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赤い瞳の管理人

 ベリルお父様はフワリと何の衝撃も無く地面に降り立った。

 私は背から飛び降り、辺りを見回していると、側で一瞬何かが光った。慌ててそちらを振り向くと、見知らぬ男の人が立っていた。

 スラリと背が高く、細いけれどもガリガリという事もなく、佇まいは品がある。薄く緑色が混ざった水色の髪は、ゆるくウェーブがついていて腰の辺りまであり、首のうしろで一つにまとめてある。肌は白く、顔立ちは整っていて美しい。白い襟つきのシャツにベージュのズボン………若い人はパンツと言うのかしら………同じくベージュのベストを身に付けている。年の頃は40代といったところだろうか。金色の優しげな瞳は見覚えがある。先ほどまで私が乗っていた、美しいアクアマリンのような鱗を持つドラゴンのものだ。ということは、この男の人はベリルお父様ということになる。

 「………ベリルお父様ですか?」

 「そうだよ。これが私の人型の姿。君とよく似ているだろう?」

 「髪の色は同じだとわかりますけれど、顔に関してはまだわかりません」

 そう、鏡を見ていない以上似ているとか言われても困る。それにしても、ベリルお父様素敵だわ………。品があるし、優雅だし、美青年というよりは美中年ねぇ。実年齢は置いておいて、見た目は夢乃よりも若いわよ。自分よりも若い人をお父様と呼ぶのはなかなかに難しいわね。………でも、新しい身体と共に新しい人生を始めるんだもの、努力しましょう。そう、新しい人生。あっ………そうだ。

 「あの、お願いがあるんです。私に名前を付けていただけませんか?」

 「名前を?」

 「はい、見た目も変わったことですし、この髪の色に夢乃は合わないかなと。新しい人生を始めることでもありますし」

 「そうか、では考えるとしよう。ふむ………、ん?そのピアスの石はローズクォーツかな?」

 「えっ?ピアス?そういえば、今日はローズクォーツだったかな」

 「よし、では名前はローズでどうかな?安易ではあるが、なかなかに可愛いと思うよ」


 ローズか………うん、可愛いね。大輪の赤い薔薇ではなく、白い小さな野バラを思い浮かべた。


 「ありがとうございます。今日から私はローズですね。改めて、宜しくお願い致します」


 私は深々と頭を下げた。


 その時、家の方から慌てた様子で誰かが飛び出してきた。


 「旦那様~、来るときは連絡してくださいと何回言ったらわかっていただけるんですか~?急は困りますよ~。こちらの用意もあるんですからね~」


 走りながら叫んでいるのは、若い青年だ。パステルピンクのふわふわとした髪を揺らして、あっという間にこちらに来た。


 わぁ………速っ。


 その青年は私の存在に気が付くと、姿勢を正して頭を下げた。そして、眼鏡をかけ直し私の頭の先から足の先までゆっくりと眺めると、目を見開いて訊ねた。

 「旦那様、こちらのお嬢さんは……………旦那様とどういうご関係ですか?他人ではありませんよね」

 「あぁ、うん。私の娘だよ。ローズというんだ。これから此処で一緒に住むから、宜しく頼むよ。ノト」

 「娘?旦那様の?」


 そう言い、びっくりした顔をした次の瞬間、ふわふわの頭の上から、白くて長い耳がピョンと出てきた。ウサギの耳だ。 


 えっ、ウサギの耳ってことは、この人………獣人っていうことよね。ウサギの獣人。だから脚が速いとか? ベリルお父様よりは背が低いけれど、この人もスラリとしていて優雅だ。ふわふわとしたパステルピンクの髪は肩のあたりまであり、優しげな顔立ちにとても似合っている。眼鏡越しに見える瞳は紫色だ。整った顔立ち………もしかして、この世界の住人は美形ばかりとかいうのかしら?それって凄く楽しみ。


 「ローズ、この子はノト。この家の管理人をしてもらっているんだ。ごらんの通りウサギの獣人だよ。分からないことはノトに訊いてね」

 「はい、初めまして。ローズといいます。これから宜しくお願い致します」


 私は深々と頭を下げて挨拶をした。

 彼---ノトは眼鏡を外して笑顔で答えた。


 「こちらこそ初めまして。ノトといいます。ローズお嬢様」

 「あ、あの、お嬢様は止めてください。ローズと呼んでください。お願いします」


 ノトはベリルお父様をチラリと見た。お父様が頷くのを確認して自らも頷いた。


 「分かりました。 ローズ、これから宜しくお願いします」


 爽やかな笑顔がキラキラと眩しい。だが、眼鏡を外した彼の顔が先ほどとどこか違う。あぁ、瞳だ。瞳の色が違う。眼鏡をかけていた時は紫色だったのに、外した今は赤い色をしている。明るい赤だ。 

 元の世界で見かけた、赤い目の白兎を思い出した。

 

 







読んでくださりありがとうございます!感謝、感謝です。読んでくださった皆様に良い事がありますように✨

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