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【書籍化】夢見の魔女と黒鋼の死神(なろう版)  作者: 三沢ケイ
第3章 皇帝は夢見の魔女に愛を囁く

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第31話 夢見の魔女、リナト国へ向かう

糖度高め(当社比)

お砂糖注意報発令中(*´∀`*)ノ

 リナト国へ向かう日はあっという間にやって来た。前回の計略の際は2台の馬車と20騎の近衛騎士隊だったのに対して、今回は皇帝ベルンハルトと皇后リリアナがともに本当に移動する事から更に豪華になり、馬車は5台、近衛騎士は40騎に及んだ。


一番先頭の一際豪華な馬車にベルンハルトとリリアナ、2台目に側近で外交担当のフリージと宰相補佐のデニスと外交官達、3台目にリリアナとベルンハルトの侍女達が乗りこむ。残り2台は荷馬車だ。


「留守中を頼むぞ、カール、フレイク副将軍」


「お任せ下さい」


「畏まりました。しかし、その『副将軍』ってどうも慣れませんね」


 ベルンハルトに激励の言葉をかけられしっかりと頷いたカールに対して、フレイクは気恥ずかしそうに苦笑いした。


 ワイル副将軍の失脚後、首都トウキを始めとする国内の治安維持の責任者である副将軍を誰にするかはハイランダ帝国の最大の懸案事項の1つだった。その後任に、これまでも軍関係の取り仕切りをしていたフレイクを推したのは他ならぬラング将軍だ。

 フレイクは元々、代々軍関係の幹部を輩出する名家の出身だ。剣の腕もかなりのもので、魔力を込めて戦う術を得た今となっては負ける相手を探す方が難しい。ベルンハルトの信頼も厚いことからベルンハルトを始めとする御前会議の面々もこれに賛成し、晴れてフレイク副将軍が誕生したのだ。


「すぐに慣れるだろう。任せるぞ」


「任されました。陛下もお気を付けて」

 

 ベルンハルトとフレイクはニッと口の端を持ち上げ、拳を軽く合わせた。



 一通りの挨拶が終わると、まず最初にリリアナが馬車に乗った。奥へつめると、ベルンハルトも続けて同じ馬車に乗り込み、リリアナのすぐ横に座った。


 出立を報せる銅鑼(どら)の音が辺りに響き渡る。


 暫くすると城下の喧騒の音が聞こえ始め、リリアナは閉じられた窓を開けてそこから外を覗こうとして、慌てて身体を引いてベルンハルトの方を向いた。


「どうした?」


「窓から外を覗いてもよろしいでしょうか?」


 不安そうにベルンハルトを見上げる様子から、ベルンハルトはリリアナが前回窓から無邪気に外を覗いていてベルンハルトから注意を受けたことを気にしているのだと気付いた。


「もちろんだ。トウキの治安維持はフレイク副将軍が目を光らせている。民に手を振ってやれ」


 リリアナはぱっと表情を明るくした。しかし、すぐにそれは怪訝なものへと変わる。


「陛下は?」


「ん?」


「陛下はお顔を民に見せないのですか?皆喜ぶと思うのです」

 

「俺は意図的にこの鎧を着て兜を被り、黒鋼の死神のイメージを作り出してきた。この方が都合が良いことも多いんだ」


「そうなのですか」


 リリアナはベルンハルトの返事を聞いてしょんぼりと肩を落とした。しかし、すぐに気を取り直したように顔を上げて背筋を伸ばした。


「では、私が陛下の分まで笑顔で民に手を振り皇室に親しみを持って頂くよう努めます」

 

 馬車の窓が開き、中にいるリリアナとベルンハルトの姿が見えると道沿いに皇帝夫妻を一目見ようと集まった人々から割れんばかりの歓声が湧き起こった。リリアナはにっこりと微笑んでまわりに手を振る。ベルンハルトも鎧と兜を付けたままだが右手を上げて民の歓声に応える。前回とは違い、今回は国民にも公式行事に出席するための移動として報せてあったのだ。


 小さな子どもから腰が曲がり始めた老婆まであらゆる人が沿道から手を振っていた。赤と黄色と青の丸があしらわれたハイランダ帝国の国旗を振る者も多かった。リリアナはその一人一人に対して微笑みかけ、腕が千切れんばかりに手を振り返した。


「城下に行きたいと言っていたな。リナト国から戻ったら連れて行こう」


 手を振っていたリリアナは隣に居るベルンハルトの方を振り向いた。兜の隙間から見える青い双眸はリリアナと城下の様子を見比べている。ベルンハルトからかけられた言葉の意味を咀嚼して、リリアナは目をぱちくりとさせた。


「よろしいのですか?お忙しいのでは??」


「1日くらい、なんとかしよう」


 リリアナの頬がみるみる紅潮し、もともと笑顔だった表情はさらに明るいものへと変わる。


「ありがとうございます!やっぱり陛下はお優しい。あぁ、陛下!お慕いしています」

 

