満天の星
見つけてくださり、ありがとうございます✨
「ノーザンさんの甥ってことですか?」
「えぇそうです。叔父の逆鱗をもらったという話を聴いたので、ぜひお話ししてみたいと思っていたんです」
「逆鱗‥‥‥もしかして、親族でもないのに不味かったですか?」
「いえいえ、何も問題ありません。誰に逆鱗を渡すかは個人の自由ですから。ほとんどは子に渡す事が多いですね」
「子どもに‥‥」
「叔父は独り身でしたから、本当に問題無いんですよ。叔父の最期を看取ってくださり感謝しております。姫様」
「私は大したことは何も。あの、私のことはローズでいいですから。姫様は呼ばれ慣れていないので」
「‥‥‥仰せのままに」
ポラリスは右手を胸に当てると軽く会釈して笑った。
「久しぶりだね、ポラリス」
「ベリル様もおかわり無く何よりでございます。叔父がお世話になりました」
「気にする事は何もない。私の仕事でもあるのだから」
「それでも、やはり感謝致します。叔父の最期はとても幸せなものだったと聴いております。ありがとうございました」
改めて頭を下げるポラリス。
ベリルとポラリスが並ぶと、まるで兄弟のように見えるくらい雰囲気が似ていた。
「ベリル様、ご都合がつきましたら【氷竜の郷】へも是非お出でになってください。姫様も一緒に。皆も慶びましょう」
「そうだね‥‥‥都合がついたら‥‥‥」
「ポラリス。婚約者を放っておいていいの?」
いつの間にか直ぐ側にビョルンが来ていた。
取って付けたような笑顔だ。
「ビョルン様、‥‥そうですね。確かに放っておいてはいけません。では、私はこれで失礼致します」
その場を辞したポラリスの背を暫く見つめたビョルンは、周囲を一通り見回す。
‥‥‥はぁ、どいつもこいつも隙あらばって顔してるな。 コイツ分かってるのか? ったく、面倒臭い。
ローズに向き直ると、左手を差し出す。
「バルコニーから見る夜空は、満天の星が見事ですよ。どうですか?」
「星?」
「構いませんか?ベリル様」
「あぁ、勿論。ローズ、行ってくるといい」
「は、はい‥‥」
‥‥‥お父様にそう言われたら行くしかないじゃん。気が乗らないのに。 ビョルンてさ、この子の笑顔ってわざとらしいのよ。絶対何か、裏がありそうよ。
そう思いながらも、笑顔を浮かべて右手をビョルンの手に重ね、手を引かれてバルコニーへと向かう。
円形に張り出したバルコニーに出ると、音楽が遠くなり急に静かに感じる。
ひんやりとした空気の中、目の前には空いっぱいに広がる星空。
月が出ていない為に星を隠す光は無く、地上にも灯りは無い。
「凄い‥‥星‥‥‥綺麗」
‥‥‥森の家や魔の森から見る星空よりも綺麗。此処の方が空気が澄んでるからかな。
うっとりと空を眺めるローズ。
ビョルンはそっとその手を離す。
「この星空は見事だろう?」
「ええ、本当にそうね。ありがとう」
「‥‥‥別に礼なんていいさ。面倒臭そうなことになりそうだから連れ出しただけ」
「面倒臭そうって?」
「やっぱり、気付いて無いんだ。だと思った」
「え?何が?」
「あのさ、お前、自分の立場とかさ、周りからどう思われてるとかさ、考えた事ある?」
‥‥‥お、お前?急に何?
「立場って?」
「僕達は竜王の息子と娘なんだよ」
「それは分かるわよ」
「6人いる竜王のうち、子がいるのは2人。ベリル様と父上だけ。つまり、僕達だけ。しかも、2人ともまだ番はいない。分かる?」
「‥‥‥え~と」
「独り身の奴らからしたら、絶好の優良物件な訳」
「私達が?」
「そ。僕達と番になれば、漏れなく竜王の後見が得られるんだよ。気を付けていないと、こっちの意思を無視して実力行使に出る輩もいる」
「まさか‥‥」
「実際、寝台に女が潜んでいた事もある」
「は?本当に?嘘‥‥」
「特に竜族に気を付けた方がいい。竜族にとって、竜王は特別な存在だから」
「う‥‥‥」
「さっきのポラリスだってそうだ」
「でも、婚約者がいるって」
「そんなの、どうとでもなる」
「えぇ?」
「ま、気を付ける事だな」
「‥‥‥だから、此処に連れ出してくれたのね。‥‥ありがとう」
「‥‥‥別に」
ビョルンがフイと顔を背ける。
‥‥‥何か裏があるかと思ったけど、結構優しいところあるのね。
「ねぇ?」
「何?」
「私と目が合った竜は‥‥ビョルンなんでしょ?」
「あぁ‥‥‥‥‥お前、バルコニーで呆けた顔をして見てたな」
「呆けたって、それは無いでしょう。びっくりしただけよ」
「自分だって竜族なのに、何をびっくりするのさ」
「だって、私、そんなに竜族の人に会ってないし」
「自分の姿を見てるだろう?」
「‥‥‥‥‥私、竜型になれないもの」
「え?」
「‥‥‥」
「本当に?」
「うん‥‥」
「あ‥‥‥なんか、悪い‥‥」
「ううん、大丈夫」
気まずい沈黙が続く。
‥‥‥竜型になるなんてそんなの考えたことも無いよ。
「あ、あのさ。練習してみれば?」
「練習?」
「僕だって、直ぐに竜型になれた訳じゃない。それなりに練習したから」
「そうなの?」
「僕達は純血の竜じゃないし、卵から孵った訳でもないしね。仕方無いよ」
「卵からって?」
「人型になっていても、子を産む時はさ本来の姿で産むんだよ。だから竜族の女は卵を産む。生まれた子は竜の姿だから、僕達とは逆に人型に変化する練習をするのさ」
「そうなんだ」
「僕の母上はスノーレディ、お前の母上は人族なんだろ?元々人型だから、竜型になる練習をする。練習するしかない」
「そっか‥‥‥‥‥私にも出来るかな?‥‥私には、魔力のほとんど無い人族の血が入ってるんだけど」
「魔力の無い人族か‥‥‥んーーー‥‥やるだけやってみたら?」
「そうね、やってみようかな」
‥‥‥自分が竜型になれるか、ちょっと興味あるし、お父様に相談してみようかな。
「あ、あのさ、変化するところ、見せてもいいけど‥‥‥」
「え?」
「見たかったら、だけど」
「いいの?」
「別に‥‥‥いいけど」
ビョルンは顔を背けながら、素っ気なく言う。
「見せてもらって良いなら、お願いしようかな」
「じゃあ、明日の朝食の後、外に来なよ」
「外?」
「城の入口で待ってるから」
相変わらず顔を背けたまま。
ビョルンの耳が少し赤く染まっているのが見えたけど、気付かない振りをしてローズは答える。
「わかった。城の入口に行くね。楽しみにしてる」
「‥‥‥うん。‥‥‥冷えてきたからそろそろ戻ろう」
「そうね」
広間に戻った後、ローズはそのまま部屋へと向かい早々と寝台に潜り込んだ。
‥‥‥ビョルンって口は悪いけど、結構いい子みたい。良かった。それに、もしかしたら私も竜型になれるかもしれないしね。あ~楽しみ。
なかなか寝付けないローズだった。
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:*(〃∇〃人)*: