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第二章 パートナーセレクト 12


 頭の中は子供が積み木をちらかしたようにごちゃごちゃになってしまう。


 俺と星宮に接点は何一つとしてない。


 あるとすればあの多目的ホールでの自己紹介の時だ。


 だが、俺はだれかの印象に残るような話をした覚えはない。


 どうしてこいつは俺を選んだのだろう。


 いや、それよりも問題なのはこの状況だ。


「は……離れろよ!」


「あー顔赤くしてるぅ。ふふ、もしかして女の子の体に触るの初めてぇ? 男の子と違って柔らかいでしょー」


 星宮は俺に押し付けていた体をさらに密着させる。星宮の体は細く柔らかいというよりは硬さを感じるような気もしたが、圧倒的に一部分だけ確かな弾力が存在していた。


 ただ俺はそれを敢えて頭の中で考えず受け流す。


 このままこいつのペースに流されるのはまずい。


「ど、どうすんだよ……マネージャー科の人間はアイドルに触れるとペナルティがあるんだぞ!」


「えー、そんなのばれなきゃいいだけだよぉ。どうせみんな隠れてやってんだからさぁ」


 そんなことはない……とも言い切れない。現に俺と袖浦が隣同士で家の行き来をした事実は隠している。袖浦を助けるという大義名分はあるが、おおっぴらにできるものではなかった。

 俺は言葉に詰まってしまう。その隙を星宮は見逃さなかった。


「茉莉奈のマネージャーになったらもっといいことしてあげるよぉ」


 星宮はつま先を伸ばして俺の耳元に近づくと囁くように呟いた。空いた胸元から薄い黄色の下着がチラりと見える。もっといいことって言うのはこれを遥かに超える――


 俺は顔をぶんぶんと振って、星宮の肩を掴んで引き離した。


「きゃッ……乱暴だなぁもう」


 本当に何なんだよコイツは。一周回って俺に恨みでもあるんじゃないかと思ってきた。


 美人局つつもたせみたいに、実はこの一部始終を田中が動画で撮っていて後で天野先生あたりに提出するんじゃなかろうか。


 そうでなければこんな顔のいいやつが俺に寄り付かないだろう。


「……なんで俺なんだよ。もっといいやついただろ」


「茉莉奈身長が高い人が好みなのぉ。だからあなたを選んだぁ」


 星宮は俺の頭まで手を伸ばすと自分の背と比べるように俺と自分の頭を交互に叩いた。


 好みでマネージャーを決めるとは、本当にこいつはアイドルになりにきたのだろうか。俺は呆れてしまう。


「あのな。もっと考えたほうがいいんじゃないか」


「十分、考えてますぅ。だって空君って特別なんでしょ?」


「そうだな。俺はここを最下位で――」


「茉莉奈、空君がホープ・スターのビルに入っていくの見ちゃったんだぁ」


 俺の心臓が止まりそうになった。いま、こいつはなんていった。


「昨日藤沢先生の言葉が気になってぇ、空君を尾行してみたんだよねぇ。そしたら……ふふ」


 星宮は可愛らしくカーディガンの袖で笑う口元を隠した。誰かが後をつけているなんて、全く気付かなかった。


「ねぇ……特別ってどういう意味なのかなぁ?」


「……」


 俺は答えに戸惑ってしまう。蓮は俺が特別な存在だとばれたら強引に迫られるかも知れないと注意してくれた。まさか本当にこんな事態になるとはな。


 頭の中のエンジンギアを何段階か上げて必死に言い訳を考える。そうだ、あの手があった。


「ばれてしまったらしょうがないな」


「ふふ、しゃべってくれるのぉ?」


「実は親戚がホープスターで事務員をやっててな。昨日はたまたまそいつに用事があって、会社に行ってたんだよ。特別っていうのは知り合いがたまたま働いてたってだけだ」


 俺は田中の発言を思い出して咄嗟に言い訳をした。個人的には結構騙せるんじゃないかと手応えを感じる。


 しかし、星宮の目は俺を怪しんでいた。女の勘というのは怖い。ここは誤魔化すのではなく話を逸らしていこう。


「あー、お前がどう思っているのか知らないが、俺にはもうパートナーが決まっていてな」


「へぇーそうなんだ。でも、その子には出来ないようなことを茉莉奈にならやっていいんだよ?」


「興味ない……わけではないけど、生憎と退学にはなりたくないからパスだ」


「……まさかとは思うけどぉ。昼休みに話が出たら袖浦芽衣をパートナーにしよって考えているのぉ?」


「そうだよ」


「……また、あいつかよ」


 星宮は本当に小さな声で呟いた。その顔は先程までの愛嬌のある顔とは打って変わって唇を噛み締めて険しいものになっていた。


 しかし、それは一瞬ですぐに媚びたようなニコニコとした顔に戻った。またあいつとはどういう意味なんだろうか。


「ふーん……でもさぁ。彼女って暗いし鈍臭いし空君にはふさわしくないよぉ? 茉莉奈だったら試験も楽勝に合格できるし。ほら、茉莉奈、読モとかやってて経験値あるしファンも多いからさぁ」


「どくも……?」


「えぇ? 空君知らないの? あはは可愛いー。読者モデルの略だよぉ」


 そういうと星宮は自分のスマホから写真を見せてくれた。そこには雑誌の表紙を飾った星宮が写っていた。星宮はモデルをやっていたのか。


 輝石学園生のアイドル科にはこういった経験のあるやつもいるんだな。そう考えれば確かに袖浦は劣るのかもしれない。


 ただ劣ったところでなんだというんだ。袖浦はこれからの存在。慌てる必要はない。


「ね? 袖浦芽衣より私のほうがいいでしょ?」


「悪いが俺の考えは変わらないぞ。もう決めたことだからな」


「……あんなクソチビのなにがいいの?」


 星宮は仮面が外れたかのように鬼の形相で俺を睨みつけた。俺は思わず面食らってしまう。急にどうしたんだこいつは。


「もしかしてあんたってロリコンってやつ? あのレベルの女なら相手にしてもらえると思った? 本当気持ち悪いわね」


 先程までの俺に媚びた態度と一変して罵倒し始めた。俺はなにが起こったのか分からず目を丸くしてしまう。

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