御霊---みたま---送り
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ベリルは優しい声音で語り出す。
「誇り高き竜族のノーザン。その生を全うした事を此処に認めよう。さて、君は選ぶ事が出来る。此処、竜の谷で静かに眠りにつくもよし、女神の元へ行き審判を受け【輪廻の環】へと戻っていくもよし‥‥‥‥‥さぁ、どちらを選ぶ?」
「そうですね‥‥‥実は‥‥此処で永久の眠りにつくかと考えていたのですが、考えが変わりました。 今は【輪廻の環】へと戻っていきたいです」
「‥‥‥理由を訊いても?」
「大した理由ではありません。次の『生』で、妻や子を持ってみたいと思っただけで‥‥」
「そうか‥‥‥良いのではないか? 今生で経験しておらぬことに挑戦するのも、また一興‥‥」
「はい、そうします」
「‥‥では、御霊を送らせてもらう」
ベリルの掌から溢れる光が更に大きく拡がる。
白く淡い光がノーザンを包んで、そして、徐々に消えていく。
-----ふわり-----
ノーザンの身体から、光る玉が浮かび上がった。
光る玉は空中にふわふわと浮いている。
ベリルが腕を動かすと、光の玉の側に小さな虹が現れ、遠く遠く、山の向こうへと、女神の島へと延びていく。
さながら、虹の橋のようだ。
「さぁ、女神の元へ」
返事をするかの様にチカチカと点滅すると、光の玉は虹の上を滑っていき、虹は手前から少しずつ消えて無くなった。
‥‥‥あの光の玉はノーザンさんの御霊って事よね。 本当に虹の橋を渡って行っちゃったの? もう、此処にはノーザンさんはいないの?
ローズは虹が消えた空をじっと見つめる。
-----ドサッッッ-----
大きな音を立てて、ノーザンの身体が倒れる。
ベリルは腕を下ろし、一際優しく呟く。
「大地に還れ」
-----ザザザッッッ-----
先程まで其処に横たわっていた大きな竜の身体が、砂の城が消えていくかの様に崩れて、骨と牙、爪、魔石を残し、後は大地に吸い込まれていく。
一度離れてしまえば分からないほど、周りの景色と同じ様になった。
ローズは茫然とその様子を眺めていた。
‥‥‥何? これ、あっという間。もう、骨や魔石しかないじゃん。 こんなに、こんなに呆気ないの? え? 命が1つ消えたんだよ? こんなに‥‥‥。
「‥‥うっっ」
-----ポタポタ、ポタポタ。
次から次へと溢れる涙がローズの頬を濡らしていった。
「うっ、うっ、ぐずっ」
「何故? 何故そんなに泣く?」
ベリルが不思議そうな顔で訊ねる。
「え?何故って、だって今、目の前でノーザンさんが死んじゃったんですよ?あっという間に身体も無くなっちゃったし」
「ノーザンとは今日初めて会っただろう?それなのに何故そんなに涙を流すのだ?」
「 え? 」
「御霊は女神の元へ送ったし、肉体は大地に還った。朽ちるままにはしておけないから、仕方がない」
「それは、そう、ですけど‥‥」
「そもそも身体というのは御霊---魂の『器』でしかない。思い入れはあるだろうが、それだけだ。 魂が無事であれば、新しい『器』を得て新しい『生』を生きる事が出来る。 魂の無事と安寧が保たれる事を祈る方が大事だと思うが‥‥‥」
「‥‥‥そうだとは理解出来ます。でも、先程までお話しして触れ合えた相手が目の前でいなくなったのは‥‥‥寂しいし辛いです」
「そうか‥‥‥君はおそらく『人』の感情と言うものに大きく影響されているんだろう。‥‥勿論、私もその感情は理解出来るし、経験した事もある。だが、初めて会った相手には持てないだろうな」
「『人』の感情?」
「君は『人』の占める割合が多い。『竜』よりもね。これは自覚しておいた方がいい。何処で命取りになるか分からぬ」
「‥‥‥‥‥はい」
ベリルはふぅと溜め息を吐く。
そして、ローズに近寄りそっと抱き締めた。
「!?」
「子が泣いていたら、親はこうするものなのだろう?」
「うっ、うっ、ひくっ」
‥‥‥実の親にもしてもらったこと無いかも。
ローズは余計に涙が溢れるのだった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥。
優しく髪を撫でられ、心が落ち着いた頃、いつしか涙も止まっていた。
「もう、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。すみません」
「謝ることはない」
そっと腕を手解き、ローズの顔を覗きこむとベリルは何やら考え込んだ。
「‥‥‥ふむ」
「あの?何か?」
「このまま、家に帰るかどうするか。今の状態で帰ったら、クリムゾンやロータスが心配するだろう」
「あ、目は回復魔法をかけますよ」
「見た目はそれでも良いが、心はそうはいかないだろう?」
「心?」
「そう‥‥‥‥‥。お、そうだ、これからヘリオドールの処へ行くか」
「ヘリオドール様?」
「以前から、遊びに来いと言われていたし。そうしよう」
「遊びに?」
「そうだ。ヘリオドールが住む、北の大陸の【白亜の城】」
「【白亜の城】‥‥‥其処にヘリオドール様がいるんですね?」
「ああ、此処とは違う景色を楽しめる。少しは心も晴れるだろう」
ローズ達は北の大陸に住む【地の竜王ヘリオドール】を訪ねる事になった。
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:*(〃∇〃人)*: