初めての人
見つけてくださり、ありがとうございます✨
レオンは何人かのご婦人との別れを済ませ、今は王都の通りを歩いていた。
見慣れた景色を眺めながら歩を進める。
‥‥‥あと残すは、パドール夫人か。 こうして訪れるようになって、何年になるか‥‥10年くらいか? こんなに長いのは夫人だけだな‥‥。
躊躇うこと無く小路を進み、目当てのサンルームに辿り着く。
そっと扉を開けると、静かに本を読む麗人が目に入る。
‥‥‥本当に綺麗だな。父上の幼馴染みとは思えない。 まぁ、我々魔族にとって年齢などあてにならないが。
扉にもたれ掛かり暫くその姿を見つめていると、パドール夫人は本から視線を外して顔を上げレオンの方を向いた。
優しい微笑みを浮かべる。
「まぁレオン、来ていたのなら声をかけてちょうだい?」
レオンは口元を綻ばせながら近付き、夫人の手を取ると指先に口付けた。
「麗しい姿を眺めていたかったのですよ」
「相変わらずお世辞が上手だこと」
「お世辞ではありません‥‥‥」
レオンは手を離すこと無く、じっと夫人を見つめる。
「 ? 」
‥‥‥今日のレオンはいつもと感じが違うわね。何かあったのかしら? あぁ、そういえば‥‥‥‥‥。
パドール夫人は昨夜耳にした噂を思い出す。
‥‥‥そういえば、関係があった女性方に別れを告げて回ったとか。 今日訪れた理由もきっとそれね。
「‥‥‥別れの挨拶に来たのね」
「‥‥‥‥‥」
レオンの眉が少し下がる。
「心配しないで。噂は聴いているから。こうして会いに来てくれて嬉しいわ」
「パドール夫人、その‥‥」
「お相手が決まったの?」
「まだ、これからです」
「これから?‥‥貴方にしては随分のんびりしているわね」
「まぁ、いろいろありまして」
「そう‥‥‥でもね、のんびりしていると誰かに盗られてしまうわよ?」
「盗られる?」
「そうよ。早く動いた方が有利よ?」
「‥‥‥」
パドール夫人が黙りこむレオンの顔を覗きこむ。
「ごめんなさい、私が口を出す事ではないわね」
「いえ‥‥」
「私に会いに来るのはこれが最後なのでしょ?」
「‥‥‥はい」
「余計なお喋りは止めましょう。さぁ、もっと顔を見せて?」
夫人がレオンの顔を両手で挟み込み、そっと口付ける。
レオンは静かに腕を夫人の腰に回して引き寄せる。
‥‥‥私に男女のあれこれを教えてくれたのは夫人だったな。 王城で声をかけられた時はとても緊張した。 美しい姿に見とれてしまった。 こうして会うのも今日が最後か。
「パドール夫人、今までありがとうございました」
「お礼なんて言わなくていいのよ。私の方こそありがとう。貴方と共にいる時は若い娘に戻ったようで楽しかったのよ」
「そうですか?」
「えぇ。‥‥‥‥‥時間はあるの?」
「勿論です」
「では、最後の逢瀬を‥‥」
「‥‥‥はい」
2人は寄り添いながら、奥の部屋へと消えて行った。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥。
「ふぅ‥‥‥」
レオンが歩きながら溜め息をつく。
物憂げな表情はどこか色気を感じさせるのか、すれ違う令嬢が頬を染めて見つめてくるがレオンは気付かない。
‥‥‥パドール夫人が思いを寄せるのは私ではない。 父上だ。 私は父上の若い頃にそっくりだと言われるから、私に声をかけたのは‥‥‥そういう事なのだろう。 私を通して父上を見ていたのだろうな‥‥。
「‥‥‥もう、終わった事だ」
レオンはそう呟くと足早に夕日が照らす街並みを進んで行った。
∗ ∗ パドール侯爵邸 ∗ ∗
ヴァイオレット·パドール夫人は窓の外の夕空を眺めていた。
‥‥‥覚悟をしていたとはいえ、やっぱり寂しいものね。 可愛いレオン。 貴方の幸せを祈っているわ。
-----チリンッ。
窓辺からソファーへと移動すると呼び鈴を鳴らす。
‥‥‥でもね、気になってしまうのよ。レオン、貴方の邪魔はしないから安心してね。
-----コンコン。
「入って」
夫人付きの侍女が入って来ると、にこやかに侍女に声をかける。
「《影》に命じてレオンの相手を調べてくれる?」
「畏まりました」
侍女が下がると夫人はニヤリと笑う。
「これから、いろいろとありそうね。退屈しないですみそうだこと。ふふふ」
‥‥‥相手の令嬢は何処のどんな娘なのかしら? レオンに相応しくなければ、どうしようかしら? 邪魔したくは無いけれど。 本当に相応しくなければ邪魔するのも‥‥アリかしら。
パドール夫人がそう思っていることをレオンは想像もしていなかった。
読んでくださり、ありがとうございます✨
投稿出来ました~✴️
コロナワクチン4回目を打って、熱やら頭痛やら関節痛やらあり、しんどかったですが、復活しました!良かった~✴️
これからも、おつきあいくださると嬉しいです✨宜しくお願い致します。
皆さんに良いことがありますように✨
:*(〃∇〃人)*: