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第二章 パートナーセレクト 7

                                ☆


 マネージャー科のホームルームを終え、教室を出ると、ロングスカート姿の女教師を目で捉えた。


あの髪型は藤沢だな。


 ちょうどいい。折角だから先程の件の話をしよう。


「藤沢」


 生徒の前ではないので普段のように呼び捨てになる。


「なんですかー?」


 私が声をかけると、くるっと一回転をして藤沢は振り向いた。


「……なにを考えているんだ?」


「えー? さっきのやつですかー?」


「あそこでは発言を避けたが大元の言う通りだ。あんな公開処刑のようなやり方は関心しないな」


 大元に堪えろとは言ったが、私も概ね同意見だった。大元にこれが取引先なら取り返しがつかない事態なっていたかもしれない。と、糾弾したが、時には取引先であっても抗議をすることも大切だ。


 いくら取引先だからと言ってもなんでもかんでも言わせていいわけではない。


 ただ、あいつにはまだ上手く抗議をするだけの知識や経験が足りていない。


 だからあの場では敢えて注意をした。おいおいあいつ自身が学んでくれることを信じる。


「私、なにか間違えたことを話しましたー?」


 確かに藤沢の言う通りアイドルとしてやっていくならこれから先辛いこともあるだろう。


 夢を目指すためにはあのくらいの発言は乗り越えなければならないのかもしれない。


 だが、ここは教育機関だ。


 あのように追い詰めるような発言を教師がしていいとは思えない。


 私も多少厳しい言葉は浴びせるがあそこまで露骨に追い込むことはない。


「お前は教育者だ。私も相手によっては汚い言葉を選ぶ。だが、あそこまで行くとパワハラのように見えるぞ。ただでさえ最近は業界全体もうるさくなっているんだから注意しろ」


「私がただ悪口を言っているーってことですかー?」


 私は押し黙ってしまった。藤沢の元来がんらいの性格上人をいたぶるのを楽しむ傾向はある。ただ、こいつが人に対して激しい罵倒ばとうをするときには意味があることのほうが多い。


 特に藤沢は自分が一目置いている人間には厳しくする。だが、あの袖浦という少女は藤沢が注目するような人間とは思えない。


 厳しい見方をすれば彼女はアイドルに向いていない。あの人数相手に喋れない。ダンスもろくに踊れない。


 なぜここに彼女がいるのかが不思議だった。


「……お前は彼女に期待しているのか?」


「ふふ、どうでしょうねー?」


「正直に言わせてもらおう。彼女は即刻転科するだろう。無理に傷つけるな」


「天野さんー。現場から離れて勘が鈍ってませんかー? 皺の数を見るのに忙しいんですかねー」


勘が鈍っている、か。確かに私はもう現場からはかなり遠ざかっている。


 今はマネージャーとしての素質を見る目を鍛えていて、長いブランクや見方の変化によって、どのアイドルがいい、という目利きには私自身、鈍っている感覚はある。


 それ故に勘が鈍っていると言われても反論はできなかった。


 ただ、皺がどうこうっていうのは関係ないだろ。


「若作りしている小娘がよく言う」


 藤沢は私の言葉に明らかな不快感を示す。先に仕掛けたのはそちらなのにな。だが、すぐさま切り替えたのか言葉を発した。


「とにかくー。私には私の考えがあるのでー」


 これ以上言っても無駄かもしれない。私がとやかく言ってこいつが反省した試しなんてないしな。


 とりあえずこいつはこいつなりの考えがあるのだろう。私は先輩として念のため釘を刺すだけに止めておく。


 それから大元についても言っておかないとな。


「あまりやりすぎるなよ。後は大元についてだ。あいつがホープスターで雑用ではあるが、働いてることが知られれば不満の声が上がるだろう。それは前に話しをしたな」


「……ねぇ、天野さんー大元君についてどう思いますー」


神谷(チーフ)が認めたんだ。隠れた実力はあるんだろう」



「ふふ、私知ってるんですよー彼の合格の裏には神谷チーフ以外にもあなたが関わっているの」


「だとしたらどうしたんだ?」


「別になにも言いませんよー。ただ、あの子は絶対芽衣ちゃんと組んでもらいますからね」


 こいつはなにを考えているんだ。あの多目的ホールでの一件で大元からなにを感じ取ったのだろう。


 藤沢目線で考えればただの生意気な生徒にしか見えないはずだ。


 大元の前期試験での成績をこいつはしらない。


 事が事だったので大元の前期試験での行いを知っているのは私と、神谷チーフだけだ。


 だが、よくよく思い出してみれば藤沢は大元と袖浦を見てなにか頭を働かしていたな。


 わざわざ大勢の前で特別扱いされてる、なんて発言したのも意味があるのだろうか。


「……読めんな。お前が大元の実力を測れたようには思えんが」


「ふふ、女の勘ですー。たぶん芽衣ちゃんにはあの子が必要なんですよー」


「パートナーセレクトについては生徒達自身が選ぶことだ」


「選ばせますよー」


「教師が介入するのはどうかと思うぞ」


「私は『輝石学園生』のためなら喜んで悪役になりますよー」


 藤沢はそれだけ言うと、止めていた足を動かし始めた。


 藤沢の考えがわからないな。


 確か大元のような気の強い男は藤沢の男性としての好みだとどこかで聞いたことがある。


 なんでも、そういう人間を屈服させるのが好きなんだとか。


 だが、そんな理由でお気に入りの生徒のパートナーにさせようとは思わないだろう。


 私の意見としてはそれでは大元が道連れにされてしまう。


 そうなれば私と神谷(チーフ)が推薦ポイントを与えて無理をして入れた甲斐がなくなってしまう。


 私としてはエマ・ナイトレイと大元が組むのがベストだと判断していた。


 他の人間だとナイトレイを取り扱えないだろう。


 彼女の知名度は飛び抜けているし、あいつはワガママで物事をはっきりと人に伝えるタイプだ。


 ナイトレイと一緒に行動するなら心が強いものでないと、彼女の知名度と、言動に押しつぶされてしまう。


 その点は大元のような芸能界をろくに知らずに無知な人間のほうが上手く手綱たずなを握れる可能性がある。


 それに大元の能力なら十分にナイトレイと一緒に仕事ができるはずだ。


 この二人なら確実にお互いを高めあえるだろう。


 だが、先程も言ったがパートナーを決めるのは生徒たち自身だ。


 私の思い通りにはいかないだろう。藤沢も同様にどんな手を使っても思い通りにはならないかもしれない。


 ひょっこり、私達二人が想像しないような人物とくっつくかもしれないな。

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