一話「俺は、俺なりに俺している」
俺は最強だww
フラグ回収完了ですww
……うるさいな。
そう思うと同時に意識の覚醒を感じる。
と、不意に俺の体が大きく揺さぶられるのがわかった。
「うぉっ!?」
寝ぼけた顔でそう漏らす俺は、勢いよく顔を上げる。
目の前には、見たことも無いほど美しい少女が一人。周囲は、彼女を中心にものすごい喧騒に包まれていた。
誰だろうか?物凄く美しい。スラリとした体に白い肌、大きな瑠璃色の瞳に金髪のポニーテール。 軽い金属製のプロテクターをいくつか纏い、ニーハイソックスと黒いプリーツスカート。腰には、上物らしき細剣を一本さしている。
俺は素直に思う。
……なんだ。夢か……。と。
そして、再びテーブルに突っ伏しかけた俺は、今度は襟首を掴まれて無理やり起こされる。
「ぐぇっ!」
なんじゃぁ!?これ、女の力か?しかも、こんな若い子の……、やっぱり夢か。……でも珍しいな、俺がこんな夢を見るなんて、よっぽど彼女が欲しいと見える。じゃなければ、こんな怪力の美少女の夢なんてみない。ましてや、締め上げられる夢なんて……。
締め上げられつつそんなことを考えていると、美しい少女は口を開いた。
「あなた、私と組みなさい。他の男は、みな下心見え見えで貞操の危機を感じるわ。だ・か・ら、あなた。私と組みなさい!」
そう言って彼女は俺を下ろすと、無理やり俺の手を取った。
「は?」
あまりにも唐突過ぎて、変な声を出してしまう。状況がのめない。
そう思っている間にも、初対面の少女は、強引に俺の手を引き村の集会所を出て行く。
「いや、ちょっと待てよ!」
集会所から出たところでようやく思考のハッキリした俺は、少女の手を振りほどくと言った。
「アンタ誰だよ?組むってなんだ?いきなり過ぎて分からん。つか、いてぇよ!なんなんだよアンタ!」
すると、彼女は振り返ると不思議そうに小首を傾げる。何ソレめちゃ可愛いんですが……。
「あなた……まさか本当に寝てたの?今の話聞いてなかったの?」
心底驚いた様子の彼女に俺はカチンと来る。
「うるせぇな!そうだよ。寝てたよ。悪いか!!つか、誰だよ!いきなり締め上げやがって!名乗れ!!!」
彼女の言葉に、早口でまくしたてるように言うと、少女は「あちゃー」と言った様子で額に手を当てる。
「あぁ……聞いてなかったのね……そぅ。なら、私が悪いわ。起こしてしまってごめんなさい」
よく分からんが、とりあえず素直に頭を下げたのでよしとしよう。それよか、はよ名乗れ。というか、誤るとこそこじゃなくね?
そんなことを思っていると、彼女は再び俺の手を取った。
「でも、やっぱりアナタ、私と組みなさい」
「なんでそうなる。つか、説明しろよ。話が読めん」
俺がそう言うと、彼女はハッとしたような顔になり、ため息をつく。
「そ……そうね。ごめんなさい。説明するわ。とりあえず……場所を移しましょ?」
そう言った彼女は急に大人しくなると、やはり俺の手を引いてトボトボと歩き始めた。
しっかりに握られた手を見て、俺は苦笑いを漏らす。……こいつ、どんだけ俺を逃がしたくないんだよ。
×××
ゼボリア村の春は、少し遅い。山間部に位置するこの村は、冬明けのシーズンとなっても寒さが残り時折雪がちらつく。
俺ことカリア・エクスロードは、この村でハンター、いわゆる[魔物狩り]を行い生計を立てていた。
故に常日頃から、対魔防護加工の施されたレザーコートセットに、背には三本の属性別魔術剣を装備している。おそらく彼女も俺のそんな姿を見て声をかけたのだろう。
そう思いつつ俺は、少し先で早くも小型の魔物を斬り伏せる彼女を見た。
あの後、彼女はフィリーネと名乗った。フリーの魔物狩りのやっていて、各地を旅し様々な魔物を狩っているらしい。見たことろそこそこ以上の実力者なのだろう。先ほど上物と称した細剣も、改めて見ると、立派な一級品だった。
彼女の目的は、ゼボリア周辺に出没する大型モンスターの討伐。そして、そのモンスターから採取できる希少魔石を手に入れることらしい。準備として、地理やモンスターの傾向を知っている地元のハンターの連れが欲しい。
そこで、そのことを集会所のハンター達に伝えたところ、みなこぞって手を挙げたとのことだ。
しかし、全員が明らか下心見え見えの目をしていた為、嫌気が差した。その時に丁度テーブルに突っ伏した俺が目に入ったのだと言う。
