連れていかれる最高老師
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巡回魔動車の中や降りてからもアンバーはいろいろとメルランの事を話してくれた。
メルランはローズが思っていたよりも文明が進んでいるようだ。
中世ではなく近世と言えるだろう。
此処では電気の代わりに魔法が使われていた。
話しているうちに書店街の家に着く。
「そうだ、アンバーさんは普段、食事はどうされているんですか?自分で作るんですか?」
「自分では作らないな。食べに行くか何か買ってくるか‥‥食材を噛るか‥‥‥」
「はぁ?食材を噛る?」
「空腹の時はね」
「‥‥‥‥あの、良かったら夕食を一緒にどうですか?私が作るので大したことないですけど」
「いいのかい?」
「本当に大した物じゃないですよ?」
「構わないさ、ありがとう。流石に食材を噛るのはあまり美味しくなくてね」
「‥‥‥だと思いますよ」
「嬉しいよ」
「準備が出来たら呼びに行きますね」
「いやいや、家の事を片付けたら行くよ」
「そうですか?」
「うん、さぁ家に入って。無事に帰宅したのを見届けたら私も家に入るよ。そうそう、誰か来てドアを開ける時は覗き穴からちゃんと確認してからだよ?」
「はい、わかりました。じゃあまた後で」
‥‥‥アンバーさんって心配症ね。
ローズは部屋に入るとしっかりと鍵をかけた。
誰かが部屋に入ると自動で明かりが点くようで室内は明るかった。
外套を脱ぎ、エプロンを着けると急いで台所で夕食の準備に取りかかった。
クリムゾンも小さなエプロンを着けてローズの手伝いを始めた。
「さてと、家の事は特に無いんだけれども‥‥‥」
アンバーは独り言を呟くと、自分の周りに【認識阻害】の魔法をかけた。
‥‥‥誰かに見られると面倒だからね。
そして、足下の石畳に向かって話しかけた。
「大地に祝福を与え恵みをもたらす地の精霊《 ノーム 》よ、此処に」
-----ふぁわ~~-----
石畳がやわらかく光ると、小さな老人の姿の精霊が現れた。
顎には白い髭があり、衣服を来てとんがり帽子を被っている。
「お呼びですかな?地竜のアンバー様」
「うん、忙しいところすまないんだけど、ちょっと頼みごとをいいかな?」
「勿論ですとも。で、何を?」
「服飾街のグレン商会の店員の様子を調べて欲しいんだ。特に眼鏡の壮年の店員のね」
「眼鏡の店員ですか‥‥‥わかりました。では後程‥‥‥」
そう言うとノームは石畳に消えていった。
‥‥‥これでいいかな。じゃあ2階に行くとするか。
アンバーは階段を上がると呼び鈴を鳴らした。
-----チリンチリンッ-----
ローズは慌てて玄関まで来ると、扉の覗き穴からそっと外をうかがった。
扉の前に居るのがアンバーだと認めると直ぐに扉を開けた。
「ようこそ。すみません、まだ出来てないので居間でお待ちくださいね」
「こちらこそ悪いね、仕度はゆっくりで大丈夫だよ」
「はい」
ローズはまた台所に戻った。
暫くするとクリムゾンがお茶を運んできた。
アンバーはお茶を受け取るとにっこり笑った。
‥‥‥ベリル様はいつもこんな感じなのかな。なんとも穏やかでいい時間だ。
お茶を飲みながらそんな事を考えていた。
∗∗ 時を遡ること数刻前 ∗∗
ベリルは【隠匿魔法】をかけたまま塔の中へと入っていった。
翼を仕舞い姿を現すと魔方陣の上の大きな魔石に魔力を注いだ。
魔石に魔力が満ちると手を離して、自身の姿を変えた。
整った優しげな顔が厳しい老人のものに変わる。
黒いローブのフードを深く被り、杖をつきながらゆっくりと歩く。
歩くたびに少しずつ腰が曲がってゆく。
扉に着く頃にはすっかりと腰の曲がった姿となり、元のすらりとしたベリルの姿はなくなった。
扉を開ける手も老人のものだ。
辺りを見回すが誰もいない。
‥‥‥アンリは来ないな。
ベリルはそのまま自室へと歩いていった。
入ろうとしたその時にアンリの慌てた声が聴こえた。
「最高老師様、呼び鈴をお使いくださいまし」
「ん?そうか、すまなんだの」
「お疲れ様です。何かお召し上がりになりますか?」
「いや、大丈夫じゃ」
「それでは、早速ですが次席老師ウーサー様のところへ参りましょう」
「なっ、何故直ぐウーサーのところへ行くんじゃ?」
「ウーサー様から、最高老師が出てきたら直ぐに連れてくるよう言われておりますので」
「う、嫌じゃ。休んでから行くんじゃ」
「まぁそう言わずに」
アンリは遠慮無く最高老師の腕を取ると、光る円盤に乗せた。
「さぁいきましょうね。最高老師様」
「もっと年寄りを労らんか」
「ふふふふ何を仰りますか。その辺の年寄りと同じだとお思いなのですか?メルラン最強の最高老師ともあろうお方が」
「‥‥‥最強ではないぞ。他の老師達の方が偉そうじゃぞ」
「それは最高老師様がお仕事をあまりなさらないからですよ?さぁ参りましょう」
アンリは最高老師の腕を引きながら、次席老師ウーサーの執務室を目指した。
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:*(〃∇〃人)*: