第7話「地獄遍路の襲撃者①」
「地獄の案内人の登場か」
目の前で唸り声をあげる小鬼を見て、俺は淡々と自分の死を受け入れた。こんな生き物はまず地球にいない。どうやら『計画』は成功したようだ。それにしても喉の渇きやナイフを振るった腕の疲労感が妙に生々しいな。それに縄のこととか納得いかない点もあるが、この際いいだろう。さて、大人しく連れていって貰おうかと先程から両手を差し出しているのだが、小鬼はこちらを睨んで唸るばかり。
「おい、ぼさっとしてないで早く閻魔大王の所にでも連れてけよ」
因みに地獄と聞くとすぐ頭に浮かぶ閻魔大王様だが、実際には閻魔大王含む十人の裁判官が死者を裁くのであって、閻魔はその一人に過ぎないらしい。また生前にこの十人の裁判官を信仰すると死後、裁判を免除されるのだとか。この様な考え方・信仰を「十王信仰」と呼ぶ。
ってそんなことはどうでもいい。この小鬼、何を思ってかその手に握られている鉈を此方に振りかざすと、勢いよく飛びかかってきた!
「ちょっと待てよ! 何で襲ってくるんだよ!? 」
「グギャグゲエ! 」
小鬼の襲撃をなんとか避ける。幸い周りには身を隠せる程の背の高い植物が生い茂っているため、避けるのはそれほど難しくない。が、小鬼が諦める気配もない。どうしたものか。
「ググウ、ギャギガガ! 」
「しつこいなあ! いい加減に」
その時、後ろからもう一体の小鬼が現れたことに俺は気づかなかった。ただ目の前の生き物を殺すという明確な「殺気」だけは背中で感じることができた。「これはやばい」そう思った時、頭の中でピコーンッと何かが鳴り響いた。
ーーーー選択して下さい。対象を『拘束』しますか? それとも『無視』しますか?ーーーー
何だコレ? でも今はそれどころじゃない。殺されるんだ。他人の手によって。俺の意思なんて関係なく殺される、殺される。そんなのはゴメンだ!!! くそ、さっきから必至に体を動かそうとしているのに全く動かない。というより世界が停止している?
ーーーー選択して下さい。対象を『拘束』しますか? それとも『無視』しますか?ーーーー
まただ。頭に響くというより耳元で囁かれてる様な、でも無機質な冷たさをもつ『声』。
ーーーー今の私はあなたの……守護霊です。早くしないと死にますよ?ーーーー
謎の声の冷たさが一段階上がった気がした。これ以上は待たないって感じだ。でも拘束ってどうするつもり……
ーーーーあなたのリュックサックに入っている縄で二体のゴブリンを無力化しますーーーー
思考は完全に読まれている様だ。じゃあ無視したらどうなるの?
ーーーーこのまま切られて千切られて喰われて、終わりです♪ーーーー
何故だろう。上機嫌に聞こえるのにその反対の意思が感じられる。てかそれだったら『拘束』に決まって……
あれ?
「守護霊さん、俺ってもう死んでるんだよな? だったら何されても意味なくないか? 」
「……」
そうだよ。俺もう死んでるだよ。殺す殺さないも『命』があるから大事になるんであって、ああなんだかもう考えるの面倒臭くなってきた。『無視』でいいや。
ーーーー……選択を確認。実行しますーーーー
その声をきっかけにさっきまで止まっていた世界が、時が動きだした。
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