いつもの
1話目は導入みたいな感じなのであんまり面白くないかもしれません。
だからってこれから面白くなるとも限りませんけど。
「三人ってほんとに仲いいよね」
「今度はどこ行ってきたの?」
「それ三人でおそろいなんだ!」
「二人が向こうで呼んでるよ、早く行ってあげな」
いつもの三人。
私たちは周りからそういう風に見られてる。もちろんその認識で合ってる。私も梨花と亮とはずっとずっと友達だと思ってる。
小学校卒業と同時に親の都合で引っ越して、中学生活が不安だった私に声をかけてくれた梨花。
高校で同じクラス、同じ委員会になり、色々助けてくれたり、引っ込み思案な私を気にかけてくれた亮。
二人とも大切な私の友達。
梨花とは高校も同じで隣のクラスになったけど、よく私に会いに来てくれる。私はよく亮と話してるから、二人も自然と仲が良くなったみたい。
大好きな二人が仲良くなってくれたおかげで、二人と長く一緒にいられて嬉しい。
「夏希、ほら行くぞ。さっさと準備しろよ」
「ごめんもうちょい。数学の教科書がなくて」
「1限目使った後、他のクラスのやつに貸してなかったか?」
「そういえば!」
「お前な」
「あはは」
亮が呆れた顔で私を見るのを苦笑いで返す。すると教室のドアが開き、息を切らした知佳が数学の教科書を持ってこちらに来た。
「ごめん夏希、遅れた!」
「ううん、全然大丈夫だよ。知佳ありがとう」
「こちらこそありがとね、助かった。じゃあまたね」
「うん、バイバイ」
「バイバーイ」
知佳ちゃんが走り去る音を聞きながら教科書を鞄にしまう。
「ごめんね、お待たせしました。じゃあ行こっか」
「おう」
私と亮は同じ図書委員で、当番も同じ日である。昇降口とは逆に歩き、階段を上り四階へ行く。一番上の階の一番端にある図書室はいつも通りひっそりとしているが、離れた場所の生徒達のざわめきは入口の扉を閉めてもわずかに聞こえる。
「進学校でもないうちの生徒なんか滅多に来ないのに、当番なんかいるか?」
「亮はまたそんなこと言って」
「まあ楽でいいんだけどな」
「まあね」
二人で顔を見合わせ笑っていると、階段をパタパタと上る音が聞こえてきた。
「来たね」
ガラガラ。
「ごめーん、遅くなった」
「大丈夫。私たちもさっき来たばっかりだから」
「良かった。ねー、うちの担任ほんと話長い」
「今日は何だったの?」
「試験が終わったからって怠けたらいかんぞーって。それだけのことをどうやったらあんなに長く話せるのか不思議でしょうがない!」
「あはは。いつものことなんだから、我慢しろよ」
「もー」
静かな図書室に三人の笑い声が響く。たまに利用者が来ると声をひそめ、人がいなくなればまた話したり、宿題を片付けたりする。
梨花は委員会にも部活にも所属していないが、私たちと帰りたいと言って、私たちが図書当番のある日は、当番の終わる五時までこうして一緒に待ってくれる。
五時になり、戸締りをしてから先生に鍵を返す。衣替えはとっくに終わり、夏休みまでの日にちを数え始める七月。五時を過ぎても昼間と変わらないほどの光の強さと暑さが、半袖のカッターシャツからのぞく腕や顔を焼く。
「あっつー」
「暑いね」
「ねえ大丈夫?そんなこと言ってたらこれからどうするつもり?」
「梨花は何でそんな平気そうなんだ?」
「私寒がりだけど、暑いのには強いからね」
「いいよね。私なんか暑がりだから死にそう」
「寒いのは着込めば何とかなるけど、暑いのは脱いでも変わらないからな」
「ははっ、どんまーい」
「くっそー」
いつもの学校、いつもの道、いつもの会話、いつもの日常。
二年になり、入学当時の緊張はなく、受験もまだ先であることの余裕から、そんないつもの日々を、まるで永遠に続くかのような楽観さで謳歌していた。
青春とか恋愛とか得意なわけじゃないですが、ある曲のMVを見て書きたくなりました。
タイトルはネタバレにつながるので今度言います。