いざ、出発
「………話が長くなってしまったね。この辺で終わりにしよう」
「じゃあ、僕は片付けを………」
「私も手伝うわ」
「うん、よろしく」
台所は綺麗に整頓されていて清潔だ。ノトが家事において優秀だという事がわかる。
……………夢乃よりも優秀かもしれない。
洗い物はもちろん魔法を使う。洗浄魔法は本当に素晴らしい。食器棚にお皿を仕舞うのは手を使ったけど、繊細な魔力使いが出来れば魔法でやってもいいみたい。私には無理そうだけどね。
「そうだ、ローズ、お風呂に入るよね?」
「お風呂?入れるの?」
「入るなら、使い方を説明するから、一緒に来て」
お風呂場は四畳半くらいの広さの部屋で、脱衣場は特に分かれてはいなかった。
浴槽は木製で楕円形、それなりに大きい。小さい頃に親戚の家で入った檜風呂にどこか似ていた。こちらの方が少し浅いかな。
シャワーもある。結構ちゃんとしていて、嬉しい。異世界ってお風呂が無いとか多そうだしね。
浴槽には赤い魔石と青い魔石、黒い魔石が付いていた。
「お湯の出し方はわかる?」
「赤い魔石よね?」
「そうそう。水は青。排水する時は黒だよ」
「最後に黒い魔石を使うのね」
「必ずお湯以外何も残っていないことを確かめてから使ってね。吸い込まれてしまっても、知らないよ。何処に行くのか僕は知らないからね」
「それって危ないよね?」
「うん、だからよく確かめてね」
「はい、そうします」
「そして、最後は浴槽も部屋も洗浄魔法をかけてよく乾燥させておいてね。これ大事だから」
「わかったわ。大丈夫だと思う」
「うん、じゃあ、ごゆっくり」
なんとかなりそうね、良かった。では、早速入りましょう。
「ふぅ~~、お風呂って最高。やっぱり日本人なのよね、私」
シャンプーもトリートメントも石鹸もちゃんとあるし、この世界ってどのくらいの文明?というか文化?なのかしらね。まだわからないわね。今日来たばかりだものね、仕方ないか。
さて出るとするかな。
何も無いのを確認して、黒い魔石にそっと触り魔力を流した。石が軽く光った後、お湯は渦を巻いて何処かに消えていった。何かに吸い込まれていったみたい。これ、確かに恐いわ、気を付けよう。
部屋全体に洗浄魔法をかけて、ついでに着ていた服にもかけて、乾燥させて終了~。
我ながら頑張ったね、うん。お風呂場は乾燥が大事だものね。
さてと………寝るには早い気もするけど、さすがに疲れているから、声をかけたら寝させてもらおうかな。
居間にはお父様が一人、本を読んでいた。
「お風呂、先にいただきました。あの、もう寝ますね」
「あぁ、うん、お休み。疲れただろう、ゆっくり休んで」
「はい、お休みなさい」
階段を上がっている途中で声がかかった。
「そうだ、明日は、少しおめかしして降りておいで」
「おめかし?」
「そう。ドワーフの国は結構賑わっているから、その方が楽しめると思うよ」
「そうですか………頑張ってみます。 じゃあ、お休みなさい」
「お休み」
部屋に戻ると、クローゼットを開けて明日の服を考えることにした。しかし………。
………何を選べば正解?
………この世界の服飾事情は如何に?
………わかりません。
いいや、明日の朝、直感で選ぼう、それでいいや。寝よう。
私はベッドに潜り込み、何かを考えることもなく眠りに落ちた。
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ピピピ………ピチュ………
「 コ~コケッコケッコ~~~!!コケ~~!! 」
ひゃあ、何、何? すぐ近くから大きな声が聴こえるけど、何? 鶏?
部屋の中にはいないみたい。 外?
窓を開けると、すぐ目の前の屋根の上に雄鶏がいた。
此方を見ている。挑戦的な目をして更に大きな声で鳴き始めた。
「起きます、起きます。だから止めて~。うるさい~」
あぁびっくりした。しっかり目が覚めた。支度しよ。
さて………服をどうしよう、よし、これに決めた。
私はローズピンクのワンピースと、似た色の靴とリボンを選んだ。
お化粧はしなくていいかな、薄い色のリップだけでいいね。若いって素晴らしいね。身支度も楽しいよ。
下に降りていくと、ノトが朝食の準備を済ませていた。
「おはよう、ちゃんと起きられたようだね」
「おはよう、ノト。鶏の声のおかげよ。飛び起きたわ」
「あれは、確実に目が覚めるよね。助かるんだけどね。ははは」
「おはよう、二人とも」
「「おはようございます」」
朝食を済ませた後、片付けはノトに任せ、出かける準備をした。着替えを入れた旅行鞄をお父様の空間収納に入れてもらい(とっても便利)、マントを羽織って出来上がり。
お父様も三つ揃いの服を着て、ループタイを着けている。元の世界のスーツとは形がちょっと違っていて、上着は長い。 素敵ね。 マントが良く似合っている。
で、どうやって行くのかな?
庭に出てみても、馬車どころか馬もいないみたい。はて?
「さぁ、行くよ」
「行くと言っても、どのように?」
「もちろん、飛んで」
そう言うと、一瞬でドラゴンの姿になり、背中に乗るように言った。
「私の裾が捲れそうなんですが………」
「大丈夫。誰も見ていないよ。いいかな、行くよ」
……………私の裾はどうでもいいのね。まぁいいけどね。
軽く大地を蹴ると、あっという間に空高く上がり、翼を広げてゆっくりと飛び始めた。
手を振るノトが小さくなり、やがて見えなくなると速さを増して飛んで行った。
背中に乗るのも二回目、今回は少し余裕があるためか、周りの景色を楽しんだ。
広い森、川、時々見える集落、大きな生き物……魔物かな……まるでミニチュアのオモチャみたい。
暫くすると、景色が少しずつ変わってきた。
だんだんと岩山が増えている。
ひときわ大きな岩山の手前、少し開けた場所に降りて行った。
お父様は一瞬で人型となり、涼しい顔で笑った。
「さぁ行こうか。この岩山の中がドワーフの国だよ」
読んでくださり、ありがとうございます。感謝、感謝です。読んでくださった皆様に良い事がありますように!