豊穣の石
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「そう、そうよ、お父様から聴いたのよ」
「ん?何のことかな?」
「蟻の魔物です!」
「蟻の魔物?」
「そうです。さっき、ノトの幼馴染みの傭兵さん達が話してました」
「ノトの幼馴染み?‥‥‥ノト、何を聴いたか教えてくれるかな?」
「はい、なんでも魔物が多く冒険者は忙しくて、それで傭兵団に依頼がきているのだとか。回復薬が欲しいとも言われました。魔物は蟻の魔物と言っていました。これからヨーツの街に向かうそうです」
「ヨーツか。魔物が出没したのはヨーツなのかな?」
「出没場所まではわからないです。ヨーツには、ローゼンタール傭兵団の本部がありますので、とりあえず向かったのかもしれません」
「そうか、情報を集めないといけないね」
「そうですね」
ベリルは顎に手を当てて考えていたが、何かを思い出したかのように視線をノトに向けた。
「そうだ。ノトに渡すものがあるんだよ」
そう言うとアッという間に右手の上に黄色い透明の石が現れた。
「これはね、ヘリオドールからの結婚のお祝い。〈豊穣の石〉だよ」
「〈豊穣の石〉?これが‥‥‥?」
「あの、お父様〈豊穣の石〉って?」
「〈豊穣の石〉はね、大地の恵みを約束するものなんだよ。この石を埋めた場所を中心に、土地は肥え作物は豊作となる。その地に住まう者達も恩恵を受けて、心豊かに穏やかになるそうだよ」
「それ、凄いですね‥‥誰もが欲しがりそう」
「そうだね、ノトが持っていると知られたら、狙われるかもしれない」
「えぇ?不味いじゃないですか!ノトが危ない。知られちゃ不味いですよ!」
「ふむ‥‥‥そうだね‥‥‥ノト、誰にも言わずに、石を埋めてしまおうか」
「埋める?」
「そう。ここには庭はあるかい?」
「はい、狭いですけど、裏にあります」
「よし、じゃあ庭に行こう。ほら、行くよ。誰かに見られる前に埋めてしまおう」
「「 は、はい 」」
ノトの案内で皆で裏庭へ向かい、庭の中心にノトの土魔法で深く穴を掘り〈豊穣の石〉を埋めた。
石を埋めた後、ぽわぽわんと地面が暖かい気を放った。
そして、生えている草がざわざわと揺れ成長を始め膝丈ほどになった。
「うわ、凄い。もうこんなに育ってる。‥‥でもこれ雑草よね。ユゥナさん怒らない?」
「うぅ、怒るかも。草は抜かないと‥‥」
「手伝うから、やっちゃお」
「ありがとう、ローズ」
皆で伸びた草を抜くと、庭は以前と変わらない様子に戻った。
「ふむ、かなりの効果だね。この分じゃ畑は凄い事になってるかもね」
「お父様、畑だけじゃないと思いますよ」
「ベリル様、村人が騒ぎ出す前に帰られた方が良いかと」
「ロータスの言う通りかもしれないね。帰ろうか」
ノトとローズ、クリムゾンが頷いた。
皆で店の外に向かう途中、ノトが慌てて布に包まれた箱を持ってきてローズに渡す。
「これ。ホンベルクのギルドに納品を頼むよ。それぞれ納品先を書いてあるから」
「わかったわ。話ってこの事ね」
「うん、そう、宜しくね。それと、落ち着いたら僕も薬作りに取りかかるからローズ達もお願いね」
「勿論。魔物の数によっては薬も回復薬も足らなくなるかもしれないものね。それで、納品は明日でいい?それとも今日中?」
「明日でいいよ。ありがとう、宜しくね」
「任せて!」
ローズはノトから受け取った箱を空間収納に入れ、箒を取り出した。
隣ではベリルも箒を手にしている。
「ノト、結婚おめでとう。幸せになるんだよ。困った事があったら遠慮なく訪ねてきなさい」
「はい、ベリル様。ありがとうございます」
「ノト、おめでとう」
「おめでとうございます、ノト」
「おめでとうにゃ、次は子供だにゃ」
「ありがとう皆。クリムゾン、気が早いよ」
「ふふふ。早くないかもよ」
「いやぁ‥‥それは‥‥‥」
照れるノトに笑顔で手を振って、ローズ達は〈森の家〉目指して箒で飛んで行った。
あちこちで雑草が生い茂っているのは気が付かない事にして‥‥‥。
ローズ達が去った後、ナズナ村では大騒ぎになっていた。
空き地や道端の雑草は生い茂り、実のなる木や畑の作物はたわわに実っている。
嬉しい気持ちと待ち受ける草取りにうんざりした声があちこちで響いていた。
そして、
『きっと大地の祝福があったんだろう』
村の人々は口々に言うのだった。
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:*(〃∇〃人)*: