属性調べ
「こんなところで立ち話もどうかな?中に入らないかい?」
「そうですね。ちょうど、お茶にしようと思っていたんです」
「おぉそれは良かった。 ローズ、ノトのいれるカモミールティーはとても美味しいんだよ」
「嬉しいです。私、カモミールティー大好きです」
私達は家に向かって歩いて行った。
玄関の扉を開けると、何かの待合室のようにいくつかの長椅子と小さなテーブルが置いてあった。待合室みたいな一画を抜けると、すぐ居間になっている。窓際に心地よさそうなソファーがあり、優しく光が射し込んでいる。壁際には椅子がいくつか並んでいて、部屋の中央には丸いテーブルと椅子が二つあった。奥には暖炉が見える。カーテンやクッションは優しい色合いのモスグリーンやローズピンクだ。とても居心地の良さそうな、可愛い部屋だ。
「では、僕はお茶をいれてきますね」
「お手伝いします。ノトさん」
「ノトでいいよ、ローズ。とりあえず、今日はゆっくりしていて」
「はい、わかりました」
ノトが台所へ行ってしまうと、思い出したようにベリルお父様が話し出した。
「そうだ、君の椅子を用意しないとね」
そう言うと、何もない空間に手を入れて、ニュッと椅子を一つ取り出した。
「これに君の魔力を登録してごらん。そうすれば、君以外は使用出来ない君だけの椅子になる。やり方は簡単だ。ここに付いている魔石に魔力を流すだけだよ」
椅子は木で出来ているありふれた物で、背もたれの上部に青い小さな石が付いている。これが魔石らしい。
「魔力を流すってどうすればいいんですか?」
「ん?あぁ、石に手を触れて魔力を送る感じかな。やってごらん」
魔力を送ると言っても、今まで魔力なんて無かったし………どうすれば………。あっそうだ、気を送る感じでどうかな。気功の達人になったつもりで。 まずは自分の中の気を(魔力ね)感じてみて……………おぉ凄い!わかる、わかる!身体の中で何かが渦巻いて動いている。きっとこれね。
私はそっと石に手を置き、掌から少しずつ気を(魔力を)送ってみた。すると、石は一瞬白く光りまた元の青い石に戻った。よく見ると石の中で微かに何かが動いている。石の周りには小さな薔薇の模様が彫ってある。先ほどまでは無かった模様だ。
「出来たようだね。これでもうこの椅子には君以外誰も座れない。他の者が座ろうとすると、弾き飛ばすよ」
「弾き飛ばすんですか?」
「そうそう、試しにこの私の椅子に座ってごらん」
差し出された椅子に座ろうとすると、見えない空気の塊のようなものにポヨンと弾かれた。確かに座れない。面白い。
「本当に座れませんね。凄いです」
「魔法の椅子だからね。たいした意味はないんだけれど、自分だけが座れる椅子は気分がいいものだよ」
椅子をテーブルに運び腰掛けた時、ちょうどノトがお茶とお菓子の載ったワゴンを押して入ってきた。いい香りが漂ってくる。
「ローズの椅子が出来たんですね」
「あぁ、これで三人でお茶を楽しめるよ」
「嬉しいです」
ノトは手際よくテーブルにお茶とお菓子をならべた。
「カモミールティーと今朝焼いたクッキーです。どうぞ」
早速ご馳走になることにした。ん~~美味しい~~。
「美味しいです~~。幸せです~~」
「ローズは大袈裟だね。だが確かにいい香りと味だね。ここに帰って来たって実感するよ。やっぱりいいね」
「そう言うわりには、随分と久し振りですよ。旦那様が帰って来たのは」
「ハハハ、まぁいいじゃないか。私が留守の間変わりはなかったかい?」
「変わりは無いですが、注文がいくつか入っています」
「注文か…………どんな?」
「ほとんどの注文が回復薬です。中級が多いですが、上級もいくつか。普段と比べると多い量です。旦那様が帰って来てくださって本当に助かりました。僕だけでは少々不安でした」
「たくさんの回復薬ねぇ………。近々何かあるのかな?何か聞いてる?」
「いえ、特に何かあるとかは聞いていませんが、最近魔獣がよく出るというのは聞きましたよ」
「魔獣か。なるほどね」
えぇっと……………ちょっとちょっと、今いろいろと気になるワードが聴こえてきましたが、回復薬の注文というのは?普段よりも多いとか?魔獣がよく出るとか? 気になる!
