3つの提案
次話の投稿に時間がかかってしまいました………。
美しく優雅な大きなドラゴンに見とれてしまい、何も言葉を返すことが出来ずにいると、慌てたようにドラゴンが話しかけてきた。
❮ 大丈夫かい? どこか痛むところでもあるのかい? ❯
「いえ、大丈夫です!」
慌てて姿勢を正し直立不動になった私を見て、ドラゴンはほっとしたように話し始めた。
❮ 大丈夫ならばなにより。 まずは、座って楽にしなさい ❯
私は静かに腰をおろし次の言葉を待った。
❮ ここは東の森……魔物が棲む深い森だよ。 東の大陸にあるから東の森……と言われている。東の大陸の中では西にあるんだけれどね。その辺りの説明は今度してあげよう。その東の森にある私の隠れ家がこの洞窟というわけだ。ここ以外にも何ヵ所か隠れ家はあるんだよ ❯
ドラゴンはそっとくつろいだような感じに身体を横にして、首から上は真っ直ぐ持ち上げ、話しを続けた。
❮ 私と同じ竜の気配を持つ者から、君を庇護して欲しいと頼まれたのだよ。同じ竜の頼みを無視する訳にはいかないからね、引き受けることにしたのだよ ❯
そう言うと、ドラゴンは龍神様とのやり取りを教えてくれた。
--------柔らかく射し込む光を浴びながら微睡んでいたときのこと。ふいに、何かの気配を感じ、気配のある方を見つめると、いままで何も無かった空間が裂け始め暗い闇が見えてきた。その闇の中から自分と同じ竜の気配を感じる。
時空の裂け目か?400年ぶりくらいか?………今回は竜の気配を感ずるが………。
そう思ったとき闇の中から声が聞こえてきた。
《 同じ龍神の気を持つ者よ、この者を頼む。庇護してやってほしい 》
❮ この声は私と同じ竜なのか?この者とは? ❯
《 信心深く、真面目な者なのじゃ。そちらの世界に行ってしまうようでな、心配でならぬ 》
❮ ふむ、承知した。安心めされよ ❯
《 おぉ、かたじけない!感謝する。………夢乃よ、達者でな 》
ふむ、この者とは夢乃というのか。
そう考えていたとき、裂け目の中の闇に何か見えてきた。人の姿が見える。
❮ 心配いらないよ。私はこう見えて面倒見は良い方なんだ ❯
………人族か。人族の女のようだな。
だんだんと近づいてきて、裂け目からこちら側に落ちてきた。ドスン!と音がして、人族の女が座り込んでいた。呆けたような顔で辺りを見回している。どうやら怪我は無さそうだ。
ふむ、人としてはそれなりに年をとっていそうな感じだな、若くはない。………まぁ私からみたら雛のようなものだがな。
❮ ようこそ。東の森の私の隠れ家へ ❯
そう声をかけると、その者……夢乃はゆっくりと振り返り私を見上げて固まっていた。--------
❮ という事なのだが、理解してもらえたかな? ❯
「はい、だいたいの流れはわかりました」
❮ さて、庇護するのはかまわないのだけれど、君に選んでもらわなければいけない事があってね。 まず、1つめはこの世界で人として残りの数十年を過ごす。もちろん君の安全は保証するよ。 2つめは、若返ってこの世界で人として過ごす。新しい人生をやり直す感じだね。 3つめは、私の力を与えて眷族としてこの世界で生きていく。人としてではなくね。 さて、どれを選ぶ? ❯
え~っと………急に言われても…ねぇ……。う~ん、今52才でしょ、残りの人生……年をとっていくだけよね、あまり楽しくはなさそうよね。若返ってといっても、知り合いが一人もいない世界で上手くやっていけるか不安よね。ならば、眷族として力をもらって生きるほうが安心だし面白そうだし楽しそうよね!!うん、決まり!新しい人生を面白おかしく生きるって決めたんだもの。
「あの……3つめの眷族でお願いします」
❮ ほぅ……それを選ぶか。かまわないのだけれど、人としての生き方に未練は無いのかい? ❯
「私、人として52年生きてきました。それなりに楽しかったです。ですから、残りの人生は全く違う生き方をしたいです」
❮ そうか…………なるほどね。良いだろう。では、私の力を与えるのだけれど、まず………眼を閉じてくれるかな? ❯
眼を閉じて待っていると、額に何かがピタッと貼りついた。最初はひんやりとしていたのに、徐々に熱を帯びて波動のようなものが額から身体に入り込んでくる。顔、首、胴……手足まで行き渡ったあたりでまた声がかかった。
❮ 今度は口を開けてごらん ❯
素直に口を開けると、何かがポタンポタンと三滴ばかり口の中に垂れてきた。三滴といってもそれなりの量がある。
………ん?何だろう?
