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第三章 仮面の下 7

 悔しがるようなナイトレイさんの表情。パパの力、か。私もダンス教室に通ってた時は、ママのおかげで優遇されている、なんて言われていたけどレベルが違うんだろうね。


「私がこの国に来た理由もそうよ」


「この国に来た理由?」


「アメリカだと、どうしても私はチヤホヤされちゃうの。それで芸能界を駆け上がったとしても、えっと……日本ではそういうのを、親の七光って言うのでしょ。だから少しでもパパの力が働かないこの国を選んだってわけ」


「輝石学園生はその駆け上がるステップ……ってこと?」


「そうね。まぁ、『輝石学園生』がとても好きだからっていうのもあるわ。子供の頃からの憧れの的だもの」


 笑ったナイトレイさんは、子供のように幼く無邪気だった。


 なんだかナイトレイさんってすごいな。


 アメリカにいればお父さんが作ってくれたレールの上を歩いて、すぐにでも芸能界で活躍できたはず。


 でも、それを捨てて言葉しかわからないこの国にやってきて、自分の力でのし上がろうとしている。

 

 私だったらお父さんの力に甘えちゃって敷かれたレールの上を歩むだけの人生になりそう。


「とは言ってもこの国でもパパの知名度のせいでチヤホヤされちゃってるけどね。ふふ、すぐに正所属になって仕事をいっぱいして、ジョージ・ナイトレイの娘ではなく、エマ・ナイトレイとして世間をあっと言わせてやるわ」


「……そのためにも神谷さんをパートナーに選んだの?」


「ええそうよ。マナはとても優秀だしなにより私と同じ思いを持っているもの」


「同じ思いって?」


「実は彼女のパパってあの神谷由伸なの」


「ええ!? あの神谷さん……!?」



 神谷さんって普通の人とは違う雰囲気を持ってて、只者じゃないのかもしれないって考えてたけど、そういうことだったんだね。


 寡黙な神谷さんが大元君とよく喋るのはそれが関係しているのかな。


 大元君って神谷由伸さんと繋がりがあるみたいだし。


「偉大なパパを超える。私とマナに共通しているのはその二つよ。両方の終着点が同じだから私たちは喧嘩はしてもパートナーを解消することはないわ」


 ナイトレイさんと神谷さんは本来なら混じらない絵の具同士のような気がする。


 両者が譲らずに絶対に交わろうとしないはず。

 

 私の家に来てからも口を開けば喧嘩をしていた。


 でも、なぜかお互いに険悪なムードにならなかったのは力を認め合って同じ目標に向かっているからなんだ。


「私はマナと二人でアイドル界のトップを目指すわ。そして、芸能界のトップにも立ってみせる」


 才能もあって確固たる決意があり、認め合ってるパートナーもいる。


 ナイトレイさんに死角はない。


 私なんかが到底勝てるような相手ではない。


 でも、私が上を目指す限りこの人は絶対に立ちふさがる障害になる。

 

 だったら私はこう言うしかなかった。


「……芸能界のトップは譲るけど、アイドルとしてのトップは譲らないよ」


 そこだけは譲れない部分だった。


 私は大元君を必ずそこに導かなければならない。


 不安だしとても怖くはある。


 でも、そこを譲ってしまったら今の私はもう私でなくなってしまう。


「あら。可愛い顔して強気ね」


 ナイトレイさんの顔はどこか嬉しそうだった。


「初めてよ。私にそうやって真っ向から挑んてくる人。ふふ、益々あなたのことを好きになったわ。これからあなたは私の親友でありライバルよ。だから私のことはエマって呼びなさい」

「親友……エマ……」

「どうかしたの?」

「い、いや。そんな風に言ってくれる人、私の人生に今までいなかったから、ちょっぴり嬉しいなって……えへへ……」


 エマさんはきょとんとした顔をした。


 なんだろう。


 私はおかしな発言をしただろうか。


 あ、これはもしかしたら驚いているんじゃなくて馬鹿にされているのかな。


 一五年も生きてて親友と呼べる人間が一人もいないなんて寂しい子。


 そう思われているかもしれない。


「ああもう! あなたってとても可愛いわ! 食べちゃいたいくらい!」


「むぐ……!」


 私の頭を掴んでくると胸の中でギュッと抱きしめてきた。


 途端に息がしにくくなり、エマさんの体をタップするけどお構いなしだ。


 数分間愛でるように私の頭を撫でながらその体制を崩さなかったので私は諦めた。


 人形のようにされるがままだった。


 そうなってくると、自然と豊満な胸のほうに意識がいってしまう。


 大きな胸ってこんなに柔らかくてふかふかしてるんだ。


 自分の以外触れたことがなかったからわかんなかった。


 私の洗濯板みたいなのとは大違いだ。


 なんていうか、ここには幸福が詰まっているような気がする。


 ……私ってばちょっとおじさん臭いかも。


 しばらくすると、エマさんは寝息をたて始めた。


 抱き枕状態の私は解放されることなくそのままだ。


 だけど、悪い気はしない。


 むしろ、エマさんの暖かさが心地いい。ふと、ママと一緒に寝ていた時期を思い出してしまった。


 エマさんは少し自分勝手で自由奔放な部分もあるけど、私を親友なんて言ってくれるとてもいい人だ。


 『輝石学園生』が好きで私と話も合う。


「これも全部大元君のおかげかな……」


 あの人がいなければエマさんとは出会えていない。


 もし出会ったとしてもエマさんにとって気にも止まらない存在だっただろうね。


 私の人生を大元君は大きく変え始めているのかもしれない。


 いや、しれないんじゃなくてもう変わっている。


 また明日から私は大元君のために頑張ろう。


 段々と眠気に襲われてきた私は重いまぶたをゆっくりと閉じた。


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