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Kanの短編集

恐怖の侵略者

作者: Kan

 ある日突然、高度な発展を遂げた未来の地球に、宇宙から未確認飛行物体がやってきた。

 長身の青年は、空に浮かんだ円盤状の飛行物体を指差して、

「お皿だ。お空からお皿が落ちてきたぞぉ」

 と叫んだ。

「でも、お皿にしちゃ、だいぶ大きいね」

「それに分厚すぎるよ」

「馬鹿だなぁ。君たち、あれはね、灰皿っていうんだよ」

 難しいことはコンピューターに任せっきりで、すっかりアホと化していた、地球人たちは口々に言った。

「えー、灰皿ってなあに」

「なんでも、空の上からたまにやってくるものらしいよ」

「へー、じゃあ、あれがそれなの?」

「きっと、あれがそれなんだよ」

「へー」

「へー」

「へー」

「あれが灰皿かぁ」

 地球人たちは、顔を見合わせて満足げに頷いた。

 UFOの中から、人相の悪いタコが出てきた。

「ぎゃあ」

 地球人たちは怖くなって逃げ出した。そして、地面に倒れるとみんな両手で自分の眼を隠していた。

「なんじゃぁ、この見るからに馬鹿そうなヤツらは……」

 タコは、鼻水を垂らした地球人の顔を見まわして、呆れたように言った。

「わしらは、宇宙の侵略者じゃあ。貴様ら、よお覚えとけよ。今に後悔することになるんで」

 タコは地球人をするどく睨みつけた。

「し、シンリャクシャってなんだ……」

「いきなり難しい言葉を使ってきたね……」

「ねぇ、調べよ。調べよ」

 地球人たちは慌てて、スマホで侵略者の意味を調べ出した。しかし、しばらくして、

「やめよ。わかんないよ」

「もう、めんどくさいよ」

「やめよやめよ」

 地球人は、スマホを放り投げて、地面にごろごろし始めた。

「なんじゃぁ、こいつら……」

 タコはだんだん気持ち悪くなってきた。

「コンピューターに任せっきりだから、お前らのような馬鹿が生まれてくるんじゃ。どれ、総理大臣でも出さんかい」

「総理大臣ってなあに」

「大統領でもええから、代表者出さんかい」

「王様のこと?」

「それじゃ!」

 しばらくすると、口ひげをたっぷり生やしたおじさまが飛行機に乗ってやってきた。

「はい、私が王様です」

「お前も見るからに馬鹿そうじゃのぉ」

「は? ば、馬鹿とは……」

 少し精神的に来たらしく、王様は、少し目を潤ませながら、

「ご、ご用件は……」

 と質問した。

「わしらがこの星を頂くことにした。まあ、貴様らは大人しく奴隷になるか。他の星に移住するかしたらええわ」

「はあ」

「もっと驚かんかい」

「いえ、少し……つまり私たちはどうしたら良いのでしょう」

「だから、さっき言っただろ。奴隷になるか、他の星に移住するか」

「それでしたら、一応、政府のコンピューターに相談しませんと……」

「そうやって、ペリーやハリスが来た時も先延ばしにしたんじゃろぉ。その手には乗らんわい。今すぐじゃ。今すぐ回答せんと、貴様の命はない」

「ええと、奴隷になるか、他の星に移住するか、ですよね……」

 王様はスマホをいじりだした。しかし、手が震えてスマホが押せない。

「だ、駄目だ……」

 王様は怖くなって泣き出してしまった。

 その様子を、ぼんやりとタコは眺めていた。

「なんだか、侵略するのは悪い気がして来たのぉ」

「なんでですか?」

「あんたのその愚図さがあかんのですわ。ああ、わしのせがれ、そっくりですわ」

「お話を聞きましょう」

 タコは遠い過去を振り返った。

「わしのせがれはそれはそれは泣き虫じゃった。あんたらと同じく、コンピューターが好きでな。ゲームばっかりしておった。家に帰れば、あの鼻垂れは床にごろごろしておったもんよ」

「それはそれは……」

「そのせがれが、小学校の修学旅行でな。突然、うちに電話がかかってきよった。嫌な電話じゃった」

「……」

「せがれは、火星の谷底に落ちて、死んでしもた。事故じゃった……」

 タコは涙をぬぐった。

「愚図な貴様らを見ていると、せがれを思い出してしまうわ。もう、侵略する気なんて失せた。わしはどう責任取らされるか知らん。それでも、わしは帰る」

 タコはそう言って、哀しげに微笑むと、飛行物体に帰って行った。そして、飛行物体は逆さまの流れ星となって、空に消えていった。

 それを見て、王様は言った。

「馬鹿な振りをして良かったなぁ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宇宙の戦略者、タコ(火星人?)さんと王様の会話、ふたりのやり取りが面白かったです! 「だから、さっき言っただろ」とか「もっと驚かんかい」など、緊張感のない気の抜ける可笑しさに笑えました。 …
2018/08/19 17:05 退会済み
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