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第三章 仮面の下 2

 ここは駅からかなり距離があるし、地元民でもない限り利用はしない。


 後はマスコミによる迷惑な発信力を元に集まった人間くらいのものだ。


 高校生がとても安いからという理由でわざわざ遠路はるばるこんなところにはやってこないだろう。


 神谷愛の自宅がここらへんにあるのだろうか。いや、こいつは帰るときに俺と違う路線を利用していたはずだ。


 神谷愛は学校から直接来たのか制服のままだった。ナイトレイも同じ格好をしていてブルーの瞳と金髪にセーラ服というアンバランスな見た目がスーパーでは特に目立っていた。


 だが、さすがにアイドルの卵で研究生とはいえナイトレイはそこそこ知名度がある。


 変装のためなのか黒縁の眼鏡とマスクをしていた。


 さて、どうしたものか。神谷愛は面倒なやつだ。今すぐにでも無視を決め込みたい。


 それに狂犬親子なんて言われて、貧乏人としての汚い意地を発揮してセール品にがっついている恥ずかしい俺の現実を知られたくはない。


 じゃあ、袖浦にはどうなんだ、と言われてしまうかもしれない。


 袖浦には俺の貧乏臭い性根がばれているので隠す必要はない。


 この前四キロ先のスーパーでトイレットペーパーがここらの地域で一番安いことがわかり、歩いて向かったときは袖浦に正気を疑われたっけ。


「……人違いです」

 俺はとりあえず他人の空似だと思い込ませようとする。空だけに。


「私がアナタを間違えるはずがないじゃないですか」


 あっさりと嘘が見破られてしまう。俺は観念して大きく溜息を吐いた。


 まぁ、ばれて人に言いふらされたとしても俺の評価なんてたかが知れてるからな。


「わーお! 愛の男のタイプってこんな感じだったの!?」


 ナイトレイは俺に顔を近づけてくると色んな角度から俺を観察する。


「近い。離れろ」


「……あまりイケてないわね」


 眉を寄せて顎に手を当てた。そのたった一つの行動でも絵になる女だ。


 だが、イケてない発言は許さんぞ。わかってはいても面と向かって言われると俺でも傷つく。


「なにか勘違いしているようですが、こんな電柱のような身長でボーッとした男に恋心など抱くわけないじゃないですか」


「真顔で追い討ちかけんな」


「それもそうね」


 容赦なく俺の心に剛速球をぶち当ててくる二人。悪びれた様子はなく当然の事実を述べたまでといった顔をしている。それがまた俺の傷口に塩を塗った。


「それで……なんでお前らがここにいるんだよ」


「ナイトレイさんがニュースでこのスーパーをたまたま見かけて、面白そうだから行ってみたいと私を強引にここまで連れてきたのです」


「そう、そうなのよ! ねぇ! あなたここの常連なのよね! 周りの人間と同じでとても飢えた目をしていたわ! 私にあのセール品を取るコツみたいなの教えて!」


 ただでさえ宝石みたいな目をさらに輝かせてぐいぐいと俺に体を寄せてくるナイトレイ。俺は思わず後退してしまう。


 なにが面白くてこいつはこんな目をしているのだろう。父親がアメリカでも有名な俳優だったらお金に困ったことはないだろうし、わざわざセール品なんて買う必要がないだろう。


 あれか。お金持ちにはこのセールという光景が物珍しいのか。それで興味本位でここにやってきたと。


 くそ、庶民の日常を馬鹿にしやがって。


「……ここにいる以上俺もお前もライバルだ。教える義理はない」


「むむむ‥…かっこいいセリフを言うじゃない。でも、私はビギナーよ。プロのあなたはハンデくらいくれてもいいんじゃないの?」


 隣にいる神谷愛は無表情ではあるが、どこか疲れたように息を吐いた。


「こうなった彼女は止められませんよ。おとなしく教えてあげてください」


 その言葉にはこれまでの苦労が滲み出ているようだった。おそらくこの発言からして神谷愛は相当ナイトレイに振り回されているのだろう。なんとなく想像がつく。


 探究心豊かな世間知らずのお嬢様に右に左に神谷愛は動かされて参ってしまっているようだった。


「苦労してるんだな」


「あなたに心配される筋合いはないですけど」


 仏頂面で答える。もうちょっと可愛げのある返答はできないのかよ。袖浦だったらそんなことないと可愛いくらい恐縮するはずだぞ。


「お……大元さぁん……」


 守銭奴な人間たちの濁流に飲まれていた袖浦がフラフラとこちらに歩いてきた。いつもはしっかりと梳かしている髪が乱れて、着ていたシャツがずり落ちていて右肩から肌が露出してしまっていた。


「……え?」


 俺の目の前に神谷愛とナイトレイがいるのに気づくと石像のように固まってしまった。処理が追いつかないのかなかなか現実に戻ってこない。


 二人もここにどうして袖浦がいるのか理解できないのか首を傾げていた。


 まずい、袖浦と俺がラフな私服で買い物に出かけていたのがばれると面倒だ。


 勘ぐられてそのまま家が隣同士で行き来をする仲だと知られたら終わる。


 ただでさえ天野先生と藤沢先生は俺たちに目を光らせている。校則的になにも問題がなかったとしてもこの前のように絞られるのは確定的だ。


 フリーズから回復した袖浦に俺は瞬時にアイコンタクトを取る。


『ここは上手く誤魔化すぞ』


『わかりました』


 言葉はなくともすぐに俺の意図を汲み取ってくれる袖浦。ふふ、さすがは俺のアイドルだ。意思疎通はばっちりだな。


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