そう思った瞬間、どくんどくんと心臓が早鐘を打って耳鳴りがしてきた。熱が出てきたのか身体中が熱い。指先足先まで拍動を感じる。
………私、大丈夫かな?………このまま逝ってしまうなんて事ないよね………。
思わず蹲って身体を丸めてしまった。しばらくすると熱も拍動も耳鳴りも落ち着いてきた。
シーンとした空間の中、離れたところでポタリ、ピチャッと水滴が落ちるような音が聴こえる。ササササッと岩肌を這う虫の音も聴こえる。湿った土の匂いと木々の匂い、遠くに生き物の気配も感じる。
………私、凄く感覚が研ぎ澄まされているみたい。それに、身体が軽い。
スッと立ち上がり、辺りを見回してみた。薄暗いというのに、洞窟の中がハッキリと見える。
❮ どうかな?新しい身体は。辛いところは無いかな? ❯
両手で身体中を触ってみた。
………。おぉ~~お肌がスベスベしっとり、髪も艶々サラサラ。なんと!ウエストがちゃんとある。括れたウエストなんて若い頃以来よ。それだけじゃない!胸も大きくなってる!くぅ~~結構なナイスバディではありませんか。正直、嬉しい!諦めていたものが手に入った!嬉しすぎる。
私、かなりニヤニヤしていたらしい。
❮ その様子だと問題無いみたいだね。しかもかなり気に入ってもらえたみたいだね ❯
「はい、正直嬉しいです」
❮ それは何より。ところで、君は確か52才だったね? ❯
「はい、そうです」
❮ 今の見た目は、かなり若いよ。人でいえば15、6才といったところかな ❯
おぉ~若返っているのね。ラッキー。
❮ それに、私にとても良く似ている。かなり可愛いと思ってくれて良いよ ❯
えっ?ドラゴンに似ている?それってリザードマン的な?………よくアニメやマンガに出てくる?………でもこのスベスベのお肌は違いますよね?
変な顔をしていたのか、笑い声をあげながらドラゴンはこう言った。
❮ 似ているといっても今の竜型ではなくて人型の方だよ ❯
「人の姿にもなるんですか?」
❮ もちろん。後で見れるよ。………さて、まだピンとこないだろうけど、私の、ドラゴンの鱗と血を得て君は私の眷族になり、ドラゴンの力を得たんだ。ただ微かに人の部分が残っているから、完全なドラゴンではないよ。竜人といったところかな。それでもかなりの力だよ。身体の頑丈さや魔力はかなりのものだ。魔法は練習しないと駄目だけれどね ❯
………凄い!魔力に魔法?くぅ~~、ファンタジー。
わくわくする私とは違ってドラゴンは何か考え込んでいる。
❮ ん~~これだけ似ていると眷族というには無理があるかもしれない………さて、どうするか。ふむ………。………おぉそうだ、娘というのはどうだ?私の娘ということで ❯
「は?」
❮ うむ、そうしよう。ちょうど退屈していたところだし、娘を持つ父親というのも楽しそうだ。これだけ似ていれば、皆信じるであろう。ふふふ、面白くなってきたぞ ❯
ドラゴンはそう言うと、顔を近付けて私に言った。
❮ 私の名はベリル。………古代竜の水のベリルと言われている。今から君の父親だよ。仲良くしておくれ ❯
………私の意見など聴く事もなく、娘となる事が決まってしまった。
読んでくださり、ありがとうございます! 感謝です。読んでくださった皆様に良い事がありますように!