フィリーネは、襲って来た魔物の群れを一人で片付けると、こちらを振り返る。
「ほら。何してるの?いくわよ」
ポニーテールをさっと揺らし、踵を返す彼女。
なんか立場違うくね?俺手伝ってやってるんだよ?ねぇ。とか思いつつ、俺は、「はいはい」と返し足早に彼女を追う。
しかしまぁ、正直悪い話じゃない。討伐成功の暁には、魔石以外の部位および、討伐報奨金の三分の二を俺が貰うことになっている。あと、美少女と二人で会話しながら、仕事できるオマケ付きだ。でも、結局のところ、フィリーネと俺の貰い分を計算すると大した差異は無いのである。それだけにあの魔石は価値がある。
ディアルトマテリアス晶石。魔石の中でも希少クラスの水晶体である上、加工すれば一級品を遥かに凌駕できうる性能の魔術武器をつくれるのだ。一部の大型モンスターの体内で生成されることから、戦闘での採取が必須。その分値が増すというわけだ。
今日狩る炎属性龍種[ガルマダラ]も、そうとう報奨金のはるモンスターで部位も高く売れるが、下手すればディアルトマテリアスの方が高く付く。まぁ別にいいんですよ。オマケが俺に取っては価値が高いからプラマイ同じです。ふへへ。
そう考えている間にも、戦闘ではフィリーネが次の魔物との戦闘を始めていた。手助けするような相手じゃないかも知れないが、あんまり任せきりなのも気が引ける。
俺は自らの背に手を回すと、赤黒い刀身の愛剣[ヴェラータ・ディウス]をゆっくりと抜き放った。
「さぁて。やりますか」
前方には、全身を甲殻で覆う獣人種のモンスターが十。そして、今一体がフィリーネに倒されたので残り九。
俺は、剣を上段に構えると地を蹴った。
瞬時にフィリーネを追い越し、俺は剣を振る。流れるような動きで体を捻り、素早く剣撃を次々に行う。炎属性魔術剣であるヴェラータ・ディウスからは、振り抜く度にその刀身から火花が散る。ヴェラータ・ディウスは、炎を操るタイプの超級魔術剣。オーソドックスに爆炎で凪払うこともできるが、今のように刀身に爆炎を圧縮し、高熱で焼き切るスタイルの方がシンプルでいい。
九体全てのモンスターに攻撃を加えた俺は、立ち止まると剣を払い背に納めた。
直後、その背後で九の落下音が響く。僅か一瞬の出来事だったが、今の一瞬で俺は九体のモンスター全ての首を跳ねたのだ。
フィリーネが息をのむのが分かる。
俺は、首をコキリと鳴らすと振り返る。
「フィリーネ。君は運がいい。偶然とは言え、[銀狼]に目を付けたんだからよ」
その言葉にフィリーネが目を見開いた。
[銀狼]。それは、俺の異名。白銀の髪と瞬間決着型の戦闘スタイルからついたものだ。
実のところ俺はハンターの中でもランクSに区分される超上級者である。別にモンスター専門なので、S=最強の戦士では無いのだが、世間では俺を[銀狼]と称し、やれ地方最強の男だとか言っている。実際、確かにそこそこ強いと自負するが、対人相手に最強とはとても思わない。しかし、見たことフィリーネもその間違った認識で俺を見ているようでさっきから、顔色的にビビってるのがよく分かる。
あとあと勘違いされたままだと面倒なので、俺はそのことをフィリーネに話す。
話を聞いたフィリーネは、なるほどと言った様子で息を吐いた。
「そぅ。そうだったのね。てっきり[銀狼]ってとんでもなく偉大な人と思ってたけど……違うのね」
「いや、待て。最強じゃないだけで、すごいからな?Sだぞ?S。この地方じゃ俺含めて二人だぞ?」
すると、フィリーネはため息をつくと上目使いにこちらを見ると、チロリと舌を出す。
「そぅ。でもそのもう一人って私だから」
え……
その言葉に硬直する俺。ちょっと待て……もう一人のランクS……ということは……
冷や汗を垂らす俺をよそに、彼女はニッコリと微笑むと手を差し出して来る。
「でも良かったわ。あなたがランクSなら、もっとペース上げていいわよね?改めてよれしくね[銀狼]さんっ」
あまりにも晴れやかで純粋な笑顔にドギマギしつつも引きつった笑いを浮かべる俺は、恐る恐るその手を握る。
「ど…………どうも[鬼姫]さん。よ……よれしく」
日の暮れようとする森林地帯に。俺の動揺丸出しの声が情けなく響いた。
……マジか
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