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カサブランカ
控室に入って行くと、親父がスピーチの練習をしてた。
ここは老舗の大きな結婚式場。
親父は控室のソファーに座り、スピーチの原稿を持って何かブツブツ呟いてる。
「本日はお忙しい中、大勢の皆様にご臨席を賜り、深くお礼を申し上げます・・・」
とか何とか。
妹の夏子が顔を上気させ駆け寄って来た。
「お兄ちゃん! このブーケ、早くリナさんに渡してあげて」
「おお、間に合ったのか、ありがとな」
俺は上機嫌で言った。
◇◇
夏子が手作りしてくれたウエディングブーケは、白いカサブランカの花をいくつも束ねたものだ。
リナのドレスのデザインに合わせ、滝が流れるような縦長のフォルムだった。
妹は俺のタキシードの胸ポケットにも小ぶりのカサブランカを一輪挿してくれた。
「うわー、お兄ちゃんカッコ良いよ。黒のタキシードによく映えるね。お兄ちゃん、カサブランカの花言葉って知ってた?」
「えっ? 知らない」
「『雄大な愛』よ。リナさんとお幸せに」
夏子は嬉しそうに教えてくれた。