「あの、回復薬の注文って何ですか?」
「旦那様、話していないんですか?」
「うん、まぁ、これから話そうかなとね。ハハハ」
ノトの呆れ顔から視線を逸らしてベリルお父様は話し始めた。
「私とノトはね、薬を作って売っているんだよ。症状に合わせた薬から、回復薬までいろいろとね。値段も手頃なものから高額なものまであって、注文が入ることもある。そして、商人が買い付けに来るのさ。個人が買いに来ることもあるかな」
「こちらから納品に行くこともありますよ」
「おぉそうだね。獣人の村や近隣の人の町には時々届けに行くね」
「症状に合わせた薬や中級の回復薬までは僕だけでも作れるけれど、上級の回復薬は旦那様しか作れないんだよ。ストックも減ってきているから、これから旦那様には頑張っていただかないと」
そう言うとノトはお父様を見てにこやかに笑った。
「そうか………少し頑張るとしよう。これからはローズも手伝うことになるからノトの負担は少し減ると思うよ」
「私ですか?」
「そう、いろいろな事を学ぶ中に薬作りも含まれるからね。頑張りたまえ」
「旦那様、ローズが手伝うのは大歓迎ですが、魔法はどのくらい使えるんですか?」
「まだまだ初心者だよ。私達が教えていくんだ。魔力は充分あるから、やり方さえ覚えればすぐ使えるようになるだろう。属性をみなければはっきりとは言えないけれど、上級回復薬も作れるかもしれないよ」
「そうだととても助かります!本当に助かります!」
「ノト………すまないね、いろいろと」
「いいんですよ、旦那様。ローズを連れてきてくれたので帳消しです。 ところで、ローズの属性はまだ調べていないんですか?」
「うん、まだだよ。 ちょうど話に出たし、調べてみようか。ノト、あれを出してくれるかい?」
「わかりました」
ノトは立ち上がり、棚の引き出しから木箱を取り出した。大事そうに抱えてきて、テーブルの上に置くとそっと蓋を開けた。箱の中には六つの丸い綺麗な玉が並んでいた。野球のボールくらいの大きさだ。色は、黒・白・赤・黄・緑・青の六色だ。
「これから魔力の属性を調べるよ。これらの玉を手に取り魔力を流すと、属性がある場合は光り、属性が無い場合はそのままとなる。では早速始めよう」
お父様は最初に青い玉を取り上げ、私に渡した。
「青い玉は水の属性だ。これは間違いなくあるだろう。私の娘なのだから。むしろ、なければおかしい」
えぇっ………そんな………本当の娘じゃあないのに大丈夫かしら………。緊張する~~。
私は青い玉を受け取ると、魔力を流した。すると、青い玉は一瞬強く光り、その後玉と同じ青色の光が溢れだし部屋いっぱいに広がった。暫くするとすうっと消えていった。
「やはり属性は強めだね。思った通りだ」
「さすが、旦那様の娘と言ったところですね」
あぁ、良かった。ホッとした。とりあえず、ひと安心。水のベリルの娘が水の属性ゼロだったら困るもの。 あとは、属性が無かったとしてもなんとか誤魔化そう。
そう思ったら、残り五つの玉は落ち着いて試せそうな気がしてきた。
読んでくださり、ありがとうございます。感謝、感謝です。読んでくださった皆様に良い事がありますように!