結界
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展望室の奥の辺りに着くと、同じように奥に向かって来る人達が見えた。
20人位はいるだろうか、皆怯えた顔をしている。
はっ、そうだ。トレントの子、ティムは大丈夫かしら?
ずっと抱えたままだったわ。
「ティム、大丈夫?何ともない?」
「うん、平気だよ。僕、じっとしているから安心してね」
「良かった」
誰かが声をあげた。
「おい、従業員、早く結界を張ってくれ!」
「申し訳ございません!結界を張る魔道具が壊されていて、使えないんです!」
「だったら、早く扉を開けて、出口に案内してくれ!」
「それが、出口の扉も開かないんです!」
「何をやっているんだ!どうするんだ!」
「申し訳ございません!私達もどうしたらよいか………」
皆、ざわざわと騒ぎ出した時、展望室の結界の無いテラスから大きな声が聴こえてきた。
-----ギャギャギャギャーギャアー
-----ガシンッ、ガシャン、
ワイバーンが手摺に足をかけ、隙間から顔をねじ込もうとしている。
此方に入られてしまったら、中は天井が高いので自由に動き回ることが出来る。
これは不味い!どうなるの?
お父様がスッと立ち上がった。
「皆、此方に集まってもらえるか?結界を張る」
一瞬、皆はポカンとしていたが、直ぐに意味を理解して集まって来た。
---キィーーン---
お父様は皆が集まったのを確認すると、私達を囲むように結界を張った。
「ふぅ~やれやれ」
「良かった………」
皆、安心したのかホッとため息をついていた時、突然女性が大きな声で叫んだ。
「私の娘はどこ?娘がいないわ!」
えぇっ? 娘?
「あっあそこ!座り込んでいるぞ!」
誰かが指差す方を見ると、小さな女の子が床に座っていて、ワイバーンを凝視している。
恐怖で声も出せないみたいだ。
あのままじゃ危ない、誰か………。
誰もがそう思っても動けないでいると、お父様が素早い動きで女の子の元へ行き、抱き上げた。
「もう大丈夫、心配いらないよ」
優しく微笑んだその時、バキバキッと音をたてながら柵を壊してワイバーンが身を乗り出してきた。確実にお父様と女の子をロックオンしている。
「お父様危ない!早く!」
お父様は左腕で女の子を抱えると、右手をワイバーンに向けた。
右手から物凄い勢いで水が飛び出て、あっという間にワイバーンは吹き飛んでいった。
何て言うか、高圧洗浄の水のもっと凄いの………という感じだ。
ホッとしたのも束の間、他のワイバーン達も此方に気付いたようで、次々に此方に向かって飛んで来る。岩壁や手摺に足をかけ入ろうとしてくる。
「ねぇ、ベリル様を助けに行かなくていいの?」
ティムが小さな声で話しかけてきた。
女の子を抱えたままでは、お父様も上手く対処できないわよね。なら、女の子は私が。
「そうね。何もしないわけにはいかないわね」
ティムをそっと床に下ろすと、結界を飛び出して二人の元へ向かった。
「お父様、女の子をこちらに」
「何故来たんだ。いや、今はそれはいい。この子を連れて直ぐに戻りなさい。結界から出ては駄目だよ」
「はい」
女の子を受け取ると、私は一目散に結界が張られた方へ走って行った。
結界の中に入ると、直ぐに女の子のお母さんが駆け寄って来たので、そっと渡した。
間に合って良かった。
「良かったねぇ」
「うん、良かった。ティムが声をかけてくれたからよ」
「そう?」
「そう」
私はまた、ティムを人形を抱くように抱えた。
「よし、一気に片付けるか」
お父様は両手を前に出し、小さな声で《 雷 撃 》と呟くと、手の周りにバチバチと蒼白い光が踊り、それが幾つも枝分かれしてワイバーンめがけて飛んでいった。
-----バチバチッ、ビリビリッ、ドォーン-----
何体ものワイバーンが後方に落ちていった。
「これでここにも結界を張っておけば、とりあえずいいだろう」
そして、展望室のテラス全体にも結界を張った後、此方に向かってゆっくりと戻って来た。
「お父様、お疲れ様です。お怪我はありませんか?」
「あぁ無いよ。それよりも、あの子は大丈夫だったのかな?」
「はい、お母さんのところにいますよ。怪我もしていないようです」
「それは良かった」
優しく微笑んだ姿は本当に素敵だ………。
しかも、魔法も凄い。
これはさぁ………ファザコンになってしまいそうだよね。
「何事もなかったから良かったものの、結界から出てはいけないよ。君はまだ洗浄魔法しか使えないのだからね。わかったかい?」
「はい、すみません」
怒られちゃった。
あぁ~あ。
「でも、よくあのタイミングで動けたね。助かったよ」
そう言って頭をポンポンしてくれた。
えへへ~。
ちょっと嬉しい。
こんな時に力になれるように魔法の練習を頑張ろう、うん。
お父様が従業員の人に声をかけた。
「このまま、ここにいても仕方ないね。避難路はないの?」
「そういうものは無くて………」
「では、従業員用の通路はないの?」
「それでしたらあります!こちらです」
目立たないように作られた扉をさして、従業員のお姉さんが話を続けた。
「狭いですが、一列になれば大丈夫です」
「なるほど。私は最後に行くから、皆に声をかけて一列に並んでもらいなさい」
「はい、わかりました。 皆さーん、一列に並んでくださーい。従業員用の通路から、外に向かいますよー!」
「おぉ~良かった」
「外に出られるのね」
「助かった」
皆、口々に安堵の言葉を呟き、笑顔で通路に入っていった。
私達は最後に列に並び、展望室を後にした。
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