロゥズ商会に遊びにいらしてください。お嬢さん方の喜ぶ物も多数揃えてありますよ。ホンベルク店でも、王都の本店でもどちらでもお待ちしておりますよ」
ハロゥズは柔らかに笑いかけた。息子達もローズに笑いかける。
「是非ともいらしてください、待っていますよ」
‥‥‥長男のウィリアムね。
「店内を案内致しますよ」
‥‥‥で、こっちが次男のジェイムズね。
2人とも、見事な愛想笑いだこと。さすが商人の息子ね。
「ありがとうございます。機会がありましたら‥‥‥」
私も営業用スマイルで返した。
「では、リルベ様失礼致します」
「あぁ気を付けて」
お父様も一緒に3人を見送った。
馬車が走り去って行くのを見ながら、お父様が訊いてきた。
「あの3人どう思う?」
「どうって‥‥‥‥‥何を考えているのか判りませんね。笑顔も愛想笑いだし。私を見て、何だというんでしょう」
「さぁね‥‥‥‥‥面倒な事になったら、何処かに身を隠せばいいさ。私がよく使う手だ」
「え?よく身を隠すんですか?」
「んーーーたまにね」
「何から?」
「何だろうねぇ、さぁ中に入ろう」
そう言うと、私の背を押して笑顔で誤魔化した。
◇ ◇
「2人はあの娘を見てどう思った?‥‥‥まず、ウィリアムから訊こう」
「そうですね、まぁ可愛いですが、まだ子どもですね。あと数年してから会いたいかな」
「ふむ‥‥‥ジェイムズは?」
「確かに可愛いとは思いますよ。性格はどうでしょうね。思いっきり愛想笑いでしたけど」
「ははは、確かにな。‥‥‥あの娘と懇意にしていれば、リルベ様と繋がりが出来る。リルベ様と親しくしている商人はそれほどいないはず‥‥‥これは大きな幸運だぞ。お前達どちらか、あの娘と懇ろになるんだ。逃すのは損だぞ」
「えぇ?子ども相手に?」
「別に恋人なり愛人なり持てばいい」
「それはそうだけど‥‥‥」
「ジェイムズは黙っているが、どうだ?」
「んーーー友人ならいいですが、懇ろとか言われても‥‥‥。あの子、クセが強そう‥‥‥」
「はははは」
「お前達、相手は損得を考えて選べよ。多少性格に難有りでも、そこは何とかなる、たぶん」
「「 えぇーーー 」」
馬車の中でそんな会話がされていたなど、ローズは考えもしなかった。
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