フールプルーフ
「先日、東京駅発昴が浜行の特急ライトにおいて、火災が発生しました。一時間にわたり該当路線の便は運休、製造会社が同じ特急イスルギ、レッコウとともに車内点検を行いましたが異常はなし。車内から爆発物のようなものがなかったか調査がすすんでいます、原因の究明が急がれています。」
テレビはテロだとかオリンピックだとか、そういうことを言って、日本ではこういうことは起きてはいけないと騒いでいる。新幹線もあるなか、特急という言葉は僕の中であまり耳にしなくなっていた。 「これも宗教に刺激された人の犯行なのでしょうか。」 「これはテロとかではなくタバコか何かですね。」
「早急に全車両を点検する必要があります。」
なんとか大学の専門家たちがだれでも言えそうな他人事を言っている。
「コウ、早くしないと学校に遅れるよ」
母さんはこんなことを言っているが、第一、母さんが寝坊しなければ、朝から菓子パンをかじっていなくて済むのだが、だとしてももう七時半、そんなことを思っている暇はない、今日は急いで学校に行って、文化祭の準備をしなくてはならないのだ。といっても僕は文化祭のリーダーとかではなく、明日の文化祭に向けて全校で準備するだけである。大学入試を控えている三年生もいるので、うちの高校の文化祭は九月の頭に行われ、夏休みにクラスの有志が準備をして、前日に一気に全校で準備をする。
教室でよくわからない展示をしたり、保護者が出店をしたり、ステージでイベントがあったりだ。
「なにぼーっとしてんの早くしなさい。」
菓子パンの袋をポケットに詰め込み、家を出ようとすると
「その袋、どうする気?」
「途中で適当に捨ててくよ」
そう言ってそのまま出て行った。ああは言ったものも、案外町になんでも捨てられるゴミ箱がない。校門の横の自販機の横にあったゴミ箱に押し込んだ。
全校生徒が体育館に集められ、生徒会長が全員に指示を行った。
「各クラスの女子生徒は教室に戻り、クラスの出し物の準備を行ってください・・・」
男子はそれぞれ、一年生は椅子運び、二年生は廊下の掲示物の撤去、三年生は駐車場となる運動場の整備となった。まあ整備といっても延々と石を拾い続けなければならないだけだが。
石拾いに飽きてきたころ、横で何かをしていた先生に声をかけられた。
「ちょっと、このテープをあれに巻いてくれないか。」
先生の指の先にあったのは、少し先の運動場のゴミ箱だった。明日は文化祭で出店だってあるのに、ゴミを捨てさせない気だろうか、家に持って帰らせても迷惑だろう。
「先生、明日ゴミ箱つかえないんですか?文化祭なのにゴミ箱減ったら大変じゃないですか?」
「明日は出店ごとに回収するんだよ、だからむしろ数は増えるね、集めるのはめんどくさそうだけど」
わざわざもとからあるのを使えなくする理由はわからなかったが、まあ別にいいだろう。とりあえず、なにも入れられないように入り口をぐるぐる巻きにした。ちょうどそれが終わると、作業の終了が終わる放送がなった、今日は午前中で終わりである、明日に向けて居残りで準備をする必要がある人がいるからではあるが、自分は写真部なので明日の撮影の準備に向けて、部室に行った。すると後輩がうちの部唯一のパソコン(まだOSはXP)と格闘していた。
「どうしたんだ」
「あしたいっぱい写真撮るじゃないですか、でもこのパソコン容量がいっぱいで、昔の動画とかめちゃくちゃ入っているんですよ、だから整理しているんです。」
確かにうちの部のパソコンは、創部当時から使われている。だから顔も知らない先輩たちの写真から、よくわからない動画までいろんなデータが入っている。
「適当に・・・このCDの中身全部消してこれに移しちゃいましょう」
後輩はパソコンの前にあったCDの中身をすべて消去した。
「でもって歴代の体育祭の応援の動画を・・・あしまった全部消しちゃった。」
「おいおい何してるんだよ、生徒会のやつが参考にしたいとかいうかもしれないじゃん、」
それでも後輩は冷静でパソコンをカタカタして得意げそうに消したデータを復元した。僕を見て後輩は
「先輩知らないんですかWindowsなら消したデータ簡単に復元できますよ、『ゴミ箱』ってデスクトップアプリでいったん保存されるんですよ、で本当にその中で消すときにいるかいらないか分別するんですよ。」
俺はスマホばっかりで消した写真とかは誰かに送ってない限り戻らないもんだと思っていた。まあこんな昔のパソコンでもそんな機能がついているのかと感心した。しかしふと思ってしまった。
「それってパソコンの中のデータ量変わらないんじゃないか。」
スマホの写真消すのもスマホが重いときなので完全に消えないなら意味がない。
「こんなかんじの動画とか、一個の容量が大きいやつだと多少は圧縮されますけど、消しているというより、いらないやつを消すかどうかを未来の自分に責任転嫁している感じですね。」
「責任転嫁ねぇ・・・」
その言葉を繰り返した時には僕の頭に写真のこともパソコンの中のこともなかった。
「わりい、用事思い出した。」
荷物を置いたまま僕は校門に向けて走っていった。