バージンロード
やがて係員の手で教会の扉が開けられた。
「お先に!」
俺は二人に一言かけてから、教会の中に入って行った。
歓声が起きた。
俺は一礼すると高々と右手を上げ、歓声に応
えながら堂々と祭壇の所まで歩いて行った。
俺は勝ち誇った気分だった。
だってあんな素晴らしい女が、もう直ぐ俺の嫁になるんだから。
早くリナと永遠の愛の誓いを交わしたい。
マイケルが満面の笑みを浮かべて俺を待っ
てる。
俺はマイケルに言われた通り、祭壇に一礼して振り返り、列席者にまた頭を下げて、リナの入場を待った。
会場の音響システムから、『アベマリア』の美しい調べが流れ出す。
◇◇
リナが父親にエスコートされながらバージンロードを歩いて来る。
また歓声が起きた。
リナが笑顔で応える。
彼女の父親は少し緊張気味だ。
時々、立ち止まるようにして歩いてる。
花嫁をエスコートする父親の歩き方は確かに難しい。
一歩一歩交互に踏み出すようなウェディング
ステップだから。
父親が立ち止まった隙に、リナは一瞬列席者の方に目を向けた。
俺は彼女が客の一人に向けて頷くような仕草
をしたのを見逃さなかった。
俺はその男が、リナの元カレだということに直に気づいた。
たぶん大学時代に付き合ってた奴だろう。
体育会系の俺と違って、まるで半沢直樹みたいな草食系のヤサ男だ。
俺とリナは別々の大学に進学したから、
俺は奴の顔も名前も知らなかった。
だから刷り上がった披露宴の席次表を見ても誰が誰だかよく分からない。
リナが俺に内緒で招待状を送ったのに違い
ないと思った。
まあ良いさ、俺も元カノの沙羅を招待して
るし。リナも彼女の名前と顔は知らないは
ずだ。
いずれにせよ、リナはもう直ぐ俺のものに
なる。
俺はにこやかに微笑みながら、リナが近づ
いて来るのを待った。