 リリアナは喜んで思わずベルンハルトに腕を絡めた。仲むつまじい皇帝夫妻を目にして歓声は益々大きくなる。


 そのリリアナの嬉しそうな様子を見て、ベルンハルトは内心で舌打ちした。鎧が邪魔である。せっかくリリアナが絡んできて居るのにも関わらず、頑丈な黒鋼が2人の間に立ちはだかり全くリリアナの感触が味わえない。ベルンハルトは心底この鎧が邪魔だと思った。

 

 ようやくトウキの街を抜けて沿道に人の姿がなくなった辺りでベルンハルトは兜と鎧を脱ぎ捨てた。毎日身につけているとは言え、鎧は重く動きにくい。やっと身軽になってベルンハルトはホッと息を吐いた。

 大きな馬車の中で鎧を脱がせるのを手伝っていたリリアナは、兜を脱いでがしがしと重みで押し潰された髪の毛を直すベルンハルトと目が合うと、嬉しそうに微笑んだ。


「どうした?」


「ふふっ。嬉しくて。やっと大好きな陛下のお顔が全部見られました」


「っ!」


 リリアナは目をキラキラとさせて上目遣いにベルンハルトを見上げる。長い睫毛に縁取られた大きなアメジストの瞳はキラキラと輝き、少しだけ開いた唇はふるんとしている。可愛い。強烈に可愛い。出会った頃から妖精のように整った容姿の可憐な少女だったが、今のリリアナは毎夜ベルンハルトに抱かれることで妖艶な色香を放つようになり、更に女としての魅力が増していた。


 ベルンハルトは思わずリリアナを抱き寄せて自らの腕の中に閉じ込めた。


「陛下?」


「嫌か?」


「えっと、……陛下にぎゅっとして貰えるのは嬉しいです」


 少しだけ腕の力を緩めて身体を離すと、リリアナは真っ赤になっていた。ベルンハルトが頬やおでこに順番に口づけを落としていくと益々赤くなって涙目になっている。


「嫌なのか?」


「嫌ではありません。でも、外から見られたら恥ずかしいです」


 再度確認するとリリアナがふるふると首を振った。確かにこの可愛らしいリリアナの姿を併走する近衛騎士隊に見せるのはベルンハルトとしても面白くない。

 ベルンハルトは明かり取りの小窓を除いて、馬車の全ての窓を素早く閉じた。


「おいで」


 ベルンハルトが両手を広げるとリリアナは戸惑ったような顔をした。


「俺にぎゅっとされるのが好きなんだろう?頑張って俺の分まで笑顔で手を振った褒美だ」


 恐る恐る近付いてきたリリアナの腕を掴んで引き寄せ、もう一度腕の中に閉じ込める。膝の上に抱き寄せ、額、頬、鼻、瞼と順番に口づけを落として行く。リリアナは薄暗い中でもわかるほど耳まで真っ赤になっているが、その手はしっかりとベルンハルトの上着を握っている。くったりとベルンハルトに身体を寄り掛からせて身を任せていた。


「これが好きなのか?」


「も、申し訳ありません…」


 意地悪い笑みを浮かべたベルンハルトに問いかけられて、羞恥から再び涙目になるリリアナ。その表情はベルンハルトの征服欲を満たさせるとともに、もっと自分に夢中にさせてめちゃくちゃに蕩けさせたいという更なる欲望を生んだ。


「素直でよい。いい子だ」


 ベルンハルトは額からもう一度口づけを順番に落としてゆき、最後にその唇にゆっくりと自分のものを重ねた。


 しばらくするとコツンコツンと窓を叩く音がした。リリアナを堪能していたベルンハルトは音に気づいて身体を引き剥がし、閉めていた窓を開けた。


「陛下、そろそろ次の街に付きます」


「わかった」


 併走していた近衛騎士の1人がベルンハルトに街が近いことを伝える。思っていたより早い到着にベルンハルトは内心で舌打ちした。横でそれを聞いていたリリアナは慌てた様子でいそいそとベルンハルトに鎧を着せる準備を始める。


「ここでも陛下の分まで私が笑顔を見せて民に手を振りますね。役目はしっかりと務めますので陛下は安心して黒鋼の死神でいて下さいね」


「そうだな、頼む」


──もう窓は閉めっぱなしでいいかな


 そんなことを一瞬でも考えた自分にベルンハルトは頭の中で鉄拳制裁を加える。役目とご褒美(とリリアナは思っている)を与えられて嬉々としてやる気満々のリリアナを目にして、ベルンハルトもさすがに鎧が重いし、いちゃいちゃしていたいから窓を閉めていたいとは言えない。


「はい。お任せ下さいませ」


 平常運転に戻ったリリアナに微笑みかけられて、ベルンハルトも渋々とまた黒鋼の鎧を身に付け始めた。

最終的にはハイランダ帝国をシュガーコーティングしたい!!

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