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第三章 仮面の下 9

 俺は無難に学園での一日を過ごすと、すぐに袖浦の売り出し方法について考えた。


 渋谷に向かう電車の中で、購買部で購入したノートと睨めっこをする。


 とりあえずは天野先生の言ってた通りに、袖浦の個性と特徴を書き出してみよう。


 アイドルの特徴と個性を把握する。マネージャーにとって重要なことだ。


 そこから袖浦に合った営業方法を見つけるとするか。


 俺は手に持ったシャープペンシルをノートに走らせた。


 普通ならパソコンを使うんだろうが、俺にはアナログじゃないと無理だ。


 本来であればそちらのが効率はいい。


 だが、ローマ字打ちが出来ないので俺としてはタイムロスだった。


 二ヶ月という限られた時間は有効に使いたいのでパソコンを覚えるのはまた今度だ。


 まず袖浦の個性と言えばダンスだよな。


 それから『輝石学園生』が大好き。


 と、なるとやっぱり輝石学園生の曲を使ってダンスの動画を撮るのとかいいかもしれない。


 カメラ一台あればなんとかなるだろうし、音源だってすぐに用意が出来る。


 おお、これはいいかもしれない。


 撮った動画はそのままネットに流せば人気間違いなし。


 袖浦の能力ならやってくれるだろう。


 なんだか、ワクワクしてきたな。


 自分が企画してなにかを作り出し、袖浦を人気にする。


 挑戦するっていうのはいつだって面白い。


 袖浦は世間で認知されていない。


 何度も繰り返し思ってしまうが、袖浦には不利な状況だ。


 だからこそ俺の腕が試される。


 アイドルについて知ったのが、ついこの間である俺にはハードルが高いだろう。


 だが、それがどうしたというんだ。


 挑戦は困難であればあるほどその面白さは何倍にもなる。

 

 俺は高揚感を胸に抱いて会社へと向かった。


 幸いにもまたしても、俺の仕事はプロモーションビデオの鑑賞だったので、好都合だった。


 これを元に勉強して動画作りの参考にさせてもらおう。


「今日で試験の話がいっただろう」


「知ってるんですか?

 俺がデスク前に置かれた椅子に座ると神谷さんが話を切り出してきた。


 神谷さんは茶革のリクライニングチェアに足を投げ出して座り、膝の上にノートパソコンを置いて作業をしている。


 あの体勢が一番仕事に集中できるらしくて、この部屋ではよく見る光景だ。


 ただ疑問なのはあの頭に被った猫耳だ。


 なにか意味があるのかと思うが実際はない。


 あの人は思いつきでなにかをする人間。深く探る方が無意味だ。


「勿論、この試験は私が組んだものだからね」


 神谷さんは胸を張って自慢げに言い放つ。


「あはは、超楽しみっすよ」


「確か君のパートナーである袖浦芽衣君は、一般人上がりの子なんだよね」


 アイドル科には二種類の人間がいる。


 普通の女の子として過ごしてきた人間と、芸能界で過ごしてきた人間。


 この二つに分かれる。


 ナイトレイは特例だが、基本はこの二つのどちらかだ。


 割合は半々といったところ。


「そうっすね」


「んー、全くの無名というのは今回の試験では不利になるね」


 悩ましいように腕を組む。


「そのための準備期間じゃないっすか。まぁ、なんとかなるっすよ」


「……君は私との約束を覚えているかね?」


 途端に厳しい表情になる神谷さん。これは完璧に仕事モードの顔だ。俺は思わず背筋が伸びた。


「結果を出し続けろ……ですよね」


「ああそうだ。君にはなんとしてでも卒業してもらわなければならない。君にはそれだけお金をかけているし、君の結果次第では私の今後の評価にも関わっているんだ。利己的だと思うかもしれないが、私も会社の人間でね」


「わかってます」


「わかっている? だったら軽々しく試験がなんとかなると言わないでくれよ。そんな軽い気持ちでは通る試験も通らないよ?」


「……すみません」


「ま、なんてお灸を据えてみたが、君なら大丈夫だろう。自分がなにをすればいいのかを考えられれば、だけどね」


 いつものように陽気な雰囲気に戻る神谷さん。


 俺はホッと息を吐いた。


 この人、一度スイッチが入ると怖いんだよな。普段は気のいいおじさんなのに。



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